最初のスキル発動
(何でも聞いていいとお前は言ったな。じゃあ今この状況を説明してくれ。5W1Hで。今はいつ、どこで、あんたは誰で、俺に何をした?それはなぜだ?あとあんたいくら持ってる?)
(あれ?5W1Hってそうでしたっけー?)
キュリアが小首を傾げるので俺は丁寧に教えてやった。
(When,Where,Who,What,Why,How muchだろ)
(……天使は基本的に神にご奉仕する立場なので、現金は持っていないのですー)
(ちっ使えねーな)
(詐欺師の癖に正直ですね?!さっきまで声も出てなかったのに余裕ありません?)
確かにさっきまで驚きばかりだったが、今は違う。話せない状態と言われたときは肝を冷やしたが、頭の中で念じているとはいえこの女と、キュリアと会話ができている。
相手と話が出来るのならば、そこは詐欺師のホームだ。
しかも既に質問に一つ答えているということは、キュリアという女は本当に疑問に答えてくれる存在だと言うことだ。ここは畳みかけるべきだろう。
俺が計算を働かせているということを知ってか知らずか、キュリアはにっこりとほほ笑んだ。
(5Wにまとめてお答えしましょうか……ここはあなたが元生きていた地球とは別次元の、異世界です。あなたは詐欺師として告発されず、罰を与えられずに死んだので、改めて罰を与えるために異世界へ転生させられました。世界の名前は、ツヴィリングズ。今は水牛の陰暦、満日であなたの誕生日でもあります。あなたは今日、0歳児として生まれて、生後間もなく捨てられた状態なのですよ)
思った以上の衝撃が走ったことに驚いた。そりゃあ大往生はできなかったとしても、何十数年か生きてきた俺という存在がいとも簡単にリセットされてしまった、というのは聞かされて見るとやっぱりきつい。
しかも赤ん坊からって。捨て子からって。いや前世でも両親に愛された記憶なんてこれっぽちもないが。
(ああなんと不幸。ですがあなたの罪はこれくらいの不幸では留まりません。せっかく他の世界から魂を引っ張ってきて転生させてあげたのに、知識だけあっても赤ん坊なんてすぐ死んでしまいます。なのであなたが苦しみながらちゃんと生きながらえてもらえるように、なるべく早くに死なないようにサポートさせていただくのがわたしの役目なんですよー。序盤のチュートリアルキャラという訳です。簡単な事柄であれば、この世界の常識や言葉、風習などについても教えることができますー。何とかペディアだとでも思っていただければー)
(……聞きたいことはやまほどあるが、緊急性の高いものをひとつ)
(はいどーぞ)
(このままだと俺はすぐ死ぬということだが、今死に瀕するような危機が迫っていると?)
(はい。この川は滝壺に繋がっているので、早くカゴから脱出しないと落下して死にます)
(じゃあとっとと俺を助けろ!)
(いやいや。わたし、この世界には物理的に干渉できないんですよー。今あなたに見えてるのもチュートリアルのおまけ的なものなので、あなたにしか見えてないんですー。だからあなたに何とかしてもらわないといけないんですよー)
(赤子に何を期待してんだ?!)
生まれたばかりだから寝返りすらうてんわボケが!
(ですので、転生もののお約束、あなたにしかない特別なスキルをご主人様はお授けになりましたー。その名も『変身』と『詐術』ですー)
とっとと説明しろ!遠くからごごごごって音がしてるから!
(『変身』スキルの詳細を!何が起こるか、条件は、ペナルティはないか!)
(んふー。『変身』は文字通り、あなたの身体を変化させるスキルです。あなたがなりたい対象を具体的に頭に思い浮かべて、『変身』と念じれば、その身体に変化します。条件は身体を具体的に思い浮かべなければならないこと。あなたが見たこともない人にはなれないこと。ペナルティは……ありません。今は)
最後に不安しかない言葉がついたが、知りたいことはわかった。早速俺は頭の中で『変身』と念じてみた。
ぐりぐりぐり、と身体の肉が変化していく感覚。どんどん腕が伸びる。胴体が伸びる。これは時間がかかるのか?しかも肉体が直接変化するということは、今は裸だからいいものの、服を着ているときは要注意か――
しかし数秒後、変化は完了したらしく。
俺は背中の羽根で、空へ飛び出した。
そしてまた数秒後、俺の入っていたカゴが滝壺に呑みこまれていった。