第百十二話 魔界の財源
第一世界『ケテル』――通称魔界と呼ばれるその場所において、労働とは『戦闘』である。
魔王や四天王などは労働の一環として事務作業も行うが、基本的に魔族は戦ってばかりだ。
この一族は、気に入らないことがあれば暴力に頼る。
野蛮極まりない一族だった。
この世界は力こそ全てだ。
もちろん、お金の稼ぎ方も力任せである。
「魔王様、そろそろお金がなくなってきました」
魔族の中でも秀でて事務作業ができるユメノが、魔王の部屋に来るや否やそう申告する。
魔界の財政は彼女が担当している。
どうやらお金が不足しているようだった。
「イチャイチャばっかりしてないで、しっかりと働いてください」
ベッドでゴロゴロしていた俺と魔王にユメノは不機嫌な視線を向ける。
しかし魔王は素知らぬ顔で何やら思案していた。
「金……そろそろあの時期だったか?」
「はい。ちょうど、頃合いです」
「そうか。では、明日にでも出発しよう。血の気の多い者を集めておくのだ」
「分かりました。明日はお願いしますね」
二人だけで通じる会話が終わって、ユメノは出て行く。
「なんかやるのか?」
魔王に問いかけると、彼女はニッコリと笑って教えてくれた。
「明日、大討伐クエストを受けるのだ。魔族で有志を募って、大型の魔物を倒すぞっ」
「えぇ……あれ倒すのかよ」
言われて、そういえばと思い出す。
第零世界『ダァト』には、定期的に大型の魔物が出現する。
基本的にそのタイミングになると世界店で警告が出るので、セフィロトの住人はダァトに行かなくなる。
何せ大型の魔物は強い。とても危険なのだ。
しかし魔族はあえて倒すらしい。
一応、世界店から討伐のクエストというものが出ており、討伐できたら大量のお金が手に入るのだ。
それに大型の魔物はドロップする素材も高価である。
売れば一気に儲かるというわけだ。
「もしかしてだけど、これが魔界の主な財源だったりする……?」
「うむ。とにかく大雑把で野蛮な連中しかいないからな。お金を稼ぐためにはこうした方が早い」
……確かに、それもそうか。
魔族なんて戦うしか能がない脳筋ばっかりだ。
人間界みたいに食料やアイテムを生産して売ることも魔族にはできないだろう。
あるいはエルフみたいに薬草などの採集、秘薬の調合などをして売ることも、やはり魔族にはできないだろう。
ホドのように労働と生産を両立させ、経済をまわすなんてこともこの種族には不可能だ。
しかし死霊族みたいにお金がかからない種族ではないので、金銭は必要である。
だから魔族は唯一の利点である『力』を活かしたお金稼ぎ――討伐クエストをこなすことが一番効率も良いのだ。
そういうわけで、夜が明けて大討伐クエストの日を迎えた。
今回は俺もついていって見学させてもらうことにした。
暇だし、今日は『ゴーレムの変異種』を狩るというので興味があったのである。
ゴーレムとは鉱物を身にまとう魔物である。
小型のやつとは修行時代によく戦っていた。たまに希少鉱石をドロップするので金にもなる魔物だろう。
「ってか、多いな……」
第零世界『ダァト』には、有志で集まった魔族がうじゃうじゃといた。
みんな暇だったようだ。それぞれ武装しており、今か今かとゴーレムの到来を待っている。
中には六魔侯爵のデビルや四天王のドラゴなど、称号持ちも数名いた。
「血の気が多いのだ。好きにさせておけ」
と、言いながらも魔王は好戦的に笑っている。
こいつも戦うことが大好きなので、なんだかんだ楽しみのようだ。
「勇者はここで見てるのだぞ?」
「うん、分かった」
「勇者の仕事は我に甘やかされることだからなっ」
誰にでもできる簡単なお仕事である。
今日も職務をまっとうして働かない俺は、大人しく魔族たちの見学をすることに。
しばらくして。
「ゴーレムが来たぞぉおおおおおおお!!」
とある魔族が声を上げる。
視線を向けると、遠くに巨大な物体を確認した。
「でかっ!?」
山よりも大きいそれは、大型のゴーレムだった。
なるほど……変異種というだけある。通常種と比較できない巨大さだ。
そいつは少しずつ近づいてくる。
どうやら足許には小型、というか通常のゴーレムもうじゃうじゃといた。
これは戦うのたいへんそうである。
しかし、魔族は臆さない。
「ヒャッハー! ぶっ殺せぇええええ!!」
「ぐちゃぐちゃにしてやるぜぇえええ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
むしろ嬉しそうに、みんな走り出した。
策も何もない。アホだな。
「では、我も行くとするか」
「がんばれー」
「ゆ、勇者が応援してくれるなら、たくさんがんばるぞっ」
俺の応援に照れた魔王は、やる気十分といった様子で大型のゴーレムの頭上に転移する。
そして戦いは始まった。
魔王やドラゴなど、空を飛べる者は基本的の大型のゴーレムを相手している。その他にも攻撃力のある魔族は大型のゴーレムに攻撃していた。
他方、小規模な攻撃が得意な魔族はうじゃうじゃいる通常種のゴーレムと戦っている。
やっぱり戦闘に関しては天才な一族なのだろう。無意識だろうが、きちんと役割分担されていた。
後方でその様子を眺めながら、俺は持ってきたお茶をすする。
なかなか長期戦になっていた。
ゴーレムは体力が相当あるようで、さしもの魔族でも手間がかかるようである。
それでも、勝利は時間の問題だった。
「勝ったぞぉおおおおおお!!」
しばらく戦い続けて、全てのゴーレムが倒れた。
魔族の圧倒的な攻撃力に耐え切れなかったのである。
やっぱりすごいな……周囲を見渡すと、戦いの余波で地形が変わっていた。
それくらい魔族の攻撃は苛烈だったのだ。
「勇者ー! ただいまっ」
「おかえりっ」
帰ってきた魔王を出迎えて、抱き留める。
「これで、お金が手に入ったぞ! 勇者をもっと甘やかせるなっ」
「これからも寄生させていただきます」
「任せろ!」
何はともあれ。
お金はしっかりと手に入ったようで、俺はこれからもヒモニート生活を続けられるようだ。
やったね!




