目覚め
――水の音で目が覚めた。
まず目の前が明るいことに俺は驚き、ついでにどこかに移動していることに驚いた。確か俺はトラックにはねられたはずで、そこから考えればここは病院かどこかのはずなのだが、眼前に広がる青い空から屋外なのだと察せられた。路上で放置されたのか。いやしかしそれなら景色がゆっくり流れているのはおかしい。
様子を見ようと身体を起こそうとして――その身体が自分のものではないことに気付いた。
身体の比率が明らかにおかしいのだ。腕から手までの距離が短い。掌はしわくちゃで傷一つなく、柔らかくてぷにぷにだ。
俺を恨んでいる奴らが、何らかの手段で身体改造でも行ったんだろうか。心当たりが多すぎてわからん。なんとか置きあがることは出来たので辺りを見回す。どうやら動いているのは船のようなものに乗せられているからで、具体的に言うと川に流されているようだ。
(はい大正解ですー。ぱちぱちぱち)
どこからともなく声が聞こえた。ぞっとしたのはそれが耳から聞えてきたのではなく、脳に直接聞えてきたような音だったからだ。
(それも正解ですー。今あなたの脳内に直接話しかけていますー。まあすぐ上にいるんですけどね)
ばっと空を見上げると、さっきまで雲ひとつなかったはずの空に、女が浮かんでいた。長い黒髪をなびかせ白い服を着て、優しげな笑みをたたえている。鳥の羽根のようなものが背中についているので、あれで空に浮かんでいるらしい。いわゆる天使ってやつだ。
(いえーい。初めましてはインパクトがあった方がいいってご主人さまから言われましたが成功ですねー。わたしはキュリアと申しまして、神様からあなたの監視役として派遣された者ですー。以後よろしくお願いしますー)
そう言ってぺこりとお辞儀をした。俺は詐欺師としては大変不名誉なことなのだが、絶句していた。口先から生まれてきた俺が何も言えないなんてよっぽどのことだ。一度に入ってくる情報量が多すぎて頭がパンクしそうだった。
(質問には何でもお答えしますよー。ただしそちらからのお話は念話でお願いしますねー。今のあなたは喋れない状態なので)
不安になる言葉を付け加えて、女は――キュリアはほほ笑んだ。