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第百十七話 英雄賛歌その一『過激派』

「ふざけるな、小娘が!」


 魔王城に怒声が響き渡る。

 人間界から帰って来るや否や、四天王の一人――フレイムが少女に向かって怒鳴り散らした。


 全身が炎で構成された大柄な魔族である。

 先程死んだ先代魔王を信望していた腹心であり、人間に対して殺意を持つ過激派の一人でもあった。


「魔王様の死を無駄にするとは何事だ!? どうしておめおめ逃げ帰るような選択をした!」


「……今は我が魔王だ。先代は死んだ」


 怒鳴られる少女、魔王は不快そうに表情を歪める。

 幸福な出会いの余韻を邪魔されたと言わんばかりに、渋い顔をしていた。


「弔い合戦がしたかったのか? あの場で我らが皆殺しになるのが正しい選択とは思えないが」


「はぁ? どうして俺らが皆殺しにされるのだ!」


「あの勇者に、人間界で勝てるとでも?」


 魔王の一声が場を騒々しくする。


 四天王、五帝、六魔侯爵、七大罪……称号持ちが集まっているのだ。

 魔王軍最大戦力ともいえるだろう。だというのに、あの場で勇者には勝てなかったと魔王は口にする。


 称号持ちの中でも、それに同意している者は少なかった。


「臆病な小娘が魔王とは、魔族も落ちぶれたもんだなぁ!」


 中でもフレイムは特に怒っている。

 魔族の過激派でも先代魔王と並ぶ筆頭である。人間である勇者を認めるようなことを彼はできない。


「人間ごときが……俺らの食料にそんな力はねぇよ! 家畜に怯えてんじゃねぇよ!!」


「……一応、言っておこう。我が魔王になった今、人間を食することを禁ずる。そもそも我らに人間を食する習慣はない。先代魔王の悪癖にすぎん」


「小娘ぇ……魔王様を愚弄するんじゃねぇ!!」


 フレイムは激怒したのか、魔王に襲い掛かろうとする。

 だが、そんな彼を止めたのは小さな女の子だった。


「やめんか」


 冷徹な声が、場に静寂をもたらす。

 戦い好きで短命な魔族の中で、遥かに永きを生きる彼女の存在は、称号持ちの中でも別格視されていた。


 彼女の名は――タマモ。

 フレイムと同じ四天王であり、魔王軍最古参の妖狐である。


「魔王となった者に逆らうのかや? フレイム、お主はいつの間にそこまで偉くなった?」


「くっ……日和見の老害が、口出してんじゃねぇよ」


「わらわのことはどう思おうと自由じゃ。ただ、魔王に反抗するのなら――殺す」


 静かな殺意がフレイムの怒りを抑える。

 普段は傍観しかせず、先代魔王からはよく馬鹿にされていたタマモだが、その実力は魔族の中でも未知数だった。


 フレイムも幾分か怒りがなくなったのか、舌を鳴らして魔王に背を向けた。


「ちっ……もう帰る。俺は絶対に、小娘を認めねぇからな」


 捨て台詞を残して彼は去っていく。

 続いて、フレイムに同調するように多くの魔族も部屋を出て行った。


 残ったのはたった数名である。

 四天王のタマモ、そしてスケルトンのスケさん、後は五帝の料帝に食帝、それから六魔侯爵のタナカだけだった。


「タナカ……貴様は我に反抗しないのか? 人間が嫌いなのであろう?」


 過激派の中でも特に人間に対する殺意の強いタナカは、しかしゆっくりと首を振る。


「魔王様。あなたの言葉は正しかった……新たに勇者となった少年は、人間にあるまじき澄んだ目をしておりました。同時に、底知れぬ覚悟と実力も……あのままでは魔王軍が敗北してもおかしくなかったでしょう」


 彼は冷静に状況を見極めていたようだ。


「このタナカは人間が嫌いですが、殺人鬼になりたいわけではありませんからな。フレイムや先代魔王ごときと一緒にしないでいただきたいものです」


 流暢に語られた言葉に魔王は苦笑していた。

 人間への恨みは強いが、それは己の欲望を満たすためのものではないとタナカは言っているらしい。


「……料帝、貴様は?」


「私は主が誰であろうと気にしません。使役する食帝も、反抗などしないでしょう……ただ、他の五帝が反抗したのは、私の失態です。次の五帝にはきちんと教育を施すとお約束しましょう」


 白い帽子をかぶる料帝は淡々とそう言った。そばの食帝も同意するように頷いている。

 その言葉に魔王は頷く。


「スケさんは?」


「穏健派筆頭ですからな。先代魔王とは気が合わなかったので、君には期待していますぞ」


「タマモは?」


「くくっ……わらわはお主の味方じゃ。今まで誰が面倒見てきたと思っておるのじゃ? 反抗するのかどうかなど、愚問じゃな」


 たった四人しか新たな魔王の味方はいない。

 だが、魔王にとっては十分な人数だった。


「貴様らの忠義に、我はしっかりと応えて見せよう」


 そう言って彼女は息をついた。


「……あと、あやつらは死ぬ。称号持ちに相応しい力を持つ者を探しておけ」


 あやつらとは、この場から出て行った過激派の者達だ。


「愚かな……実力さえも見極められんとは、嘆かわしい。マルクトのセフィラにマルクトで挑んでも勝てるわけないだろう」


 そう。セフィラ――世界に選ばれるセフィロトの寵児は、各々の世界で大きな力を発揮する。


 いわば、人間界は勇者の独壇場なのだ。


 それを分からずに反抗した過激派の連中は、死ぬ。

 その魔王の予想は、すぐに実現することになる――

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