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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第三章
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第九十五話 婚活王女マリアナその2

「いい度胸です!」

「コテンパンにするです! わふ」

「だからどうして幼女が戦う気満々なんだ?」

「「幼女じゃないです! (わふ)」」

 マリアナは困惑を隠さない。

 彼女にしてみれば、松田の腕前を測りたいだけだというのに、そんな名誉を与えられて怒っているステラとディアナの気が知れなかった。

「少しは空気を読みましょう、とか陛下に言われませんでしたか?」

「むっ? どうして貴様がそれを知っている? ナージャ! 黙って頷くんじゃない! 給料下げるぞ!」

「そ、そんな……殺生です!」

 とばっちりを食らって涙目になるナージャである。

 騎士の俸給は決して高いものではない。むしろ安い。これ以上減らされたらナージャの婚活に深刻な影響をもたらしかねなかった。

 というか、本気でもう少し空気を読め!

「私は幼女といえど手加減はしないぞ?」

「幼女じゃないですが、こっちも手加減はなしですから!」

「わふわふ!」

「やりすぎて負けても文句言わないでくださいね?」

「はっはっはっ! この私に勝てたのなら誰が文句をいうものか! 私は王国でも五本の指に入る戦士なのだぞ!」

 大言壮語というなかれ。

 困ったことにマリアナの言葉は事実であった。

 ごく稀に生まれる人間の身体にドワーフの膂力をもって生まれた特異体質である。

 空気が読めない代わりにのめりこむのは人一倍で、並みの騎士が裸足で逃げ出すほどの修行もした。

 その結果がマリアナにとって幸いであったかどうかは不明だが。

 少なくともマリアナが恐るべき武勇の持ち主であることに関しては、誰も否定のできない事実であるのだった。

「その言葉忘れないでください!」

「思い知るです! わふ」

「やってみろ!」

 なんだかせっかく盛り上がっているのに、一人だけついていけない松田である。

 王女に気に入られる気も、下手にヘイトを買う気もないのだから当然といえば当然であろう。

「そこ! 他人事みたいな顔をするな!」

「――――それでは、恥ずかしながら微力を尽くすといたしましょう――召喚サモンゴーレム!」

 突如背後に出現した騎士ゴーレムにマリアナは一瞬面食らった。

「遠隔召喚か!」

 通常魔法士がゴーレムを召喚できるのは、術師を中心とした半径五メートルほどの範囲内である。

 だが、松田の召喚はこの常識に当てはまらない。その気になれば半径百メートル以内のどこにでも召喚が可能であった。

 そうでなければ数百ものゴーレムを同時運用などできるはずがないのだ。

「ふん、この程度で満足してもらっては困るぞ?」

火球ファイアーボール!」

 一瞬驚きはしたものの、マリアナは抜き打ちの一刀で騎士ゴーレムをあっさりと腰斬する。

 だが間髪入れずディアナの魔法が炸裂した。

「――――ふん!」

 一閃、マリアナは魔剣を振りぬくとディアナの魔法を切り裂いた。

「私の魔剣に平凡な魔法が通じると思わぬことだ」

「火球、火球、火球、火球、火球、もいっちょおまけに火球!」

「ちょ、なあ!」

 優れた魔法士であれば不可能ではないとはいえ、これまでマリアナが経験したことのない連射速度で魔法が飛んでくる。

 しかもなんだかんだいって王族であるマリアナに、ここまで容赦なく直撃コースの魔法を放ってくるものは少なかった。

 少なからずマリアナが驚くのも当然であった。

「くっ……この程度の魔法、直撃しても多少痛いくらいなのだが……むざむざ当たってやるわけにはいかん!」

「後ろがお留守なのです。わふ」

「んなっ? ぐはっ!」

 ディアナの魔法を煙幕代わりにして、いつの間にかステラがマリアナの背後へと迫っていた。

 それでも本能的に前方へと飛んだのは、マリアナの戦闘センスの非凡さを示すものであろう。

 おかげでステラの蹴りの衝撃が、半分以上緩和されてしまったが、わき腹を捉えた痛撃はマリアナの心肺機能にダメージを与えずにはおかなかった。

 その好機をステラが逃すはずもない。

「まだです! わふ」

 人狼ならではの身体能力で、前へ飛んだマリアナへとさらに加速するステラにさすがのマリアナも面食らった。

 少なからず王国指折りと信じていた自分の武が、もろくも崩れ去るかのようであった。

「やむを得ん――――攻性防壁リアクティブウォール!」

「わふぅっ!」

 マリアナの装備する優美なハーフプレート。

 フルプレートと違い、また動きやすさを追求して極限まで薄くつくられたそれは、魔力によって障壁を作り出す秘宝アーティファクトでもあった。

 ステラの突撃は、突如出現した障壁によって阻まれ、鼻を強く打ったステラは涙目で呻いた。

「ふう……私に秘宝を使わせるとは、ここ五年はいなかったぞ」

 冷や汗が頬をつたう。

 それでもまだ強がりをいう余裕がマリアナにはあった。

 個人的武勇もさることながら、マリアナが装備した武具はまさにドワーフの生み出した技術の結晶ともいうべきもので、並みの探索者では一生お目にかかることのできない稀少品であったからだ。


「――――ここからですね」

「うむ」

「ふえっ? へ、陛下ああ?」


 誰に言うともなくマリアナの戦いぶりを見て呟いたナージャは、いつの間にか自分の傍らで、国王と宰相が見物しているのに気づいて惑乱した。

 間違っても一介の侍女が肩を並べて観戦してよい相手ではなかった。

「よいよい。お前には苦労をかけておるし、この戦いの行方は余にとっても関心があるのでな」

 あわよくば不良在庫を引き取ってもらいたいのはジョージも同じ。ただし松田を絶対に敵に回すことだけは避けたい。

 まともな人間ならマリアナを娶ろうとは思わないだろうが、箔と権力を志向する者なら見込みはある。

(――――苦労させてると思ってるなら誰かと変えてよ! 女の盛りは短いのよ! これだからおえらい人は!)

 苦労させてるとは思いつつも、それも義務のひとつであることを疑わない。

 常に下から奉仕されることに慣れている、国王ジョージの限界であった。

「……それにしてもあの幼女がここまで強いとは……」

 ジョージの前であのマリアナを相手に、戦いの主導権を握っているのは明らかに二人の幼女のほうである。

 目が飛び出るように高価なマリアナの剣も鎧も、怒りに燃えるステラとディアナを止めるには不足のようであった。

氷槍アイスランス! 火球ファイアボール!」

「そんなものは効かんと……なあ?」

 障壁の発動によって受け止められた氷槍と火球が、濛々と水蒸気を発生させマリアナの視界が閉ざされた。

 最初からこれを狙っていたのか! とマリアナの背筋に冷たい悪寒が走る。

 王女である自分に対し、ここまで戦術を駆使してきた相手はいなかったのだ。

「わふっ!」

 気合一閃、ステラが暴速のスキルを使用してマリアナの障壁を突破する。

 全自動の障壁はその対応速度を超える対象に対して効果を発揮することができない。

 さすがのマリアナもこれまでか、と思われたのだが。

「――――面白い。私を本気にさせたのは久方ぶりのことだぞ」

 魔法すら越える反応速度で、マリアナはステラの拳を軽く下から叩いてその軸をずらす。

 それでもなおすれ違いざまに蹴りを叩きこんだステラの格闘センスも特筆に値するであろう。

 だが、本命ではない攻撃で致命傷を負うほどマリアナの装備は安くはない。

 多少の衝撃はマリアナも覚悟の上。 

 腹部に軽い鈍痛を覚えるが、それ以上に雄敵と出会えた喜びのほうが勝った。

 すでにマリアナの頭の中から、松田という男の品定めをするという本来の目的は消えていた。

「楽しい。楽しいじゃないか」

「目的を忘れてはいけませんわ、姫様!」

 明らかに本末転倒になりそうなマリアナにナージャは思わず声を張り上げた。

「それはそれ、これはこれ、だ!」

「そんな甘いことを言っていると、高収入、高ステイタスにおまけに高年齢がついてくるんです! 瀬戸際なのわかってください!」

「誰が瀬戸際だ! 私はまだまだ若い!」

「三十路を若いと言ってくれるのは四十路五十路だけだとどうしてわからないのですか!」

「お前と一緒にするな! 乙女の歳は心の在り方で測るべきなのだ!」

(いや、それはない…………)

 言葉には出さずに内心で深く脱力する国王と宰相であった。

「馬鹿にしないでいただけますか?」

「年増は引っ込め、なのです。わふ」

「誰が年増だ! 幼女といえどもう容赦せん!」

 マリアナは魔剣の拘束を解放する。剣を包んでいた魔力は実際の熱量を伴う炎の付与を受けて紅く輝きを増した。

「むぅ、いかん。あれはもう試合の次元を超えているぞ!」

 ジョージは呻くように呟いた。

 父親であり、マリアナに魔剣を与えた張本人であるジョージは、あの魔剣の非常識な切れ味を知り尽くしている。

 ドワーフの匠たちが、技術の粋を尽くした国宝のひとつ魔剣ガリアーニ。

 盾や鎧の防御をほぼ無効化する熱量制御技術は、現在の五槌をもってしても再現は困難と言われるほどで、それを向けられるステラとディアナが無事に済むとは到底思われなかった。

「姫様! 落ち着いて! 殺してしまってはまだ地雷の汚名に箔が――――」

「人を馬鹿にするのもいい加減にしろおおおお!」

 激情の赴くままに剣をふりかぶるマリアナであったが、それを見下す冷たい視線があった。

 松田である。

 マリアナに対する戦闘方法を決めかねていた松田であるが、ことここに至り脅迫によって彼女の心を折ることを選択したのであった。

「おい、衛兵! 早くマリアナを止めよ!」

「無理です! ただの衛兵にあのガリアーニを使用した王女を止めるのは――」

「――いいえ、もう終わっています」

 決然として言い放つ松田に、ようやくジョージたちはこの戦いにまだ松田が参加していなかったことを思い出す。

 だからといって、魔剣ガリアーニの力を解放したマリアナを相手に、今さら松田が参加してどうなろう。

 いかに王女とはいえマリアナがここまで傍若無人を許されているのはひとえにこの武力あればこそ。

 宝石級探索者といえど勝ち目などありはしない、と彼らは確信していた。

 しかし――――

召喚サモン巨人ギガント!」

 全長三十メートル近い大巨人ゴーレムが召喚されると、あまりの非常識さにジョージも、宰相も、コリンも、そしてマリアナも呆気にとられた。

 こんな大巨人を召喚する魔法士など大陸中を探しても存在しない。

転倒フォール

 間髪入れずディアナの魔法がマリアナの足元を襲う。

 巨人に気を取られていたマリアナはたまらずバランスを崩し、微塵の躊躇も容赦もなく、巨人の戦槌が振り下ろされた。

「いやああああああああ! それ死ぬ! 死んじゃうからああああ!」

 ペタリと尻もちをついてマリアナは泣き叫ぶ。

「もうだめだあああああああ!」

「それやりすぎいいいいいい!」

「この際、それもあり?」

 最後に非常に生々しい本音が聞こえた気がするが、彼らの心配は杞憂に終わる。


 ――――ドゴォッ!


 女の子座りでギュッと目を閉じたマリアナの右わきスレスレに戦槌は炸裂し、彼女の半径五メートルを、ほぼ一メートル近く陥没させた。

 命中していたら即死を免れないことを、実力者であるマリアナだからこそ誰よりはっきりと、細胞の隅まで全身で理解した。理解せざるを得なかった。

 自分は情けをかけられ生き永らえたのだ、と。

 やはり自分の目に狂いはなかった。松田はマリアナより強い男性であることを、これ以上ない形で示してくれた。

 ――――とはマリアナは考えなかった。幸いなことに。

「乙女の尊厳をなんだと思ってるのよおおおおおおおおおお!」

 内股になりつつ、怒髪天を衝く勢いでマリアナは絶叫した。

 いくら強くても自分に恥をかかせる男には我慢ならない。

 女のプライドは婚活に優先するのだ。

「冷静になってください姫様! あと何年かしたら午後三時過ぎには顔がひび割れるようになるかもしれないんですよ!」

「さっきからお前は私をなんだと思ってるんだ! 減給してやる!」

「そんな――――!」


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[一言] 決闘を受けるなら殺せ、それが嫌なら決闘を受けるな。
2021/12/12 07:01 退会済み
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