第百三十三話 英雄賛歌その十二『デビル』
――彼は、強き者を求めていた。
「あぁん? 魔王が死んだだと? でも、新しい魔王がいる? 魔王は死んだんじゃないのか!? 意味分かんねぇ……分かんねぇけど、とにかくあの魔王をぶっ殺した奴がいるんだな!?」
筋骨隆々の巨躯を揺らしながら、彼は獰猛な笑顔を浮かべていた。
「面白ぇ……魔王にやられた傷もようやく完治したところだぜ。できたらあいつは俺様の手でぶち殺してやりたかったが、死んじまったものはしょうがねぇよな。だから――魔王をぶっ殺した奴を、ぶっ殺せばいい」
彼に論理は通じない。
自らの気が向くままに、彼は戦いを求める。その好戦的な性格は同族にすら煙たがれるほどの脳筋だ。
そして酷く頭が悪い。先代魔王がいる時代において、彼はただ唯一先代魔王に真っ向から歯向かったバカである。もちろん何度も返り討ちにあって殺されかけていたのだが、持ち前のしぶとさでどうにか命をつなぎ留めていた。
悪魔族の戦士が一人。その名を――デビル。
先代魔王や、今代の幼女魔王と同じ一族出身の、戦闘民族だ。
その中でも特に頭がおかしいことで知られる魔族である。
「デビル様? 一応、魔王様の許可をもらった方が良いのでは?」
部下と思わしき人物がデビルに助言する。だが、デビルはその言葉を鼻で笑った。
「俺様が戦うと決めたから、許可なんて必要ねぇだろ」
「……また、反逆者とか言われちゃいますよ?」
「その時は魔王と戦えばいいじゃねぇか! 戦いが増えてラッキーだろうがよぉ!!」
「また始まりましたか……ほどほどにしてくださいよ? まったく」
ともあれ、部下は呆れたように笑いはするものの、デビルを嫌悪する様子はない。デビルは頭が悪く、根っからの脳筋でこそあるが、だからこそ悪魔族の中には慕う者もいた。煙たがれることもあるが、人望はあるタイプなのだ。
デビルは戦いに理由を求めない。強いて理由を挙げるなら『戦い』が好きだからとしか言えないだろう。そんな単純さが、魔界では好ましく思われている。
「せいぜい頑張ってください。あなたが生きていれば、また会いましょう」
「ちょっくら、魔王を殺した奴……勇者だっけ? そいつぶっ殺してくる。帰ってきたら酒でも飲むぞ! 美味いやつを用意しとけ!!」
「はいはい、用意しておきますよ」
「おう!」
最後に手を上げて、デビルは部下に背を向ける。
そして彼は、人間界に向かう――
――が、結果から言うと彼は人間界に行くことはできなかった。
「……人間界ってどう行くんだ?」
そう。デビルは頭が悪い。他世界へ行く方法を彼はよく分かっていなかったのだ。
正規のルートであれば、各世界で空間を共有する『セフィロトの世界店』を利用することである。別の手段としては、魔王の固有魔法である『転移』があるのだが、デビルはどちらも知らない。
彼は歩いていればいつか目的地に到着すると考えていたのである。そして結局、適当な場所を歩いていたところで、人間界へ行く方法が分からないことを理解したのだ。
「ちっ……帰るのは恥ずかしいな」
このまま帰ったらいい笑い者である。いや、彼の部下なら「やっぱり」と理解してくれるはずだが、デビルは自分が頭が悪いことに気付いていない。むしろ部下の前では有能の振りをしているので、ここで帰るという選択肢はなかった。
「……まぁ、なんとかなるだろ」
そして、持ち前の楽観的な思考は、デビルに『悩む』という行為を許さない。とりあえず歩いていればいい方法が思いつくと彼は考えたようで、適当に道を進み始めた。
魔界の、奥へ――さらに奥へと、足を運ぶ。
どこか物寂しい荒野をひたすらに歩いていた時だった。
「おいおい……あれは、人間じゃねぇか?」
なんと、魔界で人間らしき生物を見かけたのである。ただ適当に歩いていただけだが、驚異的な運の持ち主だった。
「あいつらに、勇者とやらを連れて来てもらえばいいじゃねぇかよ!!」
そしてデビルは名案を思い付く。彼にしてはよく頑張った。
見つけた人間は四人。騎士風の鎧を装備する者、魔法使いのようなローブを纏う者、戦士のような軽装の者、そして僧侶らしき神官服を着る四人だ。
四人はデビルの存在に気づいておらず、岩場の陰で休憩していた。
そこにデビルは、堂々と歩み寄った。
「よう、人間ども。奇遇じゃねぇか」
まるで友達に挨拶するように、彼は声をかける。
瞬間――四人が、絶叫した。
「おいおい、うるせぇよ……静かにしろ、てめぇらは男だろうが!!」
そのうち、めちゃくちゃうるさかった騎士っぽい奴と魔法使いっぽい奴をぶん殴る。力加減を間違えて二人の男は気絶したが、まだ残りの二人は意識があった。
こちらは二人とも女性である。男とはまた違って、声も出せないくらいに怯えていた。
それは好都合と、デビルはニタリと笑う。
「おい……てめぇら、俺の言うことを聞けば、ここは見逃してやるよ」
その言葉に、二人はコクコクと激しく頷く。デビルは満足そうに頷いてから、こんなことを言うのだった。
「勇者とやらを連れてこい。一人……そこの、神官っぽい服を着てる女が行け。残りの三人は人質だ。勇者を連れて来なかったら、どうなるか分かるよな?」
そう。勇者のところに行く方法が分からないので、連れてきてもらうことにしたのだ。
彼にしては、とても頭が回っている。その言葉に、神官っぽい女はしっかりと頷いた。
「だったら行ってこい!」
そうして、デビルは人間を送り出す。
勇者と戦うための準備は、もう整っていた――
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