表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第三章
96/166

第九十六話 宝石級探索者ノーラ

 マリアナと松田の大立ち回りは、たちまち王宮内に噂となって広まった。

 好意的な意見もあれば否定的な意見もある。

 好意的な意見は、少なからず王女の婚活に危機感を抱いていた人々で、うまくすればあの地雷を松田が引き取ってくれる。少なくとも鼻っ柱をへし折られた王女が大人しくなってくれることを期待したものであった。

 否定的な意見は、やはり松田がエルフであることに起因したものが大きい。

 たかがエルフに一国の王女が辱められたのだ。そもそもエルフが配偶者として候補にあがること自体が許せぬ問題である。

 そうした人々の中には、妖狐討伐で恥をかかされたと信じている軍務卿スペンサー伯ノーラッドもいた。


「ふざけるな! あのエルフの若造め!」

 白銀の髭を震わせてノーラッドは杯を床へ叩きつけた。

 フェイドルの迷宮が妖狐の出現によって使用不能に陥ったと聞いた時には快哉を叫んだものだった。

 それは軍と勢力を二分する迷宮管理所なる機関と、その背後にいる宰相バッキンガム公の損失を意味していたからだ。

 ところが、である。

 迷宮管理所が両手を挙げ、満を持して軍が迷宮の秩序を回復する。

 そんなノーラッドの期待は見事に裏切られた。

 たった一匹の白狐を相手に惨敗に次ぐ惨敗を喫して、せっかくの騎士団が半ば壊滅する被害を受けたのである。

 国王も宰相も、軍も大したことはない、などという暴言は吐かなかったが、散々迷宮管理所を批判していたノーラッドを見る目は冷たかった。

 探索者ごとき無頼と違い、正規の訓練を積んだ騎士団の手にかかれば妖魔ごときひとひねり。

 誰かれ構わずノーラッドはそう吹聴していたし、それができると信じていた。

 探索者などより、軍のほうがよほど命懸けの実戦と訓練をしていると今でも信じている。

 ――――だが現実は無情だった。

 軍は白狐の前に何もできず、逆に多大な損害を被り、あまつさえ白狐はふらりとこの国を訪れた探索者の手によって退治されてしまった。

 王宮における軍務卿の鼎の軽重を問われかねない失態であった。

「コパーゲンの馬鹿どもが国境で騒ぎださなければ……」

 そういえばこのところコパーゲン王国との国境は落ち着きを取り戻している。

 どうやら人を捜索していたらしいが、その捜索が打ち切られたらしい。

 それさえなければ軍の切り札でもある将軍クラスの投入もできたはずなだけに、ノーラッドは腹立たしかった。

 そのコパーゲン王国の騎士団が捜索していた人物というのもわかっている。

 その名はリアゴッド。黒髪のエルフであり、コパーゲン王国の迷宮を使用不能に陥れた元凶だ。

 ほぼ同時期にスキャパフロー王国で発生した白狐の跳梁、その被害から救ったのが同じ黒髪のエルフだなどという偶然があるだろうか。

 理性では松田にアリバイがあることはわかっている。

 フェイドルの迷宮で白狐が登場した時点で、松田はドルロイの弟子としてリュッツォー王国で活動していた。

 だがコパーゲン王国の黒髪のエルフと仲間でないと言い切れるだろうか?

 ――――そんなはずはない!

 理性ではなく感情によってノーラッドはそう結論づけた。

 ノーラッドが松田に対して腹を立てる原因はそれだけではない。

 もともとドワーフはエルフに対して、憎悪とまでは言わないが、種族的な偏見を有している。

 それはおそらくはエルフも同様であると思われた。

 そのエルフが、よりにもよって王女の配偶者の候補にあがったという噂なのである。

 初めてその噂を聞いた時には耳を疑ったものだ。

 このスキャパフロー王国が建国されて以来、そんなバカげた話は初めてであろう。

 ところが、噂も決して根も葉もないものというわけではなかった。

 あのお転婆――というには薹が立ちすぎているが――王女が松田に完敗を喫したという。

 本当だとすれば驚くべきことであった。

 あの王女の実力は癪ではあるが一流で、ノーラッドが全盛期であっても勝てるかどうか怪しいほどである。

 この国で勝てるとすれば数少ない将軍クラスの武勇が必要であろう。

 その王女に勝利したというのであれば、松田の実力も侮りがたいことは確実であった。

 そのこと自体も面白くない。どこかドワーフの誇りを傷つけられたような気がするのだ。

 それ以上に面白くないのは、松田がマリアナの相手として王宮内で肯定的に受け止められているという事実である。

 冗談だろう? とノーラッドは思う。

 いかにマリアナが地雷であるとはいえ、彼女は歴とした王族なのだ。つまりその配偶者となるならば松田もまた王族と同様に遇さざるを得ない。

 王宮内での実質的な権力はともかく、軍務卿であるノーラッドといえど敬意を払わなくてはならない相手となるのだ。

 どうしてそのことに危機感を抱かないのだ、と誰かれ構わずわめきたい気分であった。

 松田のせいで、迷宮の利権をもぎとろうとしたノーラッドの企みも失敗に終わった。

 このうえ王宮ででかい面をされるなどノーラッドのプライドが許さない。

「いったいどうしてくれよう……是が非にもこのままではおかん!」

 白狐が討伐されたことで、迷宮に軍の兵力を送り込むことはできなくなった。

 松田を早く国外に追放できればいうことはないが、今後の風向き次第では手荒な手段も考慮しなくてはならないと考え始めるノーラッドであった。



「――――ちょっと話が違うじゃないか!」

「と言われましても王宮の布告に逆らう権限は当職にはありませんので」

 冷たくミネルバに要求を一蹴されて、女の声が一オクターブ跳ねあがる

「そんなことを言ってるんじゃないよ!」

 迷宮管理所の受付で憤然と怒声を浴びせているのは、一人の女性探索者であった。

 年のころは二十代も後半から三十代の前半というところであろうか。

 眩い黄金の長髪が印象的な美女である。少し目元がきついのと、肌に衰えが見えるのはご愛敬だ。

「せっかくこの私、宝石級探索者ダリアの獅子ノーラが戻ってきたというのに、今さら秘宝の所有権を認めないはないだろう!」

 ノーラがそう激高するのも故ないことではなかった。

 例外的に秘宝の所持を認める、スキャパフロー国王の名でそう布告されたからこそノーラは一度は国外に出たのを引き返してきたのである。

 それほどにドワーフが抱える迷宮の秘宝というのは魅力が大きい。

 赤字を覚悟でせっかく引き返してきた途端、やっぱり秘宝は渡せませんと言われれば、頭にくるのはむしろ当然の反応であろう。

「すでに白狐の討伐は完了しています。迷宮が正常に稼働している今、特例を認める理由がありません」

「じゃあ、なんで前に入った連中は秘宝の所持を認められているんだ!」

「彼らは迷宮が全く機能していない状況で、討伐に協力してくれた人達です。秘宝の所持を認められたうえで迷宮使用契約を結んでいます」

「もう討伐は終わったってんなら、奴らも無効にしなきゃ不公平だろが!」

「――――ですから、国王の名においてそういう契約が完了しているのです。気の毒ですがノーラ様にはその契約がありません」

 松田があまりに早くクスコを討伐してしまったことの弊害であった。

 フェイドルの迷宮に探索者を呼び戻すため、秘宝を三つまで持ち出すことを認めたのだが、これはあくまでも例外の措置であり継続する必要を国王ジョージは認めなかった。

 さすがにクスコとの報われぬ戦闘に協力してくれた探索者に関しては年内まで特例を認めることとしたものの、それで収まらないのは除外された探索者である。

 ほんのわずかな時間差で、貴重な秘宝を所有できる者とできない者とが分けられることとなった。

 そんなことは断じて容認できないとノーラは言っているのだった。

「私だって好きでここを離れたわけじゃない! あの性悪狐の排除には参加していたぞ! 無報酬で!」

 しかしノーラは公務員ではなく、自らの稼ぎで生活していかなくてはならない探索者だ。

 無報酬が続けばいずれ困窮してしまう。

 もう少し王国が早めに探索者の救済策を打ち出していれば、もっと多くの探索者がスキャパフローを離れずに済んだろう。

 ノーラに言わせれば王国の措置は、甚だ理不尽で不人情なものであった。

「承知しています。こうして戻ってきてくれたことに感謝もしています。ですが我ら迷宮管理所の独断で国王の判断を覆すことはできません。ここはギルドでなく王立なのですから」

 ノーラのために多少の便宜を図ることならできる。

 むしろ攻略のサポートや、買取の査定では優遇してもよいとすら思う。

 しかし秘宝の管理規定まではごまかせない。

 それをすれば下手をしなくともミネルバの首が飛ぶ。

 人生を買える額の賄賂を渡されれば、いろいろと詰んだ職員なら汚職に走るかもしれないが、それなりに出世コースにのっているミネルバはそんなリスクを犯すつもりはなかった。

基本的に公務員が裁量権限を逸脱することはありえないのだ。

「――――このわからずやが!」

「なんと思われましょうとも、規則を守るのが私の職務でありますので」

「勝手にしろ! こんな迷宮なぞ干上がってしまえばいいんだ!」

 どうやら交渉しても埒が明かないらしい、とノーラは憤然と管理所のカウンターを蹴った。

 求めるものが得られないなら出ていく。

 それが探索者というものであり、ノーラ自身もこんな恥をかかされて黙っていられる人間ではなかった。


「――――相変わらず短気だな。剣の調子はどうだ?」

「むっ? ゲノックのじいさんか?」

「じいさんは余計じゃ!」


 ノーラにとっては貴重な魔剣を鍛えてくれた旧知の鍛冶師、五槌のゲノックが、意味ありげに話かけてきたのはそのときであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ