表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/143

第三十話 宴会

「せっかくだし、みんなにも食べさせるか」


 ワイバーンを食べてお腹いっぱいになった俺と魔王は、しばらくお喋りをした後に魔王城へ帰ることにした。


 その際、まだ大量に残っているワイバーンの肉を、みんなにも食べてもらうことを提案する。


「勇者がそうしたいのなら、我から言うことはない。好きにするといい」


 相変わらず俺に甘い魔王は快く頷いてくれた。


「ドラゴあたりに食べさせて、共食いって煽りたくてさ。あと、ミナとかニトにも食べさせたい」


「勇者は思いやりがあって素敵だな! ますます惚れそうだ」


 なんか魔王はうっとりしてるけど、大したこと言ってないんだよなぁ。


 魔王が好意的すぎるせいで評価も上がりやすかった。チョロいな、これは。


 そんなんだから俺みたいなヒモに引っかかるのである。もっと注意してほしいものだ。


「【転移】」


 そうして、俺と魔王は肉を引っ提げて魔王城に帰還する。


「見つけましたよ、魔王様! お仕事をサボってどこに行ってたのですか!?」


 魔王の部屋に到着すると、そこには四天王が待ち構えていた。


 ロリ巨乳サキュバスのユメノはぷんぷんしてたが、肉を献上して怒りを抑えてもらうことに。


「これは、お肉……っ! し、仕方ありませんね。性欲が封じられてるせいで、食欲が最近凄くて……今回は大目に見ます」


 ユメノも存外チョロかった。魔族ってあれだよな。好きなものに弱い。


「ふむふむ、吾輩も一口」


「スケさん骨だから食べれないでしょ……」


「おっと、そうでしたな! これぞ骨ジョーク」


 うん、クソつまんねぇ。


「ほら、ドラゴも食え。お前のお父さんだぞ」


「とりあえず喧嘩売ってることは理解できた! ありがたく買わせてもらおうっ」


 俺の言葉にドラゴは臨戦態勢をとるが、ここで魔王が一言。


「ドラゴよ、今は食事の席なのだ。皆、楽しく食べている……空気を乱すなよ? 勇者がせっかく、良い前振りをしてくれたのだ。ここはノリに乗れ」


「……っ! ま、魔王様!?」


「良いから、貴様もたまには面白いこと言ってみろ」


 おっと、上司による無茶ぶりに戸惑う部下の図である。


 普通の部下なら、軽く「無理ですから~」なんて言ってかわすこともできただろうが、いかんせんドラゴは真面目すぎた。


「くっ……ご命令とあれば」


 ニヤニヤ見守ってみると、ドラゴが覚悟を決めた異様に表情を引き締める。

 それからお皿を手に持って、真面目くさった顔でこんなことを言った。


「ち、父上!? 少し脂ぎったお姿になられて……」


 …………十五点くらいかな。

 努力だけは認めようと思った。


「ドラゴよ、もう少し励め。次は一発ギャグに期待している」


「ま、魔王様……!?」


 下僕に関して、魔王は少し容赦がないところがあるな。


 まぁいいけど。ドラゴが弄られるのを見ているとなんか愉快な気分になれるし。


「勇者ぁ……覚えていろよ!」


「俺を恨むなよ」


 さて、残る一人の四天王は肉を前に顔をしかめていた。

 妖狐のタマモである。


「ちと重たいのう……年寄りにはきつい」


 幼女の姿で何を言ってるのだろう、と思ったが……見た目に反して彼女は相当長生きしてるとかなんとか。


 とにかく、肉料理じたいがあまり好きじゃないらしい。


「勇者よ、ちょっとこっちに来るのじゃ」


「え? 何?」


「ほれ、あーん」


 おっと、どうやら食べさせてくれるようだ。

 お腹いっぱいだけど、入らないわけでもない。タマモの心遣いを裏切らないためにも、大人しく口を開ける。


「どうじゃ? わらわの『あーん』もなかなかのものじゃろう?」


 ふふんと鼻を鳴らすタマモは、なかなか楽しそうにしていた。


 たぶん孫と遊ぶ感覚なんだろうな……魔王とは違った意味で甘やかされている感が半端ない。


「むぅ。タマモよ、ほどほどにしとくのだぞ」


 そして魔王のちょっとした嫉妬が可愛かった。

 ぷっくりほっぺたを膨らませてる顔が可愛い。


 その表情が良い塩梅になって、肉料理もすぐに食べ終えてしまった。


「やっぱり、お主ら二人は可愛いのじゃ。よしよし」


 タマモはなかなか、俺と魔王の関係性を気に入ってるらしい。

 時折茶々を入れて面白がってる節がある。


 見守ってくれているというか、見た目幼女のくせに保護者みたいな感覚が強いな。


 そういうのも、悪くないけど。


「あー! 何よ、あたし抜きで美味しいもの食べてるなんてずるいわよっ」


 と、ここで部屋に二人ほど乱入してきた。


 一人はダメダメシスターこと、ニトである。恐らくは肉の気配を感じ取ってきたのかもしれない。


「え? あ……お肉だ」


 もう一人は、金髪碧眼のロリエルフこと、ミナだった。

 彼女は肉の香ばしい匂いに鼻をひくひくさせながら、とことことこっちに歩み寄る。


「お前らも食え」


 余ってる肉を差し出すと、即座にニトが飛びついてきた。

 シスターらしからぬはしたない態度で、大口を開けてかぶりついている。


「くっ~!! お酒が合うわねっ」


 それから、何故か懐に忍ばせていた酒を一気に煽っていた。

 酒を常備するあたり、ダメ人間の度合いが凄い。俺なんて足元にも及んでないな……


 もっと精進せねば。


「……んっ」


 それから、ふと俺の近くにミナが擦り寄ってきていることに気付いた。

 無意識なのだろうか。俺の腰元に手を当てながら、ジッとニトの方を見つめている。


 その視線はお肉に注がれていた。


「ミナ、お前の分もあるぞ? 食べないのか?」


「あのね、お肉……エルフは、食べたらダメなの」


 彼女はしょんぼりしたように首を振っている。


「食べたこと、なくて」


 ああ、そういえばエルフって粗食かつ、菜食主義で有名である。

 あいつら、やっぱり肉とか食べないのか。


「でも、今は食べてもいいんじゃないか? ほら、ここはエルフの世界じゃないし」


 しかしミナは食べたそうにしているので、そっと肉を近づけてみた。


「……いい、の?」


 彼女はためらいつつも、よだれを垂らしていた。

 やっぱりこの子は他のエルフと違うようだ。自制心が弱いというか、好奇心旺盛とするべきか。


 いずれにしても、ここまで目を輝かせているのである。

 もうめんどくさいから、強引に食べさせることにした。


「ミナ、ちょっとごめんな」


 おもむろに、俺はミナの口に指を突っ込む。


「――ふぇ!?」


 驚く彼女を無視して、両頬を引っ張るように口を押し広げた。

 指がむにょむにょしてくすぐったい。


 あと、口を押し広げられて涙目になっているミナが……そそる。

 やばいな。興奮する前に、さっさと食べさせようと思った。


「ニト! 肉を突っ込んでやれっ」


「了解よ! ふっふっふ……肉の悦びを教えてやるわ!」


 近くにいたダメシスターに協力を願い出ると、ノリノリで手伝ってくれた。

 大きな肉を、口元が汚れるのも構わずにミナに突っ込む。


「むぐっ――うへぇ」


 そしてミナは……肉を強引に食べさせられた後、弛緩したいようにぺたりと座り込んでしまうのだった。


「お、おいしいのぉ……腰、抜けちゃう」


 今まで、ずっと質素な食事内容だったのだろう。

 恍惚の表情でもぐもぐしていた。


「もっとぉ……おにく、ちょうらぃ?」


 自制に歯止めがきかなくなったのか。

 更なる肉を求めて、俺の指についた肉汁を舐めてくるミナ。


「や、やめっ……ほら、食べていいから! 指を舐めるなっ」


 慌てて肉を押し当てると、彼女は夢中になって食べ始めた。


 こいつ、やっぱり堕落する素質あるわ……俺も負けないように頑張らないとっ。


「盛り上がって来たな! よし、宴会にするぞ!! メイド共を呼んで、酒と他の料理を持ってこさせろっ」


 次第にみんな羽目を外すようになり、魔王が宴会を宣言した頃には他の魔族も巻き込んでいた。


 場所を変えて、大広間で酒を飲みかわす。


 勇者時代にはなかった、楽しいひと時――こうやって仲間と笑いあうこともできるのかと、俺はちょっとだけ驚いてしまった。


 みんな、楽しそうである。

 身分も見た目も違うのに、誰もが充実した様子を見せていた。


 やっぱり、ここに来て良かった。

 そう思えるような光景に、思わず目を細めてしまう。


「勇者よ、楽しんでるかっ!?」


「うん、楽しんでる」


 隣では、俺に手を差し伸べてくれた魔王が笑っていた。


 彼女にはとても感謝している。


「……ありがとうな」


 ふと漏れたのは、感謝の言葉だった。

 こんな場には不釣り合いの、しみじみした台詞である。


「ん? 勇者よ、何か言ったか?」


 しかし、声が小さすぎて聞こえなかったようだ。

 やれやれ、失言だったな。今言うべきことではない、か。


「なんでもないよ」


 そう笑いかけて、俺は酒をあおる。

 やっぱりここで飲むお酒は、とても美味しかった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ