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第百三話 おぞましくても可愛い

「熱っ! 燃え落ちるのも時間の問題か……?」


 本能寺を走る。

 目指すは魔王の気配がある場所だ。


 彼女の黒くて禍々しくもどこか色っぽい気配は特徴的なので、どこにいようともその場所は感じ取ることができる。


 少しすると、すぐに彼女は見えてきた。

 庭園と思わしき場所で、二人の敵と戦っている。


 もちろん魔王は優勢だ。

 ケテルのセフィラ特有の力らしい『闇』で酒呑童子と烏天狗をあしらっていた。


「っ! ふざけんなし……あーしらを舐めんなよ!!」


「屈辱」


 二人の息は荒い。

 かなり一方的にやられているようだ。


「貴様らが弱いだけだ。先代魔王ごとき退けられんようでは、我が直接手を下すこともできないな」


 魔王は小さな鼻を鳴らして嘲笑していた。

 生意気な表情も可愛かった。


「おーい、魔王~」


 手を振りながら走り寄る。

 そこで彼女も俺に気付いたようで、こちらを見て目を大きくしていた。


「勇者っ!? ちょ、待つのだ……今は髪の毛が乱れているっ」


 慌てて髪の毛をなでつけているけどあまり変化はないような。

 乙女心というやつなのかもしれない。


「な、何をしに来たのだっ? 助けは要らないぞ」


「いや、寂しくて」


「くふっ……やめろ、勇者っ。嬉しくて変な顔になるだろうが!」


 戦いの最中だというのに魔王はしまりのない表情を浮かべる。


 こいつ、頼られたり甘えられると本当に嬉しそうにするよな……だから遠慮なく今後も甘えていかないと!


 まぁ、それはさておき。


「は? ちょ、なにそのイチャイチャ……まさか彼氏?」


 酒呑童子が俺と魔王のやり取りを見て表情を歪めていた。


「ありえなーい……非処女とか、幼女の価値ないし。それじゃあただの淫乱なメスじゃん」


 どうやら魔王の処女性を気にしていたようだ。

 やれやれ、こいつは何も分かってないな。


「クソが! ぶっ殺すぞ!?」


「ゆ、勇者? 落ち着け!」


 おっと。いけないいけない。

 魔王をバカにされて一瞬だが怒りそうになっていた。


 非処女の幼女に価値がないとか、それはちょっと共感できない。


「淫乱な幼女がいたっていいだろ! 最高にエロいから!」


「勇者……あ、あまり大声でそんなこと言うなっ。恥ずかしいのだ」


 魔王があわあわしている。

 仕方ない。赤面して可愛い魔王に免じて、これくらいで溜飲は下げておこう。


 一発殴るくらいで許してやるか。


「勇者? おい、どうしてやる気満々なのだ」


 その時、前に踏み出しかけた俺を魔王は制止した。


「そこでゆっくりしていろ。勇者の怒りは我が晴らしてやるからな」


 頼もしい言葉を口にして魔王は敵を睨みつける。

 その横顔は凛々しくて、エロかった。


「黙って見ていろ。勇者は何もしなくていい。我が代わりにやってあげるから、任せてくれ」


「魔王……」


「たまには嫁の威厳とやらを見てるがいい」


 なんて頼りがいのある幼女なのだろう。

 思わず見とれてしまった。


「う、うん。任せた」


 彼女の言葉通り俺はその場で待機する。

 大人しく魔王の威厳を思い知らされることにした。


「それに」


 魔王は酒呑童子と烏天狗を眺めながら、揶揄するように片頬を吊り上げる。

 これは、相手を舐めくさっている時の顔だった。


「勇者が出るほどの敵でもないようだからな」


 このあたりは『魔王』らしいというか、容赦のない言葉である。

 当然、敵である二人は面白くないわけで。


「ロリビッチとか、面白くないって感じ? あーし、処女以外存在すら許さない派だから」


「……舐めるな」


 酒呑童子と烏天狗が攻勢に出た。


 前衛は酒呑童子のようである。戦意を剥き出しに魔王へと掴みかかった。

 その体は微かにだが茶色い光が纏われている。


 恐らく、妖怪種の使う妖術の一種だろう。


「っは!!」


 裂帛と同時に繰り出された拳は、空気を切り裂いて轟音をかき鳴らす。

 尋常じゃないパワーだ。見たところ、この力は妖術が生み出しているようだ。


 相手はタマモやフクさんと同じ妖怪種である。

 かなりの実力者なのは、戦いが始まってすぐに理解できた。


 しかし――魔王の敵ではないようだ。


「【闇よ、迎え撃て】」


 魔王は一言、使役する闇に命令を下す。

 あの闇は第一世界『ケテル』のセフィラのみが扱える力だ。


 その凶悪さは、誰よりも彼女と戦っていた俺がよく知っている。

 正面から素手で迎え撃つのは愚策だ。


「っ!?」


 酒呑童子が迫ると同時、闇が魔王の前に飛び出てくる。

 それはたちまちに大柄な男魔族の姿となり、酒呑童子と激突した。


 あの闇は、確か第五十七代の魔王、つまり先代の形をしている。

 ケテルのセフィラが扱う闇には、歴代魔王の怨念が宿るらしいのだ。


 それを魔王はいつでも具現化できる。

 しかも、形はあるがそれは所詮【闇】でしかない。


「やっぱり、ありえないし」


 スルリと、闇は酒呑童子の拳をすり抜ける。

 しかし闇が振り切った拳は、酒呑童子の顔面を強かにぶつけていた。


『物理攻撃の無効化』


 闇の持つ特性である。効果があるのは光属性のみという鬼畜っぷりは、魔王という存在に相応しい力だ。


 魔王と戦うのなら光属性の宿る武器か力が必須である。


「ぐ、っ……」


 だが、酒呑童子は打たれ強いようだ。

 なおも立ち上がり、再び拳を構えている。


 そんな彼女を見て魔王はおぞましい笑顔を浮かべていた。


「いつまで立っていられるか試してやるのも悪くないな」


 ああいう顔も悪くないなと、俺はそばで見ていて思うのだった。

 なんかぞくぞくする――。

お読みくださりありがとうございます!

いよいよ明日、本作品が発売となります。

特典SSの情報など活動報告にてまとめました。

見ていただけると嬉しいです!


もしよろしければ評価やブックマークをしていただけると励みになります。

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