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第九話 働かない勇者などただのゴミクズである

 魔界『ケテル』の一角、闘技場にて。


「オレの名はドラゴ! 魔王軍四天王が一人だ! 勇者よ、お前を矯正してやる!!」


「えー……そういう熱血なのは、ちょっと」


 勇者は、四天王の一人と対面していた。

 彼は決闘を受けて、この場にやってきていたのである。


「えっと、トカゲくん? 何でそんなに怒ってるわけ?」


「トカゲではない! オレは龍人ドラゴニュートだ!!」


 語尾にビックリマークがトレードマークの彼は、龍人のドラゴという。

 種族の通り、外見は龍人間のごとき。


 大きな翼に、爬虫類を思わせるのっぺりとした顔、そして尻尾は先ほどからビタンビタンと地面を打っていた。


 かなりの巨体である。

 ドラゴは口の端から火の粉を吐きながら、勇者を真っすぐに睨んでいた。


「しかも、炎の龍人だ! 俺を舐めないほうがいいぞ!?」


「声が大きいし、会話が通じる気がしない……最近の若者はよく分からんな」


 勇者はうぇーっと表情を歪ませつつ、くるりと振り返る。

 真後ろには、魔王をはじめとして四天王の面々が揃っていた。


「勇者よ、ドラゴは貴様より年上だぞ? 話が通じないのは年齢のせいではなく、単純に性格のせいだ」


 魔王は少し不機嫌そうである。

 愛しの勇者に声を荒げる下僕を快く思ってないようだった。


 しかし、決闘を止めるまではしない。

 というか、勇者なら負けないだろうという絶対的な信頼があって、今回の戦いは許可したという経緯もある。


「すまんな、勇者よ。我の下僕が苦労をかける」


「いいよ、気にすんな。後で魔王が耳かきしてくれるなら、全部許す」


「なに!? み、耳かきする!! やった、勇者の耳かきっ」


 歓喜乱舞する魔王と、愛らしい彼女を見てだらしなく頬を緩める勇者。そんな二人に、ドラゴは更に声を荒げた。


「だから、魔王様に甘えすぎだと言ってるだろう! 少しは自重しろ!!」


「……嫉妬か?」


「そういう低俗な気持ちではなく、お前を甘やかすせいで魔王様が仕事をしないから怒っているのだ!!」


 そして、お怒りの理由を表明したドラゴに、勇者は表情を硬くする。


「そ、そうなの? お、俺、そこまで甘えてないってか、別に仕事邪魔する気はなかったというか」


「黙れ! お前の気持ちは関係ない、魔王様が仕事をしなくなったのが問題なのだ!!」


「うぐっ……は、反論の余地がない」


 正論である。故に、魔王もドラゴの不敬な物言いに何も言えなかったらしい。


 へたくそな口笛を吹きながら、白々しく明後日の方向を見つめていた。


「魔王様? だから私、何度も注意しましたよ? 面目を保つためにも、少しは働いてくださいって」


 魔王の隣に控える、四天王の一人――サキュバスのユメノが、ため息交じりに呟く。

 前々から、二人の素行は問題視されていたようだ。


「ま、わらわは自由にして良いと思うのじゃがのう。仲睦まじいのは良き事じゃ」


「そ、そうであろうタマモ!? 我、別に間違えてないだろうっ。そうだ、勇者が素敵すぎるから悪いのだ、我は何も悪くない!!」


「そうじゃな。よしよし、魔王は悪くないのじゃ」


 四天王が一人、妖狐のタマモに魔王様は泣きつく。

 狐耳の、九本の尾を持つ幼い童女は褐色の幼女を優しく撫でていた。


 四天王最古参の一人であるタマモは、魔王のお姉さん的立ち位置にいる。ちなみに、浴衣などの和装も彼女の影響である。


「ともあれ、催しとしては面白いと思うがね。せっかく、勇者君という魔王君に並ぶ強者がこの場に居るのだ。ドラゴ君は四天王で一番の新参、あれくらい血気盛んで丁度良いと吾輩は思うぞい」


 そして、残り一人である四天王、スケルトンのスケさんが顎骨を撫でながらそんなことを呟いた。


 骨のみの体にネクタイという変態じみた出で立ちだが、それがポリシーらしいので誰も何も言わないことにしている。


 そんな面々に見つめられながら、勇者はむむむと唇を尖らせていた。


「で、お前は俺をどうしたいわけ? ちなみに、働くのは無理だ。俺はもう、お世話される悦びを知ってしまったからな」


「ゴミクズが!」


「ちょ、直球はやめろ……傷つくだろうが」


 しかも反論できないからどうしようもなかった。


 現状、魔王に寄生する勇者はゴミクズ以外の何者でもない。


「働けとは言わない! せめて、魔王様の邪魔をするな! オレの要求は、ただそれだけだ!!」


 ドラゴも勇者には何も期待してなかったのだろう。


 何もするな、というある種誰でもできることを要求してきた。


「な、なんて無慈悲な要求なんだっ」


 しかし、ダメ人間と化した勇者にその要求はあまりにも酷だった。


 彼にとって、魔王とはもはや空気そのもの。なければ死ぬ。それくらい、勇者は堕落しきっていた。


「魔王と俺の邪魔はさせない……俺の、幸せなヒモ生活のためにっ」


「このクズ野郎が!!」


 ドラゴの怒りは最もである。

 というか、非の打ち所がないくらいに勇者が悪いのだが、開き直った彼に反省の色はない。


 同時に、ここは魔界なのだ。

 己の信念は、拳によってのみ語られる。


 そんな、実力至上主義の世界でもあるのだ。


「どの道、オレに負ける程度の器なら、魔王様の隣に居る資格もない! 実力を示してみろ、勇者!!」


「上等だトカゲ野郎が!! こちとら前は勇者として、たった一人で人間界守ってきたんだぞおらっ!? 四天王最弱のお前が勝てると思うなよ、バーカ!」


 拳と拳がぶつかり、決闘が始まる。

 初撃は、互角であった。地面がめくれ、衝撃波が広がるほどの一撃を放ち、受けた二人は同時に後方へ吹き飛ぶ。


「力はまぁまぁか、流石は爬虫類!」


「龍だと言っているだろうがぁあああああ!」


「え? 龍って爬虫類だろ?」


「龍は龍である!! 爬虫類でひとくくりにするなっ!」


 次撃は、ドラゴが繰り出す。

 彼が放ったのは、龍人の十八番――吐息ブレスであった。


「焼け死ね!!」


 灼熱の炎撃。勇者は機敏な動きで右に回避するも、ブレスがその背中を追いかけてきた。


 炎との追いかけっこに勇者は笑いながらも、地を駆けてドラゴへと接近する。


「良い宴会芸だな」


 ブレスを潜り抜けて、再び接近戦の間合いへと入る勇者。


 ドラゴは爬虫類じみた目を細めつつも、ブレスを止めて肉薄してきた勇者を迎え撃つ。


「龍人を、舐めるな!!」


 再びの拳。ぶつかり合い、またしても吹き飛ぶ二人。


 力は互角。スピードは勇者が少し勝っているようだが、それに翻弄されない冷静さをドラゴは持ち合わせているようだ。


 四天王の名は、伊達ではないということである。 

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