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第十六話 幼女の胸で産声をあげてみたい

 深夜――俺と魔王は、二人で仲良く月光浴をしていた。


「良い光だな、勇者よ」


 魔族は月の光が好きらしい。

 魔王はあくがらをかく俺の膝上で気持ちよさそうに体を揺らしていた。


「そうだなぁ……こういうのも、風情があって良いな」


 勇者時代は夜襲を警戒して、のんびりすることはほとんどなかった。

 月って綺麗なんだなと、俺はぼんやり空を眺めながら思う。


「「…………」」


 それからしばらくは、二人して無言だった。

 ただ空を見上げて、お互いにくっつきあう。


 やっぱり、魔王との時間は居心地が良かった。


 何も言わないでも通じ合っているというか、リラックスできているというか。


 しかし、あの娘はどうなのだろう?

 ふと考えたのは、ロリエルフちゃんについて。


「なあ、魔王? ミナのことなんだけどさ、ここに連れて来て良かったのか?」


 正直なところ、彼女には罪悪感があった。


 人間側が誘拐した、というのもあるだろう。


 あいつらを捨てた身なのだが、同族として彼女には申し訳なかった。


「無理強いさせるのは、ちょっと嫌かもしれない」


 魔王の考えはなるべく尊重するようにしている。

 心酔しているわけではないが、彼女は尊敬に値する存在だと思っている。


 でも、ミナについては、思うところがあったのだ。


「ミナが望むなら、エルフの世界に帰してあげた方が良い気がする」


 小さな言葉で、提案してみる。


 もしかしたら、魔王の気分を損ねてしまうかもしれない、などと考えてしまった。

 なんだか怖かったのである。


 もし嫌われてしまったらどうしよう――なんて思っていたところで、魔王が言葉を返す。


「そうなのか? ふむ、分かった。ミナが本当に嫌がっているのなら、その時はエルフの世界に帰してやるか」


 しかし、魔王は俺の言葉を当たり前のように受け入れてくれた。


「……お前が俺のためを思っているのは、分かってる。でも、ごめんな。めんどくさくて」


 後ろめたさがあって、思わず謝ってしまった。

 だが、魔王は気にするなと笑ってくれる。


「そういう優しいところに、惚れたのだからな……そ、そういうことにゃんだっ」


 言った後に恥ずかしくなったのか、言葉を甘噛みする魔王。

 本当に、彼女は可愛くて……本当に、懐が大きいだと思う。


「分かった。明日にでも、聞いてみるよ」


「そうせよ。しかしまあ、あれは帰りたくなさそうに見えるがな」


 魔王はくるりと態勢を変える。俺と向かい合うように膝上に座ってきた。


 対面座位、といったところか。すぐ目の前に魔王の顔があって、少しドキドキする。


「あー……そうなのか? 無理矢理連れて来られたんだから、帰りたがってると思ってたけど」


「通常のエルフであればそうだろう。あの種族は閉鎖的でプライドも高いからな。故郷に対する思いは、どの種族よりも強いはずだ」


 しかし、ミナは違いそうだと魔王は分析しているらしい。


「閉鎖的で、排他的なエルフはな……そもそも、外に出たがらない一族でもある。プライドも高く、他種族を見下す傾向があり、選民的な思想も持っている」


「それなのに、ミナは外に出たのか……? おかしくないか、それ」 


「うむ、明らかにおかしい。だが、前例がないわけではない。時折、居るのじゃよ。エルフの清貧な生活に耐え切れなくて、別の世界に来る者が」


 言われて、そういえばと思い出す。


「確か、お前の配下に『ダークエルフ』って居たよな? あれがそうなのか?」


 俺の言葉に、魔王はよしよしと撫でながら正解だと頷いてくれた。


「察しの通りだ……あやつらも、元はそういったエルフだった。堕落して、快楽に溺れて、ダークエルフになったのだ」


 つまり、魔王はミナが帰りたがっていないと判断したがために、俺のお世話役に任命したということなのだろう。


「しかし、我の予想が外れている可能性もある。勇者に判断は任せよう。貴様の好きなようにやるよいい」


 彼女は全て分かっている。

 しかし、その上で俺の意を組んでくれていた。


「魔王は、なんというか……本当に、凄い奴だな」


 無意識に、目の前の彼女に敬服したくなる。

 四天王とか、他の配下の者が彼女に付き従う理由がよく分かった。


 こいつは本当に、良い王である。

 同時に、素晴らしい人格者でもあった。


「……俺が好きになるのも無理はないな」


 いつか言われた台詞を、そっくりそのまま返す。

 そうすれば、魔王は爆発したように、顔を真っ赤にしてしまった。


「そ、そのように軽々しく、好きとかいうな……嬉しくて死にそうになる」


 照れ照れと髪の毛をいじる魔王。

 やっぱり彼女は、可愛かった。


「そ、それでな、勇者よ」


 照れて恥ずかしがっているのか、ふとここで魔王は話題を変えてきた。


 もにょもにょとしている魔王は可愛いが、あまりいじめるのは趣味ではないので、大人しく話題転換に付き合ってあげることに。


「どうした?」


「ムラムラ、してないか? あのロリエルフ、可愛いだろう?」


「っ……」


 ミナの体は魔王とは違った造形美がある。


 ツルツルぺったんだが、幼女に貴賤なし。


 魔王と比較して肉付きは薄いが、しかしそれが幼女性を強調しているようで、ロリコンになっている今、酷くそそられるのだ。


「我慢しなくても良いのだぞ? さあ、我を好きに使うのだ」


 耳元で、甘い声が囁かれる。

 魔王の首元からはとてもいい匂いがした。頭がくらくらする……


 まあ、だからといって誘惑には乗らないが。


「俺の意思は曲がらない……ロリコンの魔法が解けるまでは、絶対に負けない!」


 改めて、宣言しておく。

 そうすれば、魔王は不満そうにほっぺたを膨らませるのだった。


「むぅ。勇者よ……どうしてそんなに意地を張るのだっ。気持ち良いことは、嫌いか?」


「き、嫌いじゃないけど、そういうのは違うっていうかっ」


「……仕方ない。これだけは、使いたくなかったのだが」


 頑なに拒絶する俺に、魔王はため息をつく。

 次いで、彼女は俺の顔をガッと掴んだ。


 小さなおててが、俺の顔を固定する。


「ユメノ、やれ」


「はぁ……またですか。まあ、やりますけど」


 顔が動かなくなった、その瞬間――背後から、ユメノが俺の顔を覗き込んできた。


「っ!?」


 まずい。また、魅了チャームの魔法をかけられてしまう!

 そうなったが最後、俺は欲望を抑えきれなくなるだろう。


 それだけは、阻止しなくては!


「勇者を、素直にせよ!」


「はいはい……【勇者様、あなたの心を開きます】」


 紫紺の瞳が、俺の目をとらえる。

 魅了の術が、俺を襲った。


 だが、術が来ると分かっているのだ……全力で、抵抗させてもらう!


「【素直になって、欲望を解放してください。あなたの全てを、見せなさい】」


「くっ!」


 性行為を禁じられたサキュバスの、強力な魅了チャームが発動する。

 だが、俺は抗った。


「ぬ、ぁああああ!!」


 勇者時代に培った逆境の精神で、絶望的な状況であろうとも俺は反旗の意思を見せる。


「あ、魔王様? ごめんなさい、術のかかりが悪いかもしれません」


「なんと!? ど、どうなったのだ」


 素直になる魅了の術に、抗った結果。

 俺は――


「…………オギャァアアアア!」


 産声を、あげてしまったのだった。 


「ごめんなさい。素直にしようとしたら強く抵抗されちゃって、術が変にかかってしまいました。幼児退行、しちゃってます」


「な、なんということだ……」


 それはこっちの台詞だよ、魔王!

 クソ、どうなってんだっ。


 俺はいつの間にか、赤子のようになってしまったのだった。

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