第十五話 奴隷ロリエルフちゃんがお世話役になりました
魔王城にて。
人間界から戻ってきた魔王は、奴隷となったロリエルフと二人きりになっていた。
「さて、まずは自己紹介からしておこう。我は魔王だ。貴様の名は?」
「ミナエル・エロハ……みんなはミナって、呼んでた」
「ほう? ミナ、だな。うむ、理解した」
鷹揚にうなずく魔王に、ミナは膝をついて頭を下げる。
そんな彼女に、魔王はこれからについて告げた。
「さて、ミナよ。貴様にはこれから、勇者のお世話役になってもらう」
「……お世話役?」
「そうだ。勇者が快適で居心地の良い生活を送れるように尽力することが、貴様の仕事になる」
「そう……具体的には、どんなことをすればいいの? ミナは家事も料理もできないけど」
「そこまで大それたことをする必要はない。ただ、勇者を一人にするな。あれが寂しがらないよう、常に隣に居ること――それが、貴様に求めることだ」
勇者のことを話す魔王の声は、とても柔らかくて優しい響きが宿っている。
イメージとはまったく異なる魔王の姿に、ミナエルはパチパチと瞬きを繰り返していた。
「寂しい……? 勇者が?」
「そうだ。勇者はああ見えて寂しがり屋でな。一人で寝ている時とかは特に、寝苦しそうな顔をしているのだ……そんな時に抱き着いてやると、たちまちに安心した顔になる」
「……一緒に寝ることも、仕事なの?」
「勿論だ。無論、我が出来るときは我が添い寝するが……我が居ない時は貴様が添い寝せよ。あと、入浴もだぞ? 勇者はがさつだからな、丁寧に洗ってあげないとダメだ。食事でもあーんしてあげないと最近は食べないし、まったくっ。困った奴なのだ」
ぶつぶつ言う割には幸せそうである。
対して、ミナエルの方は目をグルグルにして動揺を見せていた。
「添い寝、入浴、食事っ……魔王様? ミナ、そんなはしたないことことできないっ」
貞操観念の強いエルフにとって、それらの行為はある種最も苦手とすることだった。
だが、魔王は首を横に振る、
「いいか? ミナよ、貴様は我の奴隷だ。言うことを聞け」
「で、でもぉ」
「……きちんとお世話出来たら、すぐに元の世界へ帰してやる。だから、やるのだ」
「そ、それなら……やり、ます」
とにかく、ミナエルは少しの辛抱だと自分に言い聞かせた。
「頼んだぞ。はぁ……我はこれから仕事だ。今日の夜は我が添い寝するから、それまでは勇者を任せたのだ」
「がんばりますっ」
ミナエルは決意する。とにかく、人間界に居る時よりはマシになったのだ。これからまた、自由を取り戻してやる――と、自分を奮起させるのだった。
「失礼しますっ」
人間界で奴隷ロリエルフを奪った後、俺は部屋でくつろいでいた。
そんな時、おもむろに部屋に入ってきたのは、先ほど人間界から連れてきた奴隷のロリエルフちゃんである。
「今日からお世話役になった、ミナエル・エロハっていうの……ミナって呼んでっ」
「えっと、うん。俺は勇者だけど」
なんと。本当にロリエルフをお世話役にしたのか……
「魔王様は、忙しいって。だから、がんばるのっ」
「あ、うん。そうなんだよな……魔王も忙しいもんな。あんまり迷惑かけたらダメか」
本当は彼女とイチャイチャしたかったんだけど、しょうがない。
魔王がいないときはこの娘と一緒に遊ぶことにしよう。
「じゃあ、今からお風呂入ろうか。さっき動いて、汗かいてるんだよな」
「……え? も、もうお風呂なのっ!?」
俺の言葉にミナは声を上ずらせる。
「あれ? もしかしてイヤだった?」
ずっと魔王がお風呂入れてくれていたので、誰かと一緒に入るのが当たり前になりかけていた。
体洗うの面倒だけど、ミナが嫌がるのならしょうがないと思っていたわけだが。
「べ、別にっ。ミナは余裕だし……楽勝だもんっ」
と、なんだか強がられてしまったので、素直に甘えることに。
入りたくないならそれで良いと一応伝えてみたが、逆効果だったのか彼女は余計頑なになってしまった。
まあ、俺としてはそっちの方が都合がいい。
でも、やはりミナは無理をしていたらしく。
「は、恥ずかしくて、死ぬ……っ」
顔を真っ赤にしてから、彼女はパタンと気絶してしまうのだった。
魔王で慣れてたのかあまり気にしてなかったので、配慮が足りなかったらしい。
まあ、これが普通の反応なのだ。心にとどめておこう。
「あー……悪いことしたなぁ」
白目を剥く彼女をベッドに寝かせてから、改めてお風呂に入りなおす。
結局、ミナは夜まで寝たきりだった。
……この娘には、色々と謝らないと。




