第二十八話 セフィラとかいう化物が手を組んだ結果
ひとしきり湖でイチャイチャした後、俺たちは山を登っていた。
岩山である。あるいは火山とでもいうべきか、ゴツゴツしていて歩きにくい。
まあ、俺と魔王はこれでも生命樹の寵児なので、肉体は頑強だ。大して疲れることもなく、山道を踏破する。
やがて大きな洞窟へと到着した。
「どうする? とりあえず魔王の焔でファイヤーするか?」
先制攻撃は有効的な戦略の一つだ。
相手がこちらを認識する前に倒してしまえば、そもそも戦いになどならない。
「いや……待て。気配がないな」
しかし、魔王は洞窟を見て首を横に振った。
どうやら中にドラゴンは居ないらしい。
「なあ、勇者よ。ふと思ったのだが、ドラゴンとはずっと洞窟に引きこもっているものか? 巨体を維持するにはそれだけの食料が必須であろう。なれば、外に食料調達しに行っててもおかしくはないと思うが」
「……なるほど。確かに」
言われて気付く。魔王の言葉通り、ずっと洞窟に引き込まっているはずもないか。
「だったら、飛んでるやつを狙うのか? んー……俺、空は飛べないんだよな。ジャンプでも戦えはするだろうけど、捕獲は難しいかもしれん」
率直に入って、空はドラゴンの領域なのだ。
殺すのはたぶんできるけど、捕獲するとなればちょっと厳しいかなと思った。
ふと、空を見上げてみる。
快晴の空の下……疎らな雲をぬうように飛んでいる何かを見つけた。
「あ、居た。ってか、めちゃくちゃ高いところにいるし」
よくよく目を凝らしてみると、ドラゴンはきちんと居た。
だが、点にしか見えないほど空高くを飛んでいる……俺にはどうにもならない距離だ。
「しかも複数居るし……ドラゴンって群れるのな」
「あれはワイバーンだな。食べてみたことはないが……ドラゴンの中では比較的数もいて、手頃ではある。晩餐はあれで良さそうだなっ」
ワイバーンもドラゴンなので、獲物にするのに文句はない。
問題は捕獲する方法なんだけどな。
「では、役割を分担しよう」
俺が難しい顔で唸っていると、魔王がこんなことを提案した。
「我が地面に叩き落とすから、勇者がワイバーンを捕獲する――で、どうだ? 空中で捕獲するのは我でも骨が折れるが、地面に叩き落とすことは容易だろうからな」
「おっ。それ良いな! 地上なら、俺も力を発揮できるし」
そういえば俺たちはセフィラだったんだ。力を合わせれば、やれないことなどない。
俺たちは協力のために握手を交わし、それから空を睨みつけるのであった。
「魔王、じゃあ任せた」
「任せろ。追い込むのは、得意だからな」
そして、魔王が動く。
ワイバーンを地に落とすべく……彼女はとある魔法を行使した。
「【転移】」
転移魔法――恐らく個人では魔王のみが持つ、ふざけた魔法だ。
本来ならセフィロトの世界店か、あるいは店の超高価なアイテム、もしくはエルフの詠唱魔法などでしかできないと言われる転移の魔法を、魔王は個人で扱える。
魔なる王の称号は伊達じゃない。
あいつもまた、人智を越えた化物の一人なのである。
「……俺、よくあんなのと張り合えてたよな」
空高くで始まった戦闘を眺めながら、肩をすくめてしまう。
相変わらずの魔王の強さに、思わず苦笑してしまうのだった。
一方、上空――ワイバーンの群れの、更に上。
そこに、何者かが姿を現した。
『グガァ……!?』
ワイバーンは野生の勘で即座に上を見上げる。
危険を、その存在からは感じたのだ。
「くくっ。大人しく、我と勇者に仕留められるがいい!」
現れたのは、忌々しきセフィロトの住人。
それだけを知覚して、一体のワイバーンは反射的に襲い掛かった。
ワイバーンら魔物にとって、セフィロトの住人はそれだけで憎悪の対象である。
『ギガァアアアアア!!』
牙を剥いて、咆哮をあげながら……落下する褐色の幼女へと、食らいつこうとする。
だが、その幼女は――ワイバーンの予想をはるかに超える強さを持っているようで。
「貴様は要らんな。肉が不味そうだ」
ドス黒いオーラが放たれると同時だった。
「【闇花火】」
幼女が、ワイバーンに指を向ける。
ただそれだけで、幼女に襲い掛かったワイバーンは……爆散してしまった。
「ふぅむ……我と勇者のデートを彩るには、少し汚い花火だな」
断末魔さえも許さず、ワイバーンを肉片へと変えた幼女。
『ガァッ……』
この幼女には勝てない――と断ずるのに刹那の時間もかからなかった。
危険を察知して、ワイバーンは途端に翼を羽ばたかせる。
空は彼らの領域だ。飛びさえすれば、持ち前の速度で振り切れる……と、思っていたらしい。
「【転移】」
だが、進行方向に魔王が現れた。
逃げることを許さないと言わんばかりに、好戦的な笑顔を浮かべている。
「さあ、次はどこに逃げる?」
慌てて、反対方向に――転換しようとして、その時にはもう遅かった。
「良い位置だ。そのまま落とせば、勇者の攻撃範囲内だな……よし、【荷重引力】」
不意に、幼女から黒い球体が放たれる。
その球体はワイバーンの群れの中央に移動すると、すぐに地面へと落下していった。
『グ、ガァアアア!?』
――ワイバーンを、引き連れて。
黒の球体が落ちていく。引力が生じているのか、ワイバーンも引き寄せられて落ちていく。
どうにもならなかった。
ただ、なすすべもなく……突如として現れた幼女に、弄ばれることしかできなかった。
『ギッ……ガッ』
間をあけずして、ワイバーンは地面へと激突する。
墜ちた。だが、まだ生きていた。生存本能に従って、複数のワイバーンはなおも逃げようと足掻く。
再び翼を広げて――だが、それ以上動くことはできなかった。
「氷の精霊よ、俺の意に従え……」
鋭い直観が、ワイバーンに死を感じさせる。
得体のしれない何かを感じて視線を向ければ、そこには剣を構えた人間が居た。
その時にはもう、ワイバーンは……終わっていた。
「【氷撃】」
瞬間、人間が振るった剣から――膨大な量の氷が繰り出される。
『…………!』
ワイバーンはどうすることもできずに、その氷に呑みこまれてしまうのだった。
これにて、ワイバーンの一生は幕を閉じる。
セフィラとかいう化物が手を組んだ結果……最強種であるドラゴンでさえ、何もできずにやられてしまうのだった。




