表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/143

第四話 幼女魔王とイチャイチャ

 酒の席はなおも続く。

 いい感じに酔いもまわってきて、心に抑え込んでいた感情や欲望が口からドバドバと零れ始める。


「ちくしょうがぁ……やってられっかよぉ」


「まあまあ、とりあえず飲め。飲んで忘れるのだ」


「うぅ、魔王は優しいな……性格も良いし、顔も可愛いし、文句なしだ。本当に隣に置いてくれてありがとうなぁ」


「か、可愛いとか言うなっ……照れるだろう」


 ベッドの上で、俺は魔王と肩を組んで酒を飲んでいる。

 彼女は俺と違って酔ってないようだ。酒には強いらしい。


 だが、アルコールが入って体が火照ってはいるようだ。

 酒を飲んだ上に俺に絡まれてもいるので少し汗をかいている。


 うなじに流れる汗は、なんか艶めかしい。


 そのせいか、甘い匂いが漂ってきていた……体臭なのだろうか。そう呼ぶにはちょっとためらうくらい、良い匂いがする。


「魔王……もっとくっついていい?」


「ん、んんっ? よ、良いぞ」


 酒も入っているせいか、セクハラじみた言動が自然になってきている。


 されども魔王は嫌な顔せず、それどころか許してくれる始末。

 本当に優しい奴なんだと思った。


 お言葉に甘えて、彼女を胸に抱きよせる。赤い顔の魔王はされるがままだった。


 頭頂に顔を寄せて、深呼吸。あ、まずい。


 お日様と汗の入り混じった甘い匂いだ。

 むせ返るほどの魔王の香りになんかムラムラしそうだったので、慌てて顔を離す。


「なあ、勇者……貴様は、その、他のメンバーにもこのようなことをしていたのか?」


 と、ここで魔王がこんな質問をしてきた。


「え? なんでいきなり?」


「いや、なんというか……ふと、我以外にもこんなことをしていたのかと、気になってな。いわゆる嫉妬というやつかもしれん」


「嫉妬っていう割には、可愛いなそれ」


「からかうでない」


 頬を膨らませる魔王に、俺はゆっくりと首を振った。


「心配要らねぇよ。誰とも、こんな風にくっついたことはない。そもそも、今思うと俺はあいつらと仲良くなんてなかったかもしれないし」


 思い返すは、勇者パーティーとして魔法使い、僧侶、武闘家、戦士と旅をしていた日々のこと。


 表面上は仲間のようで、実は俺たちの関係は薄っぺらいものだった。


 ただ、共に旅をしているだけの同行者でしかなかった気がする。


「ほう? 仲間なのに、また異な関係だな」


「まあ、俺は仲良くしようと努力してたけどな……ほら、俺たちって基本、お互いのことを職業名で呼んでるだろ? あれ、勇者パーティーの昔からの慣習なんだ。でも、それだとあまりにも素っ気ないから、みんな名前で呼び合ってみないかって提案したことがある」


「そうなのか? 我も勇者の事、名前で呼んだ方が良いか?」


「……名前は捨てたからなぁ。できれば、そのままがいいかも。魔王とは、別にどう呼び合おうと関係ないくらい、仲良くなれそうだし」


「ふむ、我も勇者に関しては何も心配しておらんしな。まあ、そのように呼ぶのに慣れているし、当分はこのままでも良いか」


「そうしてくれ……って、おっと。話がそれたか。とにかく、呼び方を変えようかなって思ったことがあってさ」


 勇者パーティーとは、代々人間界を守る一番の戦力であった。


 だから、名前など捨て、人間界のためだけに死力を尽くせ――という意味で、パーティーに加わると名前を隠さなければならなかったのである。


 それを撤廃して、みんなとの距離を近づけようとしたわけだが。


「拒否されたよ。今更、こんなことに意味はないって……要するに、あいつらは仲良くなることなんて求めてなかったんだ。ただ、俺についていけばいいって思ってたらしい。その頃にはもう、俺が強くなりすぎてたから」


「なるほど。勇者に全て任せればいい。自分たちは何もしなくていい。ただ、名誉や報酬のために、ついていくだけでいいと、そういうことか?」


「概ね正解。その時に気付いたよ……俺たちは、もうダメなんだって。いつから、あんな風になってたんだか」


 軽く息をつけば、そっと魔王が俺の手を握ってくる。

 その温もりに癒されつつ、されども言葉は止まらずに次々とあふれ出た。


「昔は良い奴らだったんだ。魔法使いは、俺の先輩であり、良い兄貴分で……色々なことを教えてもらった。戦い方も、立ち振る舞いも、あいつが俺に教えてくれたんだ。小さい頃、俺はあいつの後ろばっかり追いかけてた」


 だが、魔法使いは変わった。

 俺が強くなり、功績を上げ始めたあたりから、俺を無視するようになった。上辺だけの会話以外、交わさなくなった。


「僧侶は、俺と一緒に魔法使いの後を追いかけてた幼馴染でさ……率直に言うと初恋の相手だったりする。あいつも、幼い頃は俺に笑いかけてくれたりしてたんだ。最近は無表情しか向けてくれなかったけど」


「……今でも、好きか?」


「それはない。いや、好きだったという気持ちも、本当はどうだったのかな……あいつが隣にいたから、ずっと隣に居るべきで、俺が守るべき存在なんだって、勝手に思い込んでたような気がする……ま、初恋には変わりないけど」


「そうか。なら良い。まだ好きとか言われたら、我が失恋のショックで人間界滅ぼすところだった」


「こらこら」


 軽く頭を叩くと、嬉しそうに相好を崩す魔王。本当に可愛い奴だなって思う。


 無邪気な笑顔は、かつての後輩二人を想起させた。


「……武闘家と戦士の二人はさ、俺が直接面倒を見た唯一の後輩なんだ。才能はまったくないけど、根性と負けん気だけは強くて、いつか二人が俺を追い抜いてくれるのかなって期待させてくれた。でも、ある程度強くなったところで、二人は前に進むことをやめてしまった」


 誰しもがぶつかる、実力の壁だ。

 これを乗り越えれば、二人のさらなる成長が促されるはずだった。


 しかし、二人の心はあまりにも脆く、簡単に挫折して……これ以上、強くならなくなってしまった。


 それは、俺という存在がすぐ近くに居たせいかもしれない。

 あまりにも実力に差がありすぎて、二人が目に見えてやる気を失っていたのを覚えている。


「いつしか無気力になって、適当に生きるようになって、それで最後は金魚の糞状態だ。俺、師としての才能はないんだって、その時に気付いたよ」


「何を言うか、阿呆め。勇者が悪いのではない、そのゴミ二人が悪いのだ。貴様が自分を責める必要がどこにある」


「……そう言ってくれる魔王が、俺は好きだよ」


「す、好きとか言うなぁ」


 途端に挙動不審になる魔王。

 褒められたり、好意を寄せられたり、そういったことには不慣れなようである。反応がかわいかった。


 これからも遠慮なく褒めまくったり、好きと言うことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ