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第十二話 痴話喧嘩とかいう茶番

 ある日のこと。


「なあ、勇者? そろそろ、我とエッチなことしても良い頃じゃないか?」


「無理。そういう行いは、もう少ししてから……」


「ええい! たわけ、どうして我を受け入れない!? こうなったら、近づくで……っ」


「あ、やめろバカ! くそ、【マルクトの加護・発動】!」


「なに!? セフィラの力を使うのは卑怯だ! クソ、ならこっちも……【ケテルの加護・発動】!」


 俺と魔王は、くだらない理由で世界レベルの痴話喧嘩をしてしまった。


「こら!! 喧嘩したらダメですっ!! お二人は最強なんですから、被害を考えてくださいっ」


 そんな俺たちを四天王が止めて、そこから説教が始まっていた。

 現在、俺と魔王は正座しながら説教を受けている。


「勇者が悪いんだからな!? 我、こんなに体を持て余してるのに、相手してくれないのは酷いのだっ」


 四天王の説教の時、魔王はそう言って拗ねてしまった。

 唇を尖らしてぷいっと目を背けている。


「だいたい、勇者がカッコイイから悪い! こんな男を前にして、ムラムラしない女が居ると思うなよ!?」


「……その気持ちは嬉しいけどさ、それでも俺は譲れない。そんな行為は、愛の果てに至る境地なんだ。今みたいな、ロリコンの魔法で欲情している状態での初めては、認められない!」


「だから貴様は童貞なんだ……ふんっ。もういい、勇者のばかっ」


「ど、どどど童貞は関係ないだろっ」


 またしても口論が始まりかけて、しかしそこでふわふわの尻尾が邪魔をした。


「これこれ、熱くなるでない。落ち着くのじゃ」


 九本の尻尾を持つ、妖狐のタマモである。


 彼女は正座する俺の膝上に腰を下ろして、この前魔王が吸っていたキセルを取り出した。


「【月花の煙草】じゃ。吸って気分を鎮めるといい」


 無理矢理口に突っ込まれて、吸い口から煙を吸い込んでしまう。


 瞬間、思考がスッキリとした。

 性欲のせいで頭に血が上っていたが、キセルのおかげで冷静さを取り戻せたようである。


「あ! ちょ、間接キスは卑怯ではないかっ。タマモ、そのキセル我にも吸わせよ」


「ダメじゃ。というか、勇者のことは『もういい』のじゃろう? そういうことであれば、わらわが勇者の操を奪っても良いのじゃな?」


 これみよがしにタマモは俺の吸ったキセルを口に含み、ぷかぷかと煙をふかしている。こら、ぺろぺろ舐めんな……恥ずかしいだろ。


「ん~? そういえば、勇者は今ロリコンになっているのじゃったな? では、わらわで性欲を発散させるといい。自分で言うのもなんだが、かなり――凄いぞ?」


 タマモは妖艶に微笑んで、俺の太ももをゆっくりと撫でた。


 九本の尾を持つ幼い童女のタマモもまた、ロリに分類されてしまうため今の俺には毒である。


 特に彼女は、変な色香があるから厄介だ。


 ミニの着物からは、瑞々しい太ももがばっちりと露出されているし、彼女の体からは甘いお香の匂いが漂ってくる。


 頭の上では狐の耳がぴょこぴょこよ揺れていた。

 やけに紅い唇も扇情的で、なんとなく気分が落ち着かなくなる。


「マジでやめてくれ……襲いそうになる」


「我慢は毒じゃろうに。お主ほどの男であれば、わらわは別に構わんがのう」


 小さく笑うタマモの視線は、隣にいる魔王の方へと注がれていた。


「むむむっ」


 なんという顔なのだろう。ほっぺたがパンパンである。

 ジトっとした嫉妬の視線を浴びて、タマモは笑いを堪えるように肩を震わせていた。


 この妖狐、たぶん魔王の反応を見て楽しんでるな……


「あ、そういうことなら私も参加します。もういいかげん性欲が限界なので、勇者様で発散させてもらいますね?」


 と、ここでサキュバスのユメノも便乗してきた。


 見せつけるように俺にしなだれかかってくる……背中におっぱいが当たっているのだが、これもわざとなのだろう。


 ロリコンになっている今、別におっぱいに対してはそこまで興味がなかった。

 ただ、首元をユメノが舐めてくるので、それがいけない。


 当たり前のように舌使わないで……エロいから。


「魔王様はそこで大人しく見ててくださいね。勇者様は『もういい』のでしょう?」


 なるほど、どうやらこのサキュバスも魔王をからかっているようだ。


 魔王が普段から色々と横暴に振る舞っているので、この機会を利用してお灸をすえているのかもしれない。


 あるいは単なる憂さ晴らしか。


「――これは、吾輩とドラゴ君も流れ的には乗った方が良いのかな?」


「ぉぇっ」


「いや、スケさんはちょっと……あと、ドラゴ? お前に抱き着かれたら俺も吐くからな、絶対にやめろよ?」


「言われずとも! オレにはもう妻がいるからな、男だろうと浮気はしない!!」


「……勝ち組みめぇ、末永く幸せになれっ」


 流石に骨と既婚の龍人は許容範囲外だった。


 丁重にお断りすれば、スケルトンのスケさんはカタカタと体を震わせる。


 たぶん、笑っているか、もしくは落ち込んでいるのか。

 骨の感情表現はよく分からん。


「じゃあ、そういうことなので、魔王様はそろそろ出て行ってくれませんか? 私達は勇者様とエッチなことしますので」


「すまんのう、魔王。お主が勇者を『もういい』とか言うのでな、わらわ達がもらうことにした」


 俺の意見そっちのけでユメノとタマモがそんなことを言う。


 安い挑発というか、見るからに煽っているのが丸分かりなのだが。


「……ぁ、ぅ」


 魔王は、まったく気づいていなかった。

 プルプルと震えて、眼を右往左往と揺らした挙句、最期には思いっきり俺に飛びついてくる始末。


「だ、ダメっ」


 ぎゅっと俺を抱きしめた魔王は、まるで自分の玩具を主張する子供のように喚くのだった。


「勇者は我の勇者なのだ! 絶対に、貴様ら二人には渡さないっ」


「でも、『もういい』って言ったのは魔王様ではないですか」


「あのようなことを言われては、勇者も傷ついたじゃろうに……そもそも、強引に迫ったのはお主じゃぞ? 相手の気持ちをどうして尊重できない?」


 二人に諭されて、いよいよ魔王は瞳を潤ませた。


「うぅ……ゆうしゃぁ? ごめんなさい、するからっ……嫌いに、ならないでくれぇ」 


 そして、とうとう魔王は泣き出してしまう。


 あ、ちょっと、泣く必要はないって!


「大丈夫、大好きだから! 俺の方も、ごめん……その、この際だから言うけど、童貞だから度胸がなくてっ。も、もう少し、ゆっくりでお願いします」


 魔王の涙に動揺してしまって、思わず本音をポロリと漏らす。


「勇者君ともあろうお方が、情けないですな」


「このへたれ童貞が!」


 ドラゴ……直球はやめろって。傷つくからっ。


「えっと、魔王? お前の気持ちは本当に嬉しい。お前を嫌いになるなんて絶対にありえないから、もう泣くな」


 俺の方からも抱きしめて、その頭を撫でてやる。

 そうすれば、魔王はふぇぇぇぇと嬉し泣きをするのだった。


「我も、勇者が、大好きだっ」


「俺もだよ、魔王。大好きだ」


 先程まで喧嘩していたというのに、二人して抱きしめあう。

 やっぱり、魔王とはこんな風にイチャイチャするのが、楽しいって改めて思いました。


「ふぅ、ようやく痴話喧嘩が終わりましたか」


「茶番じゃのう。別に二人でナニをしても良いが、力を使うのはやめるのじゃぞ? きちんと反省しておるな?」


「それと、魔王君はしっかり働きなさい。サボってばかりではいけませんぞ」


「勇者、お前もだぞ! 魔王様の邪魔はするなよ!!」


 ごもっともな四天王のお言葉に、俺と魔王は素直に頭を下げる。


 確かにおふざけが過ぎたか……これからは自重しなければ。

 そう思っていたのは、魔王も同じだったらしく。


「う、うむ……理解した。貴様らの言う通り、確かに勇者の面倒を我が全て見るのはいけないな……仕方ない。勇者のお世話役を、調達しに行くとしよう」


 おもむろに、彼女はこんなことを言うのであった。


「人間界に行くぞ、勇者よ」


「――へ? なんで?」


「ちょうど良く、あそこにエルフの奴隷が連れ去られている」


「っ!? 人間が、エルフを誘拐したのかっ?」


「そのようでな、あれを奪って――勇者のお世話役にしよう」


 唐突な提案を口にする魔王の顔は、悪戯っぽい子供のように無邪気で。


 そんな彼女に、俺はポカンと口を開けることしかできないのだった。


 あの雑魚どもが、魔法の使い手として優秀なエルフを誘拐できたなんて……いったい、どうなっているんだか。


 何はともあれ、俺は魔王と一緒に人間界へ向かうことにするのだった。

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