嘘つきの終り(始まり)
俺は以前結婚詐欺を働いた相手に呼び出され、待ち合わせ場所に向かっていた。さて、騙した相手に復讐されそうになるのは何度目だったか。しかし俺がぺらぺらと綺麗な嘘を並べたてると、騙されたと気付いて怒り心頭だった相手が、いつの間にか涙を流して自分が悪かった、もう疑わないなどと言ってくるのだ。騙された相手にもう一度騙されるなんてありえないと一般人なら言うだろうが、俺はこの道何十年も、この口先だけでやってきた。
根っからの悪人で屑で嘘つきな俺だが、残念ながらまだ一度も殺されたことはない。しかし俺のような奴は、後ろから誰かに刺されて死ぬのが最も適当な死に方だと思う。罪を重ねているのに罰がなされないなんてあまりに不公平だ。
そんなことを考えながら歩いていたら、目の前にトラックの鼻先が見えた。
――賠償金、いくらせしめられるかな。
実のところ賠償金どころではなく、それが俺の最期だった。
つまり神様なんていなかったってことだ。だってそうだろう。俺は詐欺師として生きてきて、結局誰にも嘘を見破られなかった。誰からも罰は与えられず、交通事故なんかで死んだ。こんなにもあっけなく、辛い思いもせずに死ぬなんて。
もし次があるのなら。
俺のことを絶対に信じない奴がいてくれたらいいのに。
まあ嘘なんだが。
死んでから思考が続いていることに疑問も抱かずに、俺は眠るように意識を閉じた。
だが実は神は存在していた。
故に、嘘つきな男に罰を与えるため、前世よりも過酷な別世界へ、男を転生させることにした。