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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第三章
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第九十九話 一時休戦

「さて、今のうちに距離を稼ぐか」

「さすがはお父様! 素晴らしい判断です!」

「わふ!」

 一向に受付へ進もうとしないマリアナとノーラを放置して、松田たちは迷宮の扉を開いた。

「クスコ、案内を頼む」

「承知いたしました主様、ですが私の記憶も、一度狂ったせいか欠落がありますので完全ではないことをご承知おきくださいませ」

 松田の首に巻きついたままクスコは申し訳なさそうに言う。

 リアゴッドに契約を断ち切られ、狂気に陥ったクスコは松田によって倒されるまでの記憶を失っている。

 それだけではなく使い魔として再生された代償なのか、ところどころの記憶が欠損していた。

 このフェイドルの迷宮に関しても、封印された最下層のガーディアンやルートの一部の記憶がない。

「十分だ。なまじ先入観があると対応が遅れるしな」

「ああ、優しいですわ主様」

 チロリと舌を出して松田の首筋を舐めるクスコを、ステラとディアナは憤然となって妨害した。

「ベタベタしないでください!」

「それはステラのです! わふ」


 ――――ちょうどそのころ、いつの間にか松田の姿が見えなくなっていることに、ようやくマリアナとノーラは気づいた。

「おい、あいつの姿がないが、いいのか?」

「何ぃ? くっ、ナージャ、急ぐぞ! 初日から置いていかれるのは我が誇りが許さん!」

「素直な女性のほうが可愛いと思いますよ?」

「三十路の嫁ぎ遅れに素直とか言われてもなあ……」

「ぬああああああっ! やっぱり殺す! 今ここで貴様を殺すううう!」

 ノーラに嫌味でもなんでもなく、素で突っ込まれて、再びマリアナは激高する。

 そのマリアナの手を問答無用に引っ張り、シェリーはあっさりと動きを封じた。

 体格でいえばシェリーのほうがマリアナよりも小さい。おそらくは膂力もマリアナに劣るはずである。

 自分と対等に白兵を行えるマリアナの自力を、ノーラは十分に知っていた。

 そのマリアナをいとも簡単に制した。

「…………やるじゃないか」

「貴女も、いつまでもからかっていると肝心な獲物に逃げられますよ?」

「違いない」

 コリンと違い、シェリーが油断できない手練れであることを知ったマリアナも不本意そうに同意した。

「もうこんなあばずれに関わっていられるか! 行くぞナージャ! シェリー!」

「はいはい」

 視線でナージャはシェリーに礼を言う。

 迷宮管理所長の太鼓判は伊達ではなかったようだ。騎士としては優秀な部類に入るナージャでも、ああも容易くマリアナを制圧することはできない。

(でも忠誠までは求められないわよねえ……この娘、腹に一物ありそうだし)

 これほどにマリアナに虐待されていながら、最後の一線では騎士として王国に忠誠を誓っているナージャであった。

 任務に忠実そうなシェリーではあるが、それ以上の義務感をもってマリアナのために働いてくれるとは思えない。

 とはいえシェリーの実力は歓迎すべきである。嫁ぎ遅れの問題児であっても、王女を迷宮で死なせるようなことだけは、万難を排して防がなくてはならなかった。

 松田のあとを追って自然と速足から駆け足のようになっていくマリアナとノーラは、迷宮の入り口を抜けた瞬間、信じられぬものを見た。

「――――召喚サモン・ゴーレム!」

「あ、やっと来たです? わふ」

「お先に失礼しますわ」

 それは颯爽とグリフォンゴーレムに跨って上空へと舞い上がる松田たちであった。

「それ卑怯おおおおおおおおおっ!」

 いかに優れた戦闘能力を持つといえど、大地を二本の脚で歩かなければならないマリアナとノーラに追いつく術はなかった。

 森林型の迷宮で、上空をフライパスできることのメリットは考えている以上に大きい。

 が、それ以上に松田のゴーレム術にノーラは衝撃を受けていた。

(な、何よ……なんでたかが移動に三体もゴーレムを召喚できるのよ!)

 この世界の常識として、ゴーレムは便利ではあるが燃費の悪い術式である。

 松田がどれほど優秀な魔法士であるとしても、その制約からは逃れられないとノーラは考えていた。

 もし彼女が正確に情報を集めていれば、松田が騎士団をしり目に上空を移動していった事実を知ることができたであろうが、生憎ノーラは自分の見たものしか信用しない性質の女であった。

(移動手段に三体召喚できるとすれば、戦闘時にはいったい何体召喚できるというんだ?)

 対魔法士戦闘に絶対的な自信を持つノーラであるが、敵が集団となればその限りではない。

 空から地下から、遠距離から、近距離から、あらゆる場所から攻撃されて凌ぎきれると思うほどノーラは己の武に自惚れてはいなかった。

(…………ますます殺すより私のモノにしたくなってきたよ。マツダ)

 楽しそうに舌で唇をしめらせてノーラは嗤う。

 ひどく興奮しているのに、脳の芯が妙に冷たく冴えわたるような感覚。

 こういう感覚になったノーラは、目的のためには手段を選ばない。

 マリアナを出し抜き、自分のモノにするため。誰のモノにもならぬよう間違いなく殺すため。

 ――あのマツダの能力は脅威だ。戦い方によってはノーラの切り札をもってしても負ける。 

 そもそも何一つこの手に触れることもできぬまま、マツダが迷宮を攻略して勝手に帰還してしまう危険性があった。

 それほどにゴーレムという移動手段を持つことは反則的であった。

「ちょいといいかい? 王女様」

「何よ? 早く追わなかきゃならないんだから! 貴女と話している暇なんて……」

「一時休戦といかないか?」

「ええ?」

 少なからずマリアナは驚いた。

 数少ない宝石級探索者であるノーラは、悔しいが有能で手ごわい相手だ。

 白兵戦闘ならともかく、迷宮の攻略では自分とナージャだけでは到底勝ち目はないだろう。

 だからこそマリアナは迷宮のスペシャリストであるシェリーの手を借りることを選択した。

 なんといっても現在フェイドルの迷宮は百五十階層までしか攻略されておらず、かつてはドワーフ王が攻略したという記録が残されているのだが、いったい最下層が何階層なのかという記録は失われていた。

 とりあえず二百階層までは森林型であることはわかっているとはいえ、その先がダンジョン型や沼沢型でない保障はない。

 そうした意味で複数の迷宮を経験したことのあるシェリーは貴重だが、宝石級探索者として名をはせるノーラの経験に比較すれば足元にも及ばないであろう。

「どういう風の吹き回しだ?」

「さすがの私でも一人であいつに追いつくのは厳しい。それは迷宮経験の浅いそちらも同じことだろう? 一時的にでもいいから手を組もうじゃないか。悪い話じゃないと思うよ?」

 確かに魅力的な提案であった。

 ノーラの手助け無くして、この圧倒的な差を縮めることは不可能だとマリアナも承知していた。

 マリアナは別に迷宮を攻略したくてここを訪れたわけではない。

 本人は認めないが、松田のあとを追って彼との距離を縮めるためにやってきたのだ。

「そ、そうだな。この際やむを得んか」

 少々引っかかる部分はあっても、ノーラの提案は魅力にマリアナは抗えなかった。

 性格的に好きにはなれなくとも、ノーラの実力は認めているからだ。

 そして二人はあくまでも暫定的な同盟を組むことに合意したのである。


「――――前方の木々の間に罠」

「知らねえな!」

 シェリーは大きく開いた木々の間に魔力による罠の糸が張り巡らされていることを看破した。

 レベルアップを果たしたシェリーは魔眼のスキルを所有しており、前衛のみならずスカウトとしての役割も果たせるようになっている。

 ――が、そんなことはノーラにとってはどうでもいいことであった。

 この程度の罠をいちいち解除していては松田には追いつけない。

 何よりこの程度の罠はノーラの脅威でもなんでもない。

「――――ふん!」

 四方から襲い来る矢を一振りで斬りはらって、ノーラは不敵に嗤った。

「百階層から先まで罠のことなんざ気にするな。さすがの私も転移罠や毒には手こずるからね」

「――――承知した」

「承知したじゃないわよ! 今、矢がこっちに飛んできたじゃないの!」

「別に矢の一本や二本ぐらい平気だろう?」

「姫様の装備ならそうかもしれないですけど、私のはごく平凡な官給品なんです!」

 マリアナやノーラの基準で対応されては、とてもではないが身が持たない。

 ノーラが斬りはらった矢が自分の額めがけて飛んできたときは、一瞬死んだかと思ったナージャである。

「いいですか? 私はごくごく平凡な騎士であって探索者じゃないんです!」

「それでよくマリアナの護衛が務まるね……」

「ぐふうっ!」

「いいんだナージャはこれで。この腕で私についてきてくれる部下は貴重だ」

「好きでついてきてるわけじゃないですからね? あと私、王国軍の騎士のなかでは決して弱いわけじゃないですからね? というか護衛の役目を果たせないから、そろそろお役御免でいいですよね?」

「お前に婚活の自由は与えない。絶対にだ!」

「ひどい! ひどいですううう!」

 もはや様式美と化しつつある漫才を横目に見つつ、シェリーは嘆息したい思いでいっぱいだった。

(持てる者とはこれほどに違うものか)

 松田と別れて以来、死ぬ気で鍛え上げてきたつもりだった。

 マクンバの街では達成できなかった金級の探索者となり、宝石級を目指すのも夢ではないと実感していた。

 しかしノーラとマリアナの強さは、そうした努力を超越した何かである。

 おそらくはこの先努力を続けても、シェリーがこの二人に追いつくことはできないだろう。

 経験は力になるが、逆に言えば純粋な力以外の何かに頼るということでもある。

 その絶対的な差が、シェリーには歯がゆかった。

(――情けない話だ。こんなことで私はお前の力になれるのか? なあ、マツダよ)

 それでも諦められないものがある。

 一度は捨てた命をもらったあの日から、いつか自信をもって松田に向き合える自分になると誓ったのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] マンガから興味を持って原作見に来たけど誤字が多すぎ。 誰からも指摘されませんでしたか? この話では名前を間違えてるし…… 完結となっているので誤字報告はしません。 なろう原作小説はマトモな校…
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