第五十二話 ポンコツ六魔侯爵
シロに続いて、次の天幕で俺を待ち構えていたのはサキュバスのアルプだった。
「ふふっ。ようやく来たのね」
彼女は俺を待ち構えていたようで、入口のすぐ前にいた。
局部しか隠れないような衣服で、四つん這いになっている。
「どうした? 何か落ちてるのか?」
「……セクシーポーズに見えないかしら」
「え、あ、ごめん」
びっくりするくらい何も感じなかったので、セクシーポーズだとは思わなかった。
アルプは肉付きのいい体つきをしている。胸もとても大きくて、触るとムチムチしてそうな感じである。しかし太っているわけではなく、くびれている部分はしっかりとくびれているのだ。スタイルは良いのだろう。
だけどなー……まったく琴線に触れなかった。
「うふぅん。どう? 私のこと、好きにしてもいいのよ?」
今度は足を開いて舌なめずりをしている。何やら言ってるのだが、興味が欠片もないものだから不思議だった。
「とりあえず服着たら? 風邪ひくぞ」
「……なんでよっ! 違うでしょう? ほら、私ってとてもエッチでしょう? どうしてそんなに平然としてるのよ!」
あ、なんか怒ってる。まぁそうだよな……薄々察していたのだが、アルプは俺を興奮させようとしていたのだ。今回、六魔侯爵に与えられた任務を全うしているのである。
「そう言われてもな……」
頬をかきながら、改めてアルプを観察する。
身長も頭身もほどほどに高く、顔立ちはシャープで整っており、おっぱいはこれでもかというくらい盛り上がっている。腰つきはシュッと、お尻はボンッとなっており、太ももは艶めかしく曝け出されていた。
そのあたりを一通り見て、俺は首を振る。
「エロくないな」
「どこが!? 私、男性から見たら垂涎ものの体だと思うのにっ。特にこのおっぱい!」
自分で言うあたり、自信はあったようだが。
「残念だったな。今の俺はスーパーロリコン……おっぱいなんてただの脂肪だ。自分のお尻触ってるのと大差ないだろ」
これみよがしに俺は自分のお尻を揉んでみた。うん、柔らかい。脂肪という点でみれば、お尻もおっぱいも大差ないと思った次第である。
「こ、この私の、おっぱいが……お尻と、同じ? ふ、ふざけないでっ」
アルプはエロさという点に関して誇りを持っていたのだろう。かなり狼狽えていた。
とはいえ、今の俺はアルプにエロさを感じないのは事実。
「違う。顔立ちはもっと丸っこくあるべきだ。シャープである必要はないし、頭身はもっと低くていい。おっぱいなんてないようである程度で問題ないし、スタイルは寸胴の方がいんだ。太ももに余計な脂肪もいらない。ちょっと骨ばってて、かつ触ったらぷにぷにしてるくらいがいいな」
アルプとは正反対の体型こそ、今の俺が求めるものだ。
「あと、表情は笑顔がいい。煩悩に支配されてるメスの顔なんてありえない」
粛々とダメだしを続ける。
サキュバスの彼女は、童貞の俺にそんなことを言われて悔しがっていた。
「くぅ……なによ、勇者時代は私のこと舐めまわすように見ていたくせにっ。このロリコン!」
「べ、別に見てねーし……あの時の俺は若かった。おっぱいが至上だと思ってたんだけど、魔王と出会って真理に到達したんだ。悪いな、アルプ」
胸元を抑えながら睨んでくるアルプに、俺は背を向ける。
そして、去り際に一言。
「幼女になってから出直してくれ」
そう言ってやると、アルプは耐え切れなくなったように泣き出すのだった。
「っ~! ばーか! ロリコン! ヘタレ童貞!」
「ど、どど童貞は関係ないだろ!? 悔しいからって侮辱するのはやめてもらおうかっ。まずはその胸にぶら下げてる脂肪をダイエットしてみせろよ!」
「こ、これが私のチャームポイントよ! 見てなさい……絶対に、あなたを虜にしてみせるわっ」
「やれるものならな!」
そう言って俺は天幕を出ていく。
「ロリコンめ! 覚えてなさいよ!!」
最後までアルプは泣きわめいていた。
プライドが刺激されたらしい。素直にロリサキュバスでも仕向けとけば、普通に誘惑されてたと思うんだけど……まぁ、興奮したかどうかは別にして。
「さて、アルプもダメか」
六魔侯爵二人ともポンコツだった。シロもアルプも見通しが甘い。
これは期待できないかもしれない。その不安は、次の天幕に顔を出した瞬間に的中した。
「おう、勇者じゃねぇか! 元気そうだな、下半身の方は元気じゃないみたいだけどな!」
「デビルか……」
悪魔侯爵のデビル。戦闘時は手を焼かされたものだが、こいつは少し頭が弱かった気がする。
端的に言うとバカなのだ。
「おらよ、てめぇのために男を見繕ってやったぜ! 存分に楽しめ」
ほら、こうやって的外れなことを言う。天幕の中にいる悪魔族の男性二人も、苦笑いを浮かべていた。上司がアホで可哀想な限りだ。
「……お前さ、戦ってる時も言ったけど、頭をもう少し鍛えた方がいいぞ? 力は四天王クラスなのに、そんなんだといつまで経ってもバカって言われ続けるぞ?」
「あ? 俺様は天才だろうが。普通の生物に俺様の凄さを理解できてたまるかよ」
「そうか」
無自覚なバカか。それでも、戦闘時になれば魔王の言うことに絶対服従するタイプなので、足を引っ張ることこそないが……目を離せないタイプでもある。なかなかに扱いどころが難しい奴だ。
嫌いではないんだけどな。
「じゃあ、今度また宴会でも開くときに呼んでくれ。今日は気分が乗らないから、そこにいる魔族たちも大人しく帰してやるといいよ」
「んだよ、だったら仕方ねぇな。おら、さっさと行け。てめぇらも帰っていいぞ! 俺様は筋トレして帰る」
デビルはバカだけど素直なので案外周囲からも慕われている。俺の言葉を聞き入れて、男性悪魔二人も帰すことにしたようだ。二人はこうなることが分かっていたのか、軽やかに帰っていく。
そしてデビルも筋トレを始めたので、俺も天幕から出て行った。
あれだな……やっぱり魔族って戦い以外だと微妙だと思った。
それも仕方ないことか。俺の性欲を取り戻せ、なんて突拍子もない命令を実行できる方が、もしかしたらおかしいのかもしれない。
「魔王には悪いけど、適当にやろう……」
そう思って次の天幕を訪れると。
「ふわぁ……お酒足りないのぉ」
「美味いわね! 毒だけど、依存物質が入ってて、悪くないわ」
「……っ! !」
酒を飲みかわす、二人の六魔と修道女がいた。
神魔侯爵、討魔侯爵。そしてニトである。
なんでニトがいるのか……分からないが、既にできあがってる三人を前に、俺は肩をすくめるのだった。
魔王には悪いけど、やっぱり性欲なんて戻せそうにない。




