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第百六話 お家騒動の真相

「セフィラの力、見事じゃ」


 燃え盛る本能寺で、ボロボロの徳川家康が笑いながら言葉を紡ぐ。


 建物は今にも燃え落ちそうだった。

 そんな中でも徳川家康は悠長にあぐらをかいている。


 戦いは既に終わっていた。

 織田信長が【第六天魔王】の力を発揮して、すぐに徳川家康は敗北した。


 拍子抜けするほどに呆気ない終末となった。


「……意味不明すぎんだろ」


 織田信長は不服そうに顔をしかめる。

 徳川家康の思考や思惑がまったく分からなかったのだ。


「てめぇ、もしかしてわざと負けようとしてたのか」


 明らかに勝つ気がないように感じてしまった。

 もっとやりようはあったはずだと、織田信長は言葉を吐き捨てる。


 対する徳川家康はなおも笑ったままだ。


「いやいや、負けてあげるつもりはなかったですな。儂もそれなりに本気を出したのじゃが、やっぱりセフィラには勝てないのう」


「っ……そもそもてめぇは、戦闘タイプじゃねぇだろ」


 徳川家康はどちらかといえば参謀タイプの力を使う。

 個で戦うこと自体が根本的におかしいのだ。


「何がしたかった」


 目的を織田信長は問う。

 徳川家康は曲者である。思考は読めないが頭はかなりいい。


 何か企んでいると、織田信長は予想していたのだ。

 その問いに徳川家康は答える。




「織田信長に、君主の座を譲るためじゃ」




 その言葉は織田信長の意表を突く。


「はぁ? てめぇが譲らなかったくせに、今更何言ってやがんだよ」


「ホドは男尊女卑の世界。しかもそちらは子供じゃ……セフィラの力を授かっただけで、みんなが君主と認めるとでも? 実績も経験もない小娘に世界を預ける阿呆はおらん」


 実は第八世界『ホド』において、セフィラという存在が出現したのはとても久しぶりのことだった。


 人々の記憶にもセフィラという存在はない。伝聞にこそあるが、だからといっていきなり十程度の小娘が世界の君主になると言われてもホドの住人は納得できないと、徳川家康は言っているのだ。


 確かにセフィラは強い。だが世界はそんなに単純じゃない。

 強いからといって王になれるのは、全世界の中でも単細胞一族といわれる魔族くらいだろう。


「しかし、儂に勝利したという実績があれば、民衆も認めざるを得ないじゃろう。とはいえ最低限の戦力は用意させてもらいましたがな……この程度を突破できなければ、君主になる資格もないと考えておった」


 要するに試していたのだと徳川家康は口にする。

 ホドに余計な混乱が起きないよう、徳川家康はシナリオを構想していたようだ。


「てめぇ、最初からこの世界のために動いてやがったのかよ」


 まさしく、狸だ。

 まんまと乗せられていたことに織田信長は憮然とした表情になる。


「これでそちらに箔がついた。文句を言う輩もおるまい。織田信長よ……君はホドの君主となるべき器を持っておる。その力で、しっかりと儂らを導くのですぞ」


「釈然としねぇな」


「そういう血気盛んなところは儂と豊臣秀吉でカバーしますぞ」


 徳川家康に目配せされて、豊臣秀吉はびくんと体を震わせる。

 その態度に驚いている様子はない。まるで、事前に徳川家康のことを知っていたかのように。


「……猿、てめぇこいつの目的知ってたのか? おれを裏切ってたのか?」


「ひっ。じ、自分は聞かされていただけっす……す、少しだけ、勇者様が出かけたタイミングはお伝えしたっすけど」


 ちょうど、勇者がミナとニトを連れて外に遊びにでかけた時のことだ。

 このタイミングで徳川家康は勇者を連れ去っている。実はこの時、魔王がいないことを徳川家康豊臣秀吉から聞いて誘拐を実行したのだ。


 二人は最初からグルだったのである。


「そういえば魔族に助けを求めるのも、猿の提案だったなぁ……ちっ、最初から仕組まれてたのかよ」


「そうじゃ。魔族を巻き込んだのも、儂の指示じゃ」


 頷き、徳川家康は言葉を続ける。


「儂らと並ぶ戦闘一族……君に一度、見てほしかったのじゃ」


「は? なんでだよ」


「あの者らを、どう思った?」


 問いかけに、織田信長は魔族という存在を脳裏に思い浮かべる。


「あいつらは……異常、だな」


 そして導き出した結論は『異常』という言葉だった。


「聞くところによると、ずっと自分の世界の中で戦い続けてんだろ? そのせいか戦闘能力が尋常じゃねぇ」


「そうじゃろう。織田信長よ、君は血気盛んじゃ……しかしあの一族に喧嘩を売るような真似をするのは愚かなのじゃ。それを分からせるために、あえて招き入れた」


 確かに織田信長は魔族を舐めていた。

 もし何も知らない状態でいたのなら、喧嘩を売ってもおかしくはなかっただろう。


「今回の件で君は魔族に借りができたことになるじゃろう? こうなれば、軽はずみに喧嘩を売ることもあるまい」


「……てめぇの掌の上だったってことか」


「儂の目は全てを見通す。先の展開も、当然じゃよ」


 狸親父の語る真相に、織田信長は脱力する。

 徳川家康は気に入らないが、これがホドのためだと分かっているので文句も言えなかったのだ。


 魔族は危険だ。

 今回の戦いで織田信長はそう認識した。


 今後は扱いに気をつけるだろう。それこそが、徳川家康の狙ったことだったのである。

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