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第四十三話 エルフ式性欲促進マッサージ儀式

「え? 勇者さん、童貞なの?」


 ミナのご両親との顔合わせが終わってから、俺たちはアトレの家に招待されていた。

 一応彼女はイェソドのセフィラなので、立場的には偉いらしい。広い家だった。


 宿泊はここでやってくれて構わないと言われて、ついでに食事もごちそうになることに。


 食卓に腰を下ろして食事を進める。右隣には魔王、左隣にはアトレ、その周囲にタマモとユメノ、という順番である。ミナは実家にいるのでここには来ていなかった。


 その中で、雑談の一つとして俺たちがここに来た理由を告げたら、あんなことを言われたのだ。


「へー、そうなの。サキュバスさんの魔法で……面白い状況ね」


 ユメノの魔法で俺の性欲が皆無になってしまい、かつ魔王ともまだエッチなことをしてないと告げたのである。


「当事者からすると笑いごとではないのだがなっ。結婚したのにムラムラが発散できない我の気持ちにもなってくれ」


 泣きべそをかく魔王。や、本当に申し訳ない。


「俺も、可能であれば普通に戻りたいんだ……エルフの魔法で、俺の状態をどうにかできるものってないか?」


「魔法無効化の魔法ということね……あるにはあるわ。状態異常回復の魔法に分類されるものなんだけど、これを使えば毒や麻痺なんかが無効化されるの」


 アトレの言葉に、魔王は身を乗り出して声を弾ませた。


「本当か!? よし! 早速頼む……報酬は望むものをやろう。あ、勇者以外でな」


「……じゃあ欲しいものなんてないわよ。ケチね」


 とかなんとか言いながら、アトレは俺の方に顔を近づけてきた。


「どれどれ? ちょっと、貴方の体を確認するわね……」


 アトレは俺の体をぺたぺた触ってくる。触診、に近い行為だと思うのだが、触り方がなんかイヤらしかった。


「ズボンが邪魔ね。脱いでくれないかしら」


「ぬ、脱ぐわけないだろ! そもそも下まで確認する必要あるのかっ」


「そう。私が見たかっただけよ……仕方ないわね、下はいいわ」


 彼女は触診を終えてから、再び食事に戻る。

 緑色の多いメニューをもぐもぐ食べながら、サラリとこんなことを言った。


「勇者さんにかかってる魔法ね、無効化することは出来ないみたい」


「……え!? なんでっ」


「貴方は今『状態異常』になっているわけじゃなくて、『精神作用』を受けているのよ。状態異常回復魔法では治せないわ」


 魔法のスペシャリストの意見である。無理だと言われては、どうしようもなかった。


「くっ……だ、だが、精神作用を無効化すれば良いだろう! そこはどうなのだっ」


「魔王さん? 精神干渉系統の魔法はとても精密で難しいの。それを無効化できる人材は、少なくともエルフには居ないわ。伝説級の魔法アイテムなら可能性もあるけれど、そんな一品の心当たりもないし」


「なんと……っ」


 どうやら俺にかかっている魔法はかなり強力らしかった。

 少なくとも、魔法能力に秀でたエルフが匙を投げる程度には。


「凄いサキュバスね。どうやったらこんなに強い精神魔法をかけられるのか不思議でならないわ」


 アトレの言葉に、俺と魔王は思わずユメノに視線を送ってしまう。

 彼女は居心地悪そうにもぞもぞしながら、赤らんだ顔でこちらを睨み返してきた。


「うぅ……私のせいじゃないですっ。魔王様が、私に性交の許可をくれないからです!」


「別に貴様のせいとは言ってないだろう。ただ、相当性欲が溜まっているのだなと、思ってな。まさか、性欲を封じるだけでここまで強くなるとはな。淫乱処女め」


「い、淫乱って言わないでくださいっ。誰のせいでそうなってると思ってるんですか!!」


 魔王とユメノがぎゃーぎゃーと喚き始める。


「ふにゃぁ……エルフの食事、美味しいのうっ」


 一方のタマモは、お食事内容がたいそう気に入ったようだ。

 もともと彼女は野菜系統が好きだったらしく、エルフの緑色中心のメニューに満足しているのだろう。


 だらしなく相好を崩していた。幸せそうだし、タマモは放っておこう。


「なぁ、アトレ。俺にかかっている魔法についてはもうどうしようもないから……他に、何かないか? 例えば、俺の性欲が促進されるような魔法とか、薬とか」


 別の手段を探ってみる。

 エルフは魔法能力に秀でており、かつ秘薬作りにも定評があるのだ。


 きっと、俺の状態を回復してくれる何かがあると、期待したのである。


「性欲促進……なら、あるわ。それも、とびっきりのやつが」


 俺の問いかけに、アトレは大きく頷いた。

 やっぱりあったらしい!


「もともと、エルフって性欲が薄い生き物なのよ。でも、子孫は残さないといけないわけで、性交渉がどうしても必要でしょう? だから、性欲が薄いエルフ専用に開発された儀式があるの」


 なんでも、薬品と魔法を組み合わせた『エルフ式性欲促進マッサージ儀式』なるものが存在するらしい。


 まさに、今の俺にうってつけの儀式だった。


「やる! いや、やらせてくれ!!」


「もちろんよ。勇者さんにはなるべく大きな貸しを作っておきたいし、お安い御用だわ」


 アトレは俺の懇願を快く受け入れてくれた。

 借りっていうのが怖いけど、この状況では仕方ない。


「困ったことがあればいつでも協力する。なんでも言ってくれ」


「――その言葉、しっかり覚えておきなさいよ?」


 交渉はすぐに成立した。

 さて、エルフ式性欲促進マッサージ儀式だ!


 その方法はというと。


1.魔力の循環を良くする魔方陣を用意して、そこに寝る。

2.増強薬という体を元気にする薬を飲む。

3.感覚を敏感にする、エルフ秘伝のマッサージを受ける。

4.マッサージは一昼夜、複数のエルフが交代でやる。

※ただし、マッサージするエルフは処女の幼女のみ。


 と、いう感じらしい。


「……なんで処女の幼女だけなんだ?」


「体内に巡る魔力純度の関係らしいわ。儀式を受ける者と反対性別の幼児、というのが鉄則なの。男性の貴方が受けるから、幼女ってことね」


 正直なところ、原理は全く分からない。

 これで性欲が促進される意味が分からない……でも、魔法のスペシャリストであるエルフの言葉なのだ。


 信じよう! それしか俺にはできない。


「お、おい! アトレよ、これは我も参加できるよな? もちろん、我も勇者にマッサージできるような!?」


 どこから話を聞いていたのか分からないが、ここで魔王が話に入ってきた。

 俺にマッサージがしたいのか、うずうずと指を動かす彼女に、アトレはピシャリと言い放つ。


「ダメよ。エルフのみしか許されてないの。魔力純度が、魔族とエルフでは全然違うから、貴方は無理」


「……そんなぁ」


 途端に魔王はしなしなと崩れ落ちる。俺の方にもたれかかってきたので、よしよしと頭を撫でてやった。


「ちなみに、儀式を受けている間、魔王さんは勇者に近づいたらダメよ? 貴方、というよりも魔族の魔力って荒々しくて、繊細な術が崩れちゃうもの」


「い、一日も勇者と離れるのかっ……で、でも勇者のためだっ。我慢するぅ」


 魔王にとっては無慈悲な宣告だったらしい。俺と離れるのが寂しいようだ。

 涙目で俺に抱き着いてきたので、そのまま頭をポンポンと叩いてやった。


「ちょっと待ってろよ。ちゃんと儀式受けて、正常に戻るから」


「期待してるからなっ。そろそろ、我の全てをもらってほしいのだ」


 可愛いことを言う魔王に苦笑して、俺は任せろと大きく頷く。

 

 強い覚悟をもって、俺はエルフ式性欲促進マッサージ儀式へと望むのだった。

 さて、幼女にマッサージされてくるか。

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