第四十四話 幼女にもみもみされるだけのお話
エルフの世界『イェソド』の一角には儀式場なる場所があった。
ここは名前通り、儀式を執り行う場所である。
あまり広くはない小屋のような建物。中に入ると、既に準備は整っていた。
床には魔力の循環を良くする魔方陣が描かれている。
「はい、これ飲んで。『増強薬』という体を元気にするアイテムよ……厳密にいえば、体の機能を向上させるの。これで性欲も上げるってことね」
「なるほど……」
小瓶に入った黄色い飲み物を口に含む。少し薬臭かった……ともあれ、飲むとすぐに体が熱くなったので、効果はありそうだと実感する。
「飲んだら、魔方陣の上に寝なさい。うつ伏せになって、リラックスするといいわ。あと、服は脱いで」
「え? 服も脱がないとダメか?」
「もちろんよ。マッサージは直接触れないと効果が出ないわ」
アトレの指示通り、俺は服を脱いでうつ伏せになる。一応、腰元にはタオルを巻いているので丸出しではないが……落ち着かない気分だ。
「いい体してるわね」
アトレが俺の背筋に触れてくる。くすぐったい。
「なぁ、ちなみに誰がマッサージしてくれるんだ? お前か?」
「ええ、私も一応幼いから、マッサージはできるわよ。ただ、やらないといけないことがあるから、ちょっと後になるけれど」
ちらりとアトレの薄い胸を眺める。ふむ、幼女だ……ぺったんこだった。
「エッチね。どこ見てるのよ」
「ふっ。今の俺は幼女に欲情できないから……エッチな気分になれねぇよ」
「そう。まぁ、この儀式で改善を期待したいところね」
さて、準備は万端である。
あとはマッサージしてくれる幼女が登場するのを待つだけだ。
「じゃあ、私はもう行くわ。もう少ししたら、貴方をマッサージする子が来るから待ってて」
そう言ってアトレは儀式場から出て行った。
待つことしばらく。薬の効果で汗ばんできた頃に、ようやくエルフ幼女が来てくれた。
「お、おじゃまします……勇者?」
聞き慣れた声である。
この声の主は――ミナエル・エロハことミナに他ならなかった。
エルフの幼女にして、俺の愛人である。ああ、こいつが来たのな……
「おう。ミナが俺をマッサージしてくれるのか?」
「ん、そうみたい。アトレ様にやれって言われたのっ」
ミナはやけに上機嫌である。
「ミナね、マッサージ得意なんだよ? お父さんにも、上手だねって褒められてたっ」
彼女の表情は明るい。
どうやら、俺が彼女の家から出た後、家族と上手くやれたらしい。
とりあえずそのことに安堵した。
そして、気兼ねなくマッサージをお願いできるな、とも。
「そうか。期待してるぞ……頼んだ」
「ミナに任せてっ」
満面の笑みで、彼女はおもむろに……俺の背中に何かをぶっかけた。
「ちょ、これ何!?」
「マッサージ用の……お薬かな? アトレ様に渡されたんだよ?」
ミナはしゃみこんで、俺の背中に手をつける。
それから、液体を俺の肌に刷り込ませるように、マッサージを始めた。
「んっ! どう? 気持ちいでしょっ」
小さな手がたどたどしく蠢いている。
はっきり言おう。めちゃくちゃくすぐったい。
かけられた液体がヌルヌルだったせいか、感触がこそばゆいのだ。
「っ……う、うん。気持ちいい、よ」
でも、ミナの無邪気な笑顔を曇らせたくなくて、俺は強がってしまう。
マッサージを気持ちいいと言った。それだけで、ミナはたちまちに破顔する。
「ミナ、上手だもん。いっぱい気持ちよくなってねっ?」
丹寧に、丁寧に、それでいてたどたどしく。
ヌルヌルが肌にしみこんでいく。背中、首元、腕、太もも、ふくらはぎ、などなど。
「やっ。んっ。えいっ。とうっ」
ミナが力を込めてむにゅむにゅしてくれた。
正直なところ、力が足りない。マッサージというよりは撫でられている感じがして、それがまたくすぐったかった。
でも、この時はまだ耐えられた。
ミナとじゃれている、だけだったのだが……
「――っ!?」
次第に、ヌルヌル液体の効果が俺の体に作用し始める。
敏感になってきたのだ。ミナが触れるたびに、身体がビクンと痙攣しそうになるのである。
あ、これヤバいかも。
そう思った時には、すでに遅かった。
「えへへっ。こうかな? 勇者、こっちがいい?」
「お、ふっ……そ、うだ、な」
体が燃えるように熱い。ミナが触れるたびに、脳内で変な物質が生成されるような。
痛くはない。むしろ気持ちいいけど……なんとなくヤバい感じがしていた。
「はぁ、はぁ……」
息が次第に荒くなってくる。
頭がぼんやりしてきて、視界が霞が勝ってきた。意識がおぼろげになってくる。
「てぃ! ミナのマッサージ、くらえっ」
ミナのマッサージが俺の体を刺激するたびに……思考能力が奪われて行っている気がした。
なるほど、これが『エルフ式性欲促進マッサージ儀式』なるものか。
貞淑なエルフだろうと性欲を引き出す、魔性の儀式だった。
ヤバい。何がヤバいかというと、俺の性欲がいよいよ膨らんできたというところがヤバかった。
今の俺は重度のロリコンなので、幼女に欲情しなくなっている。
でも、ロリコンなだけで性欲は普通にあるのである。
そのあたりが刺激されていたのだ。このままだと暴走しそうだ。
「――っ!!」
だが、勇者時代に培った精神力で、己の情欲を制御する。
まだ大丈夫だ。かつての俺は魔族とかいうアホみたいな戦闘民族に一人で渡り合った男なのだ。
そんな俺が、性欲なんかに負けてなるものか!
そう自分に言い聞かせること、二時間くらい。
「ふぅ……楽しかった! ミナ、満足っ」
どうやらミナの時間が終わったようだ。
彼女はニコニコと笑っている。家族とも和解できて、以前より明るくなっているような気がした。
無邪気でかわいい。
だから、こんな無垢な子に……欲情なんてするなよ、俺!
えくぼに指突っ込みたいとか思うなっ。ミナの汗を舐めたいとか、そういう欲求も沸き起こってるから厄介だった。
「また遊ぼうね、勇者!」
「う、うん……またな」
どうにか手を振ってミナを見送る。
ようやくひと段落だ。次の子が来るうちに精神を立て直さなければ――と、思っていたのに。
「じゃじゃん。私の登場よ」
よりにもよって今、アトレが出てきた。
「どう? 頭がおかしくなりそうでしょう? この儀式、どんなに貞操観念の強いエルフでも、正気を保てなくなっちゃうから……でも、勇者さんはやっぱりすごいわね。まだ、意識が正常だもの」
「そ、うでも、ない」
息が荒くて言葉も上手く喋れない。
どうにか首を振って、手加減してほしいと伝えたのだが。
「欲望のままに、私に手を出してもいいのよ? 愛人一号はミナエルになったようだから、二号を私にしなさい? そうすれば……ね?」
妖艶に笑うアトレ。今の俺には毒でしかなくて、奥歯を噛みしめることで己を保った。
「強情ね。じゃあ、儀式の続きをしましょうか……仰向けになって」
そして彼女は、俺に容赦してくれない。
仰向け……今? おいおい、やめてくれ。今、体の前面をマッサージされたら、いよいよ我慢できなくなりそうだ。
一応、息子の反応はどうにか抑えつけている。持ち前の精神力でこらえているが、これ以上刺激されると本当に我を失いそうで怖かった。
「む、むりっ。むりぃ」
「ダメよ。ほら、大人しくなさい」
拒絶も不可能。
頭がぼーっとしているせいで抵抗できなかった。
アトレにされるがままに、俺は仰向けとなる。
直後、こともあろうに……アトレが俺のお腹に、馬乗りになった!?
「お、おおぉおお……」
お腹に感じるアトレの体。彼女はセフィラだが、やっぱり幼女らしく……柔らかい。
「うふふ。どう? 私、自分の体には自身あるのよ」
ぺったんこのくせに何言ってんだよ。
普段ならそう言えたはずなのに、今の俺にその余裕はない。
「マッサージ、してあげるわね?」
ヌルリとした液体を手につけて、アトレが俺の胸元を撫でた。
小さなおててが触れる。ミナのたどたどしい手つきとは違って、強弱のあるマッサージらしい手つきだった。テクニシャン。
「――――」
これはもう、ダメだ。
俺は目を見開く。体が熱くてしょうがない。視線は無意識にアトレの方に向けてしまう。
「ねぇ……どう、かしら?」
妖艶な顔だ。幼女のくせに、エロい顔しやがって!
くそっ。意識が、制御できなくなってきた。
「ぁ……ぁ……ぁ……!」
手が、アトレに伸びる。
欲望のままに、彼女に抱き着こうとして――その直前。
「ふんっ!!」
俺は、手の軌道を捻じ曲げた。
進行方向を真逆に変える。拳をつくって、思いっきり力を込める。
つまり、何をしたのかというと……俺は、欲望に負けないために、自分を殴ることにしたのだった。
「ぐはっ」
自分の一撃が、頬にめり込む。
痛い。痛すぎて、意識が黒くなっていった。
気絶する……でも、良かった。
これで俺は、幼女に手を出さずに済んだのである。
まさにロリコンの鑑だった。
イエスロリータ! ノータッチ!
「……やるわね」
アトレの感心したような声と共に、俺は気絶する。
その間も、エルフ幼女にマッサージされているとは知らずに……




