第百二十七話 幕間その三『かつて殺し合った二人は、もうバカップルになってしまいました』
たまに、頭の悪いことをしたくなる。
傍から見てたら『うわっ』て言いたくなるようなことだろうが、やっていると楽しいので、時折無償にやりたくなってしまうのだ。
「魔王、ちょっといいか?」
朝起きてから、少し経った時のこと。
今日もやらないといけないことがある、と仕事に行きそうだった魔王に、俺は声をかけた。
「これから付き合ってほしいんだけど」
「うむ! 今日の仕事は休みにするから、いくらでも付き合うぞ!」
俺のために仕事までずる休みする魔王はとてもかわいかった。
「仕事は大丈夫だろ、ニトが前にこう言ってたし……『やらなければいけないことは、誰かがやってくれます』って。仕事なんて気にしないでいいと思うぞ?」
「そうだな! 存分に勇者と遊ぶことにしよう」
後でユメノあたりに怒られそうだが、ともあれ今日も俺は魔王とイチャイチャすることに。
「じゃあ、そうだなぁ……とりあえず、俺が魔王の好きなところ言うから、魔王はきちんと聞いててくれ」
「え? ん? ちょっと待つのだ、勇者……それやられると、恥ずかしいのだがっ」
「ほら、耳塞ぐなよ? じゃあ、俺が魔王を一番愛しているところは――」
そう言って俺は、ベッドの上でもじもじする魔王の胸元を真っすぐに指さした。
すると魔王はびっくりしたように目を見開く。
「ひ、貧乳なところが、勇者は大好きなのか?」
「違う! おっぱいじゃなくてっ」
相変わらず淫乱な魔王だ。頭の中がピンク色である。
一番愛しているのが貧乳とか、色々な意味でおかしいだろう。
いや、好きではあるんだけど、それは魔王のおっぱいだから好きなのであって、貧乳だから好きとかそいういうことではないのだ。
俺が魔王を一番に愛している部分。
それはおっぱいではなくて――
「魔王の『心』を、愛している。その温かい気持ちに、俺は惚れたんだ」
そう。
外見も愛らしいが、何より魔王は内面がかわいいのだ。
「ふぐっ……や、やめるのだっ。我は、勇者に嬉しいこと言われたら、変な顔になっちゃうのだぞっ」
唇をもにょもにょさせている魔王。
そう、こいつは褒めたらものすごく照れる。それがびっくりするくらいかわいいので、今日はそんな魔王をたくさん見ようと思っていたのだ。
とても頭の悪い、バカップルの遊びである。
「そうやって照れるところも愛おしい」
「ぬわぁ……やめろ、阿呆がっ。悶絶して死んだらどうするのだっ」
「死ぬのは困るなぁ……でも、それくらい喜んでくれるかわいいところも、好きだ」
ああ、楽しい。
顔を真っ赤にしてぺちぺちと俺を叩く魔王が、最高にたまらない。
もっともっと、魔王のかわいいところを見たくて――俺は次々と魔王を褒めまくった。
「俺の面倒を見ようと一生懸命なところとか、いつもは甘やかしてくれるのにたまに甘えてくるところとか、それから何より――夜、淫乱なところも、なかなかいい感じだと思う」
「だ、だって、我は勇者のこと大好きだから、エッチな気持ちになるのも、しょうがないだろう!」
「うん、だから大好きだぞ」
「ふにゃぁっ」
のけぞって、彼女は首をブンブンと横に振る。
俺が絡んでいないことに関しては、毅然とした態度をとる魔王らしい魔王なのに。
俺の前では、ただの恋する女の子にしか見えない。
そのギャップにも、俺は魅了されたのだ。
「もちろん、外見も大好きだ……俺、今ではもう魔王みたいな体にしか興奮しなくなっちゃったし。責任とってくれよ?」
「むぅ……仕方ないな、一生面倒を見よう」
よし、未来永劫の寄生主を手に入れた!
――というのは冗談にしても、魔王は本当に俺に甘い。
まぁ、そういうところが、大好きなんだけど。
「褐色の肌も、すべすべの肌も、ツルツルの体も、ぺったんなおっぱいも……それから、声のトーンも好きだな。よく通るし、甘える時の猫なで声も悪くない」
褒め言葉を次々とまくしたてる
これも一種の言葉攻めになるのだろうか。
「ぐがぁあああああああ!!」
魔王は枕に顔を埋めて叫んでいた。
「魔王、顔がよく見えないから、こっち向いてくれ」
「……ゆ、ゆうしゃは、いじわるだぞっ」
なんだかんだ言いつつ、魔王は俺の方に顔を向けてくれた。
いつもより頬が赤く、瞳が潤み、唇はしまりなく緩んでいたが、やっぱりいつも通りかわいかった。
「かわいいよ、魔王。愛してるぞ、魔王。大好きだよ、魔王」
とどめに愛の言葉を連続で囁けば、魔王はたまらなくなったようで――
「勇者! こ、興奮しちゃっただろう! ……責任を、とるのだっ」
彼女は服を脱いでから、俺に襲い掛かって来るのだった。
よーし、まだ昼だけど夜の大決戦である。
そういえば昔は命を奪い合ったけど、今ではすっかり命を創造する日々になっているような気がした。
本当に俺たちは、頭の悪いカップルみたいである。
でも、これがたまらなく幸せなのだから、やめる気はなかった。
まとめ。
魔王は今日もかわいかったです――




