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第百三十一話 幕間その四『幼女』

 小さな女の子を見て『かわいい』と思うようになったのは、いつからだろう。


 勇者時代、幼女は俺にとって庇護の対象だった。つまり、その他の一般人と変わらない守るべき存在でしかなかったはずである。もちろん欲情もしないし、なんなら前の俺は大きなおっぱいに魅力を感じていた時期もある。


 でも、今の俺は大きなおっぱいになんて微塵の興味も示すことはない。あんなものは脂肪の塊だ。感触的にはお尻とさほど変わらないような気がする。そこに欲情する要素はない。


 そう、俺は現在――幼女を見て『かわいい』どころか、『エッチだ』とさえ思うようになってしまている。むしろ『幼女』という単語そのものが卑猥に聞こえるくらいだ。


 おかしい。

 そんなのありえない。


 冷静になって考えてみると、これは異常なことではないだろうか?


「お、俺って……もしかして、ヤバい?」


「ああ、お前はヤバい。オレが保証する」


「死ね!」


「クソが! 図星だからといって攻撃するな!!」


 聞いてもないのにドラゴが口を挟んできたのでぶん殴り、ついでに殴られながら俺は考察を続けた。


「いやいや、俺はヤバくないだろ……普通だ。うん、絶対に普通だ」


「どうでもいいが、オレの部屋から出て行け。仕事の邪魔をするな」


「うるさい、死ね」


「お前が死ね」


 仕事をしているドラゴの邪魔をするために執務室で反復横跳びしながら、俺は自己を省みる。


「ちいちゃいおっぱい。ぷにぷにのほっぺ。くりくりのおめめ。触れるとほのかに温かい……この単語で興奮するのって、普通だよな?」


「……頭は大丈夫か?」


 ふむ、ドラゴには欠片も共感できないようだった。やつは俺をゴミとでも思っているかのように冷たい目で見ていた。


「そういえばさ、魔王に見下されたいなーって思う時があるんだけど」


「病気だな」


「『キモイ』とか言われてみたいんだけど」


「呪いにでもかかっているのか?」


「でもあいつ優しいから、ちょっと欲求不満なんだけど」


「いっそのこと、死んでもいいと思うが」


 なるほど、ドラゴの態度を鑑みるに、俺の性癖は相当歪んでいるようだった。


「ドラゴはさ、嫁さんとの間に娘ができたとするじゃん?」


「オレの娘をそういう目で見たら、殺す」


「殺意出すの辞めてくれない? 今、城の低級魔族が気絶してるし……あと、俺は幼女の幸せを望んでいるからな。むやみやたらに手を出さない」


「……まぁ、そこは信用しているが。あれだな? 『ロリコンの矜持』だな? ユメノ様が前に話していたな」


 ユメノはいったい俺についてどんなことを言っているのだろう。

 なんとなく気になるが、まぁそれは置いておく。


「ドラゴに娘ができたとして、その娘が笑顔になって嬉しいと感じるのは、普通だよな?」


「それは、まぁ……普通だろうが」


「よし、じゃあ俺も普通だな。なんだ、異常かと思ってたけど、心配して損した」


「待て、お前は普通じゃないが? まさか頭が腐っているのか?」


「……そろそろ、お前と喋るのにも飽きてきたかも」


「殺す! 勝手に邪魔をしに来ておきながら、その言い分か!? さっさと出て行け、腐れロリコン野郎!!」


 と、ここで俺はドラゴに追い出されてしまった。

 あいつと喋るのは気が楽なのでいい。魔王と喋っているといちいちエロいので、興奮しちゃうのである。


 しかし、魔王と喋るのは幸せな気持ちになれるので、嫌じゃない。むしろエッチな気分になれるのも、それはそれで悪くないと思っている。


「よーし、魔王とイチャイチャするかっ」


 意気揚々と魔王と俺の愛の巣に戻る。

 部屋の扉を開けると、魔王がベッドですやすやと寝ていた。裸で。


「んにゃ……ゆうしゃぁ」


 甘えたような声に、頬が緩む。


「……俺はここに居るよ」


 ベッドに腰を下ろして彼女の手を握ると、魔王はギュッと握り返してきた。


「えへへ」


 しまりのない笑顔が、俺の心を温かくする。


 ああ……なんて、かわいいのだろう。


 みんなは俺をロリコンと言う。

 魔王みたいな小さな女の子といちゃつく俺を見て、うわーとドン引きする。


 でも、逆に考えてみてほしい。魔王みたいなかわいくて魅力的な女の子に「しゅきしゅきだいしゅき!」ってされたら、誰だってロリコンになるに決まっている。


 昔はそれなりに英雄然としていた俺でも、やっぱり魔王の……幼女の魅力には、抗えなかったのだ。


 ちいちゃいおっぱい。

 ぷにぷにのほっぺ。

 くりくりのおめめ。

 触れるとほのかに温かい。


 そんな彼女を愛してしまったからこそ、もしかしたら俺はロリコンになってしまったのかもしれない。


 まぁ、断じて俺は自分のことをロリコンだと認めたくはないのだが、客観的事実としてそう見られているというのは理解しているつもりである。


 しかし、どんな風に見られようとも俺はまったく気にしていない。


 何故なら、魔王がとてもかわいいのだから。

 彼女が幸せであるのなら、ロリコンの名を甘んじて受けようではないか。


「……やっぱり、幼女は最高だぜ!」


 そう。幼女は……魔王は、最高なのだから――

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