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第百三十二話 幕間その五『バブみと赤ちゃんプレイ』

『勇者、どうしてそんなに頑張るのだ? もっと楽にしても良いぞ?』


『我に全て任せるのだっ。勇者のお世話は我の趣味だからな!』


『よしよし、いい子だぞ……くくっ、勇者はかわいいなぁ』


 その包容力に、抗うことはできない。


 この子なら、俺のどんなダメな部分だろうと受け入れてくれる――そんなことを思わせるような魔性の少女が、存在する。


『我にいっぱい甘えていいぞっ』 


 最初の方こそ、抵抗した。

 俺よりもはるかに小さい女の子だ。負担をかけたくないと思うのは普通の人間なら当然である。


 しかしこの少女があまりにも俺を受け入れるものだから、結局俺は彼女に甘えてしまうのだ。


 つまるところ、俺は彼女――魔王の『バブみ』に溺れたのである。


『ママ―!』


 バブみとは、包容力を意味する。

 赤ちゃんがママにバブバブするようなことを、ママではないがこの子にもしたくなるという意味合いの『名詞』だ。


 とはいえ、この行動には――『もっと困った顔が見たい』というような意図もあったりする。


『オギャ―!』


 最早言語さえ不要と言わんばかりに産声を上げる。これは『オギャる』と言う。


『むぅ……我は勇者のママではないのだぞ?』


 俺のダメな部分を見て、魔王は少しだけ呆れるわけだが。


『まったく、仕方ないやつだっ……今だけは勇者のままになってやる。存分に甘えるがいい』


 結局、そんなダメな部分でさえ受け入れてくれる――そういうところが、余計に俺をダメにするのだ。


 困りながらも、俺のことを受け入れているからこそ、ダメな部分も肯定する。


 バブみを感じてオギャリたいと言うのは、つまりこういうことだ。


 一種の愛情表現とも言えるだろう。


『お前を本当のママにしてやる!!』


『きゅ、急に大人に戻るなっ……時折勇者のテンションについていけなくなるぞっ』


 もうこの状態になったら末期だ。バブみに溺れた俺はもう後戻りすることができない。

 そして始まるのが――『赤ちゃんプレイ』である。


『バブ―!』


『い、今はどっちなのだっ? 赤ちゃんか、それとも勇者なのか!?』


 とはいえ、バブみと赤ちゃんプレイは少し違うことだと俺は思っている。


 赤ちゃんプレイとは、即ち――バブみの先になる極致だ。


 最早言語さえ不要なほどに通じ合った二人が交わす愛の儀式である。


 バブみは『困らせてしまうがダメな部分を受け入れてほしい』という意味がある行為とさっき説明したが、赤ちゃんプレイは『とにかく甘えて気持ち良くなりたい』という欲望なのだ。


 この二つは似ているようで違う。

 俺も以前までは二つを同一視していたのだが、最近になって若干の差異を見極められるようになった。


 どっちがいいという話ではない。どっちもいいのだが、使い分けが大切だと言うことである。


 バブみを感じてオギャるのはいつでもどこでも構わないと言う認識だが、赤ちゃんプレイは夜に限定した方がいい。だって、みんなにドン引きされてしまうから。


 バブってる時点でかなり惹かれている気がしなくもないが、それも禁止されると死にたくなるのでこちらは大目に見てほしい。


 思えば、俺もダメになったものだ。


 勇者時代は、我ながらストイックで英雄然とした立派な人間だっと思う。


 しかし今は見た目幼い女の子に頭をなでなでされながら『ままぁ』とか言っちゃってるものだから、人はどう変わるか分からないものだ。



 だけど、変わらないものもある。



 それは――俺と魔王が、愛し合っているということだ。



 前にこんなことを聞いたことがある。


『魔王……バブバブするのって、迷惑か? 本当は嫌だったりするか? もしそうなら、正直に言ってほしい。お前の嫌がることはしたくないんだ』


 俺の言動が迷惑じゃないか、魔王が嫌がってないかを心配したわけだ。

 彼女を愛しているからこそ、我慢をさせたくなかったのである。


 そんな俺の問いかけに、魔王はちょっと恥ずかしそうにしながらもきちんと答えてくれた。


「勇者よ……な、なんだかんだ、甘えられるのは好きだぞ? 我の前だから、こうやって無防備に甘えてくれるんだなと思うと、幸せな気分になるのだ。迷惑でも、嫌でもない。むしろ、嬉しい」


 ……この子は、本当に嬉しいことを言ってくれる。

 だから俺は、これまでと同じように――魔王に甘えようと、そう決意しているのだ。


「ママー!」


「よしよし……おっぱいは夜に飲ませてやるからな」


 抱きつくと、柔らかい。いい匂いがする。頭がバカになりそうなくらい、魔王は魅力的だ。


 こんなに素敵な女の子と、これからを添い遂げられるなんて。

 俺はなんて、幸せ者なんだろうか――

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