表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

おや、道端に金が落ちている。

(はいー。とりあえずは初めてのスキル発動と死亡回避、お疲れ様でしたー)


 キュリアがぱちぱちと手を叩くのを、俺はひきつった笑顔で返した。多分今俺は、目の前の女と全く同じ顔を歪ませていることだろう。

俺が変身したのはキュリアの姿だった。黒く長い髪、白い羽根。今は羽根を何となく動かして空中に浮かんでいる。胸のあたりが重たいのはグラマラスな成人女性の姿に変化したからだろう。しかし残念なことに全裸ではなく、彼女と同じ白い服を着ていた。おそらく「目の前の女と同じ姿」を念じたため、皮膚が衣服に変化したのだろう。全裸でも服を着た姿になることができるのは発見だった。


(そう!これで全裸でありながら公衆の面前に臆面もなく立つことが出来るという、高度な露出プレイが可能に)


 そんな話はしていない。


(むふふ。「残念なことに」っておっしゃってたじゃないですか。違った、念じてたじゃないですかー)


どうやら無意識に念話が発動していたようだ。頭の中で思うだけで会話が成立するのは便利だが、騙しには不便とも言える。しかしこうして大人の姿になったのだから、やっと喋ることが出来る訳だ。

とりあえず発声練習を。


「あーあーっと……喋ると女の声がするってのはちょっと驚くな」

(うふふー。何だか妹が出来たみたいで可愛いですー……しかし最初の変身に『わたし』を選んだのには何か意味が?)

「条件でお前は言ったろう。『見たこともない人にはなれない』と。なら今目の前にいる(・・・・・・・)お前ならなれるのかと思っただけだよ。現実に存在していなくてもなれるのか、とか羽根が生えてるだけで飛べるのか、とか試すのに丁度いいというのもあるが」


 ま、この女は「物理的に干渉できない」と言ったが、現実に存在していないとは言っていないんだがな。人から見えないようにするスキルがあるのか、立体映像のようなものなのかは分からないが、そういうものにも変身できると分かっただけでも良しとしよう。


(そのお試しが外れただけであなた死んじゃうんですけどねー。詐欺師のクソ度胸、といったところでしょうかー。くすくす、ご主人様に選ばれただけはありますねー)


 キュリアは楽しそうに笑っているが、どうせ俺がヘマをしたところである程度は助けてくれたのだろう。何せこいつは俺をあまり早く死なせてはいけないのだから。ただ、何度もヘマをすれば見限られることはあるかもしれない。

 そう、おそらくこいつのご主人様とやらには何らかの目的がある。詐欺師の勘、と言ってしまうとうさんくさいが、うさんくさい香りがぷんぷんする。そもそも詐欺の罪を償うのに、与えられたスキルが『変身』と『詐術』だ。『詐術』の概要は分からないが、名前がろくなもんじゃないから断言していいだろう――詐欺師にこんなスキル与えたら絶対悪用するに決まってる。反省するもへったくれもない。本当に罪の償いのための人生ならば、スキルを与えて放り出すより、身動きの取れない不治の病にでもした方が手っ取り早いだろうし。

 天使を名乗るこいつは、一体何を考えている?

 しかし俺が何かを言うより早く、キュリアは手をぱんと鳴らすとこう言った。


(ではチュートリアルはいったん終了でー。続きはまた後日―)

「おいちょっと待て。まだ第二のスキルとやらを試してないんだが」

(「詐術」スキルですが、詐欺師のあなたならすぐ使いこなせるんじゃないですかー?まあステータス欄を見ればわかりますよー。申し訳ないのですが、ただでさえご主人様は天使使いが荒いので、また次の現場へ急行しないとならないのですよー。それではまた会いましょう……あなたの運命と、ご主人様の御心のままに)


 そう言うとキュリアの姿はテレビの電源を切ったようにぷちっと消えた。

 正直何も説明された気がしない。いろいろ聞き出そうとした矢先に逃げられたようにも思える。しかしこれで確信が持てた。

 絶対にキュリアは、そしてその背後にいるご主人様とやらは、俺に何かをさせたがっている。恐らく、今ここで目的を告げても俺がうんと承知しないような面倒くさいやつを。

 ほぼ何の説明もせずに放り出すのは、説明したくないか説明しても今はどうしようもないか、あるいは両方か、ってことだ。きっと監視はしているのだろうし、俺が死にそうになったら助けてくれるのだろう。だがそれ以外のことははなはだ怪しい。

 ぐちゃぐちゃと人の裏を読み、人を信じない性格は、死んでも変わらないようだ。だからこの場で方針も決まった。

 今はまだ目的も分からないが、俺は神を信じないし、俺は神を騙す。知らないふりをして奴らの目的を暴いて、協力する素振りを見せて逃げ、また気ままな詐欺師人生を謳歌してやるのだ。

 とりあえずグッと拳を握って「がんばるぞー」と天に向かって言ってやった。


 そして俺は決意から十数分後、運命に出会った。

 川岸のすぐ傍に倒れていたのは、これでもかとばかりに金の匂いのする豪華な服を着た、銀髪の幼女だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ