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第百七話 終幕

「儂らは少し閉鎖的すぎたのじゃ。これからは外の世界に注意を向ける必要があると思いますな」


 第八世界『ホド』は今まで他世界との干渉を避け続けていた。


「魔族と戦った中で命ある者は、もっと励んでほしいものじゃ」


 結果、自種族の力を過信していたところがあった。両者の力には大きな隔たりがあったのだ。


「もし、気まぐれに魔族に戦争をけしかけられたら、儂らは負けるじゃろう」


 そうなってからでは遅い。

 ホドの君主だった徳川家康は手遅れになる前に手を打ったのだ。


「今のうちに魔族とは同盟を結びなさい。あの世界の者は単純じゃ……礼を尽くせば理不尽な仕打ちはそうそうないじゃろう」


「……ぺこぺこするだけかよ。気にくわねぇな」


「今だけじゃ。その間に儂らも力を強化すれば良い。ただ、今だけは絶対に争うようなことがあってはならないのですぞ」


「卑屈になりすぎだろ。確かにあいつらは強いけどよ、そこまで怯える必要はあんのか?」


 その問いかけに、徳川家康は初めて笑みを消した。

 感情の一切を消して彼はこんなことを言う。


「そうじゃ。今の魔族に儂らは勝てない」


 はっきりとした口調で断言された。


「いや、魔族だけならあるいは退けられる可能性もあるじゃろう……君の【天下布武】という力は、ホドの者であればより強い強化の恩恵が得られる。君の成長次第によっては【下克上】という、最強の補助強化能力にまで発展するじゃろうしな」


 セフィラである織田信長の【天下布武】があれば、現状の戦力でもどうにか魔族に対抗できる。

 もう少し織田信長が成長できれば、あるいは勝てる可能性もある。


 だが、それでも勝てないと断言した理由があった。


「あの魔族をな、個で圧倒した化け物がおる」


「――っ」


 更なる化け物の存在。

 いや、この存在においてのみ化け物を超えているだろう。


 何せ、化け物ぞろいの魔族に、たった一人対抗していたのだ。


「そして、その者は現在……魔族と手を組んでいる」


 個でも脅威だ。しかしその上、そいつは魔族の仲間となっている。


 魔族全体に匹敵する力が魔族に加わっているのだ。単純に考えると戦力は二倍である。


「勝てるわけがないじゃろう……っ! 『勇者』と呼ばれる彼のせいで儂は最悪のシナリオを見た。ホドが、滅びる未来じゃ」


 勇者。

 人間という弱小種に生まれながら、他世界と個で渡り合った存在。


 彼が魔族と手を組んだことで、魔族はセフィロトでも突出した戦力を保有することになった。


 徳川家康の【先見の明】で見えた最悪のシナリオでは、ホドが滅んでいたらしい。


 だからこそ今回、茶番のようなお家騒動まで起こして勇者と魔族を巻き込み、強引に関係を持ったということなのだ。


「織田信長。君も知っているじゃろう? 勇者の強さを」


「……ああ。勝てねぇと、思った。力じゃねぇんだ。心があいつは強い。何があっても、無理だと感じちまった」


 目を伏せながら織田信長は頷く。

 彼女は勇者と実際に戦い、実力を肌で感じた。


 ホドのセフィラにして【織田信長】の力を継承し、誰よりも力を持っているはずなのに、彼女は勇者に対しては勝てないと心から思ったのだ。


「せめて、勇者という存在が寿命で死ぬまで。儂らは魔族の逆鱗に触れぬよう生きるべきじゃな」


 徳川家康はそこまで言って、元の柔和な笑みに戻った。

 まるで、話は終りだと言わんばかりに。


「さて、もうよろしいでしょうな。我々の敗北じゃ……同盟の件、うまく取りまとめてくだされ」


 織田信長と、その後ろに控えている豊臣秀吉に言葉をかけて。


「儂は今回のお家騒動の責任をとろう」


 そのまま懐から小刀を抜いて、躊躇なく突き立てた。

 切腹である。


「てめぇ、死ぬのか?」


「ふぉっふぉっふぉ……魔族に示しをつけるためにも、死んだほうがいい」


「……なら、介錯はおれの手でしてやる」


 織田信長は、腹を切った徳川家康の首を切ろうと刀を構える。


 だが、その前に徳川家康の首が切り落とされた。


「いや、大丈夫じゃ。儂ができますのでな」


 気づくと、徳川家康がいた。


「は?」


 織田信長は目をパチパチとさせる。

 もう一度下のほうに視線を移せば、そこには腹と首を切って死んでいる徳川家康がいた。


 つまり、生きている徳川家康と死んでいる徳川家康がいたのだ。


「てめぇ、どうやって……」


「【影武者】と呼ばれる力がある。儂は簡単には死なないということじゃ」


 飄々と笑う徳川家康に、織田信長は舌を鳴らした。


「クソ狸がっ」


「狸で良い。これからは裏で暗躍しましょうぞ……君がしっかりと世界を導けるよう、サポートしますぞ」


 その言葉に織田信長は唾を吐く。


「勝手にやれ」


 それから、落ちた徳川家康の首を拾ってから走り出した。


「猿、出るぜ。焼け落ちる寸前だ」


「はいっす!」


 本能寺はもう限界である。

 織田信長が脱出してすぐに、建物は焼け落ちてしまった。




 かくして、お家騒動は幕を閉じる。

 裏では色々とあるようだが、ともあれ織田信長勢力の圧勝にて戦いは終わるのだった――

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