表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/143

第百四話 存在としての格

「烏天狗。あーし本気出すから、遠慮しないでやっちゃえ」


「……そうか。では、そのようにしよう」


 魔王を前に、酒呑童子と烏天狗は言葉を交わす。


「どうした? 今更になって作戦会議か? 無駄だろうに」


 対する魔王は笑いながらゆっくりと二人に歩み寄っていた。

 隣には闇で構成された『先代魔王』もいる。


 魔王が圧倒的に優位だった。流石俺のお嫁さんである。理不尽に強いところも愛らしい。


 このまま正面から激突しても、敵二人は先ほどまでと同じようにやられるだけだろう。


 だが、次の攻防はそうならないように何か策があるらしい。


 酒呑童子は何やら覚悟を決めたいように表情を引き締めている。

 烏天狗も何かを察して頷き、懐から団扇のようなものを取り出していた。


「お、扇いでくれるのか?」


 茶化す魔王に、烏天狗は表情を崩さずに団扇を向ける。

 たびたび目にする団扇だ………あれには力を感じた。


 ――何か来る。

 そう直感すると同時、団扇が動いた。


「【羽団扇】――『火炎』」


 刹那、膨大な量の火炎が場を襲う。

 周囲の全てに牙を剥く、無差別大規模攻撃。


 あの団扇、『神隠し』だけじゃなくて他の力も持っているらしい。


 おいおい、マジか!

 味方である酒呑童子も巻き込まれるだろうに、それを気にせずに相手は仕掛けてきた。


 普通ならこのようなことはしないだろう。

 しかし、酒呑童子はさっき『遠慮しないでやっちゃえ』と言っていた。烏天狗の大規模攻撃を活かすために、自分はあえてダメージを受けることにしていたのだろう。


 捨て身ともいえるような攻撃だ。

 そして俺もピンチだった。


「やべっ」


 慌てて剣を構え、迫る炎を斬ろうと試みる。

 しかしその前に、魔王が俺を守ってくれていた。


「【闇よ、勇者を守れ】」


 魔王が、先代魔王の形をした闇に指示を出す。

 すると、闇が俺を包み込むように姿を変えた。


 そのおかげで火炎は俺に届かずに消えていく。


「魔王!」


 だが、魔王は直接火炎を浴びていた。

 俺を守るために躊躇なく闇を使用するあたり、愛を強く感じる。


 でも、傷ついたらイヤなのはこっちも同じだ。


「大丈夫か!?」


 声をかけてすぐ、魔王は俺に返事をしてくれた。


「無論だ。我はセフィラだからな、貴様より頑丈だ……少し服が焼けたがな」


 煙が晴れて、ようやく視認した彼女は無事だった。良かった……

 だが、衣服は無事じゃなかったようで、焼け焦げて危ない格好になっている。


「き、気をつけろよ」


「うむ。勇者以外の男に肌を晒すわけにはいかんからな」


 俺としては、敵に気をつけろよという意味合いで言ったのだが。

 ともあれ、魔王は炎を浴びてなお余裕を崩してはなかった。


「ほう? 貴様、殲滅型の戦闘タイプだったか。そこのやつなどいない方が、まだ我と戦えただろうに。足を引っ張られて残念だったな」


 お、煽ってる。

 その言葉に感化されたのか、煙に包まれていた酒呑童子はすぐに魔王へと飛び掛っていく。


 相変わらずの特攻だ。これでは先ほどの二の舞になると思うのだが。


「ひっく」


 ……ん? 状態が、少し違うような。

 違和感を覚えて目を凝らしてみると、彼女の手に『ひょうたん』が握られているのが見えた。


 え、もしかして……酒飲んでる?

 そこにまず驚いて、今度は別の意味で更に驚かされることになる。


「【闇よ、迎え撃て】」


 魔王が闇で迎撃して、酒呑童子が先ほどと同じように殴られる。

 そこまでは同じだったのだが、ここからが違った。


「あはっ」


 殴られて、だが彼女は踏ん張る。

 そして、その拳を魔王に向かって振るった。


「っ!」


 拳は魔王に届かないが、発生した風圧によって魔王は吹き飛ばされる。

 すさまじい拳圧だった。闇の一撃に耐えたことといい、明らかに耐久力と力が向上している。


「【酒盛り】……あーし、お酒飲めば飲むほど強くなるんだよね~。ま、酔っ払ったら死ぬけど」


 これもまた『妖術』ということだろう。

 酒を飲んだ量によって能力が向上。ただし酔うほど飲むと能力低下、といったところか。


 どうやら酒呑童子には余力があったようだ。


「【羽団扇】――『嵐』」


 後方で烏天狗が再び団扇を振る。

 今度は吹き飛ばされそうなほどの風が場を襲った。これもまた団扇の力なのだろう。


「【闇よ、勇者を守れ】」


 魔王は当然のように俺を守ろうとした。

 それによって魔王は無防備となる。


 そこを、酒呑童子は隙と見たようだ。


「じゃんじゃん行くし!」


 魔王へと殴りかかる。

 酒呑童子は、闇を持たない魔王なら楽勝だと言わんばかりに、正面から突撃してきた。


 これが酒呑童子と烏天狗の作戦、なのだろうか。

 烏天狗の大規模攻撃でわざと俺を巻き込み、魔王かた闇を引き剥がす。


 そうすればなんとかなると考えているのだろうか。


 だとしたらそれは、甘いと言わざるを得ない。




「殴り合いを所望か? うむ、ならば望みどおりに」




 接近する酒呑童子。

 対する魔王は、真上に飛び上がることで酒呑童子の一撃を回避した。


「――は?」


 鮮やかな身のこなしを見せる魔王に酒呑童子は呆けている。

 その隙に魔王は、酒呑童子を蹴り飛ばした。


「がはっ!?」


 その小さな体からは考えられないパワーを受けて、酒呑童子は吹き飛ぶ。

 だが攻撃は終わらない。


「【転移】」


 魔王は転移して、吹き飛ぶ酒呑童子の背後に回りこみ、容赦なくその背中を殴り飛ばした。


「ぐ、ぁ」


 地面に体を打ちつけた酒呑童子は、息を漏らして呻く。

 魔王の攻撃を二つ受けたのである。彼女はもう戦闘不能だろう。


「酒呑童子……っ」


「他人の心配をしている場合か?」


 驚愕する烏天狗にも魔王は容赦しない。知覚できない【転移】で背後にまわりこみ、酒呑童子と同じように背中を殴った。


「ぐは……っ!」


 酒呑童子の隣に倒れた烏天狗。耐久力はあまりなかったのか、もう起き上がれそうにない。


 そんな二人を見下しながら、魔王は一言。


「弱いな」


 唾棄するような言葉が、格の違いを示す。

 魔王という存在に挑むには、この二人では少し荷が重かったようだ。


 二人は『闇』さえなければ魔王に勝てると思っていたのだろう。

 だが、魔王の強さは『闇』ではない。


 彼女が最も得意とするのは『接近戦』なのだ。


 転移という変幻自在の移動方法と、圧倒的なパワーを惜しみなく運用できる肉弾戦の組み合わさった接近戦は、生半可な実力だと歯が立たない。


 小さな体には想像できないほどの力が宿っているのだ。

 それこそが『魔王』という存在である。


 まったく……相変わらずすごい奴だな。


 今更になって思う。


 俺、よくこいつと互角に戦えてたよな――と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ