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第三十八話 魔王ちゃんは欲求不満

 魔王と結婚してから、毎日が幸せだった。


「魔王、おはよう」


「……う、うむ。おはよう」


 朝の始まりは、一緒に寝ていた魔王への挨拶から。


「朝ごはん、美味しいな」


「そうだな。誠に、美味ではあるが……」


 仲良くご飯を食べて、次は魔王のお見送りである。


「お仕事頑張れよ。帰ってきたら、またイチャイチャしよう」


「いちゃいちゃ? あれが……いや、なんでもない。そうだな、我が帰ってきたら、存分に愛し合おうではないかっ」


 魔王が仕事に行った後は、お世話係のミナと遊んだ。


 彼女と散歩したり、買い物に行ったり、ニトの神殿に遊びに行ったりと、なんとも平穏な時間を過ごす。


 そして、夜になって帰ってきた魔王を、お出迎えするのだ。


「お帰り、魔王。お風呂に入ろう」


「風呂……っ。ああ、今日こそは、しっかり入るぞっ」


 毎日一緒に入ってるのだが、魔王は何を言ってるのだろう?

 もしかしたら疲れてるのかもしれない。いつもより彼女を労わることにした。


「気持ちいいか?」


「んっ、ああ……気持ちいい、が」


 念入りに、魔王の体をもみほぐす。

 石鹸で体を綺麗にして、シャンプーをして、ゆっくりと湯船に浸かった。


 二人で密着しながら、今日の疲れをとる。


「ふぅ。疲労が抜けていくみたいだ……まぁ、溜まっている疲労なんてないけど」


 毎日ダラダラしてるだけなので別に疲れてなどない。気分である、気分。


「我は、溜まってるがな」


「そうか。ゆっくり休んでくれ。いつもありがとうな、魔王。大好きだぞ」


「……我も、大好き……なのだがっ」


 お風呂の後は、夕ご飯だ。

 五帝の調理した料理はたいへん美味である。キャラクターはちょっとおかしいが、料理の腕は確かだ。毎日これが食べられて、なんと嬉しいことか。


 酒も飲みながら、二人で談笑する。

 夜も深まった頃合いで、俺たちは切り上げることに。


「そろそろ寝るか」


「……眠るっ。一緒に、だぞ」


「うん? もちろん、一緒にだけど」


「――っ、寝るぞっ」


 ベッドで横になって、すぐに魔王が抱き着いてくる。

 彼女は俺を抱き枕にしないと眠れないようなのだ。俺は優しく抱き留めて、そのまま目を閉じる。


 少し高い彼女の体温は、深い眠りを誘発してくれた。

 甘く漂う匂いもリラックス効果があって良い。魔王は俺にとって、最高の睡眠アイテムである。


 まどろみの中で、眠りへと至る。

 ああ、なんて幸せなんだ――と、思ったところで。






「もう我慢できん! 勇者よ、我の欲求不満をどうにかしろ!?」






 魔王が、叫んだ。


「夫婦なのだぞ!? なのに、我はまだ処女だ! 勇者も童貞だ! 結婚したのに貞操を守っている阿呆な夫婦が、この世界のどこにいるというのだっ」


 目を開けると、涙目の魔王が俺を見つめていた。

 あれ? なんでだろう……毎日が上手くいってると思ってたのに、少し齟齬が生じていたようだ。


「魔王、あのさ……エッチだけが、夫婦の絆じゃないよ。心の繋がりが大事なんだ」


「貴様ぁ……一時期は我がくっつくたびに興奮してたくせに! やはりユメノの影響で、勇者の性欲はなくなっているのだな!?」


「――なん、だと」


 魔王に指摘されて、俺はハッと目を見開く。

 そうだ。俺は、魔王とエロいことがしたくて仕方なかったはずだ。


 なのに最近は、彼女と一緒に居られるだけで良いと思っていた。魔王の笑顔を見るだけで満足だし、触れるなんて恐れ多いことはできないとも内心では思っていたほどである。


 魔王のことは大好きだ。この思いは変わらない。

 だが、魔王とエッチなことをしたいとは、微塵も思えなかった。


 魔王を大事にしたい。笑顔を守りたい。穢したくない。だからこそ、手を出すような不埒な真似をしたくない。


 そんなことを、無意識の内に思っていたのである。


「そうだっ。俺、なんかおかしい。性欲は人並み以上にあったはずだぞ!? 魔王のことなんて、歩く性欲増幅剤なんて思ってたくらいなのにっ」


「さ、流石の我もそこまでではないと思うのだがっ」


 ともあれ、俺の性欲が異常なのは間違いない。


「ユメノめぇ……我と勇者の営みを、どこまでも阻害しおって」


 ロリ巨乳サキュバスにして、四天王の一人であるユメノの魔法によって、俺は重度のロリコンになっていた。


 幼女を神のごとき存在と神聖視していたのだ。


 穢れなきよう、無垢であるよう、そのままの君でいてと願うあまり――俺は、魔王に手を出そうと考えられなくなっている。


「勇者っ。我、限界だ……こんなにも素敵な貴様を前に、ムラムラしないわけなどないぞ!? 欲求不満すぎて、最近は眠りも浅い! どうにかしろっ」


「どうにかしたいけどさ、反応しないんだよ」


 うんともすんとも言わない息子に俺はなすすべもない。


 それだけユメノの魔法は強力だったのだ。あと、頑強だった俺の精神が軟弱になっている、というのもあるだろう。勇者を辞めてから、俺はダメ人間になりつつあるのだから。


「緊急会議が必要だな」


 魔王はベッドから飛び起きて、グッと拳を掲げる。


「魔王軍緊急会議を開く! 称号持ちは全員、大広間に集めよ!!」


 そして魔王軍緊急会議が始まるのだった。






「――と、いうことだ。どうすればいい?」


 大広間にて、壇上の魔王が問いかける。

 周囲に集まっていた称号持ちの魔族一同は、難しい顔で唸っていた。


「勇者殿と魔王殿の子供……是非とも欲しいですな。次代の魔王軍強化のためにも、この件は重要事項として処理するべきですぞ」


 四天王の一人にしてスケルトンのスケさんが、神妙そうな顔で頷いている。


 どちからといえば夫婦の問題かと思っていたのだが、事態は思ったより重要だったようだ。


「我はこの件が片付くまで、魔王としての仕事を休もうと思う。他の世界に行くことも検討しているのでな」


「ちょ、ちょっと待ってください! 魔王様がいなくなったら、誰が魔王様のお仕事をやるのですか!?」


 魔王の言葉にユメノが大声を上げた。やめてくれと、必死に訴えている。

 しかし魔王の意思は固かった。


「大事なことなのだ、悪く思うな。我の代行として――そうだな。ドラゴよ、貴様がやれ」


「っ!!!???」


 ドラゴが信じられないくらい口を大開きにする。

 間抜け面をさらしてしまうくらい、驚愕したようだ。


「貴様に拒否権はない。もしも、その働きが悪く、他の者に魔王の座を奪われるようなことがあれば……どうなるか、分かるな?」


 理不尽な上司命令である。だが、ここ魔界において魔王の命令は絶対だ。


「りょ、了解、しました!」


 ドラゴは体を震わせながら、頷くほかないようだった。


 ごめんな、俺のせいで。でも頑張れよ! お前なら大丈夫だっ。


 と、いうことで。

 俺のヘビーロリコンを直すために、色々とおかしなことになりそうだった。


 やれやれ……本当に、どうなるんだか。

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