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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第一章
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第八話  ギルド登録

この作品の社畜ネタは作者の実体験とは無関係です。

お願いですから無関係ということにしておいてください。おっと、誰か来たようだ…………

引き続き作者は社畜ネタを募集しています(笑)

 外壁をくぐって少し歩いたところに、ゴドハルトが指揮する守備隊の詰め所がある。

 自ら先頭に立って松田たちを案内するゴドハルトは、木製の長椅子が並べられた休息所に入ると兵士の一人にお茶の用意を命じた。

 「どうかこちらでおくつろぎください。ところで何か身分を証明するものは――ないでしょうな。エルフの方には」

 「えっ?」

 「えっ?」

 『えっ?』

 全く想定していなかったゴドハルトの言葉に、松田は心底不思議そうに考えこんだ。

 人狼はともかくエルフとはいったい誰のことだ?

 『まさか主様、自分がエルフだということに今まで気づいていなかったとか?』

 「初耳だよ! 鏡見たこともないし! あのやろう肝心なことを言い忘れやがって!」

 転生したと思ったらエルフになっていた。

 もちろん神は松田にそれを教えてやるつもりなど毛頭なかった。

 むしろ今頃、驚いた? としたり顔でニヤついているに違いなかった。ファック!

 「…………マツダ殿?」

 「ああ、すいません! 長旅で最近自分がエルフであることをうっかり忘れてしまうんですよね、ハハハハハ!」

 「確かに、マツダ殿は外見以外はエルフという感じがいたしませんな」

 エルフは孤高の種族と呼ばれる。

 好奇心や商売のために人間の世界を訪れるものは少なくはないが、基本的に人との間に壁を作っていて無口であるのが相場であった。

 しかも大抵は上から目線で人間を下に見ていることが多い。

 松田のように腰の低いエルフは、ゴドハルトにとっても初めて見るものだった。

 「――といっても、何の身分証明もないというわけにはいきません。これも規則ですので」

すまなそうにゴドハルトは松田に頭を下げる。

 できることならゴドハルトも野盗討伐の英雄として、松田を歓迎したいのだ。

 「いえいえ、その身分証明というのはどこで手に入れられるので?」

 「通常であれば故国の公文書ということになるのですが、そうでないとなると大陸共通組織……ギルドが一般的でありましょう」

 「ギルド?」

 『大陸全土に超国家的にネットワークを持つ互助組織です。商人ギルドや職工ギルド、探索者ギルドなどが有名ですね』

 「わふ?」

 先ほどの一件でディアナに仲間認定されたらしいステラは、聞きなれない言葉に可愛らしく首をひねった。

 「なるほど、それではギルドまで行って参ります」

 「身分証明書ができましたら守備隊の庁舎までお越しください。ガイアスには懸賞金がかかっていましたから、それをお渡しいたします」

 「これはどうもご丁寧に」

 よほどの鍛錬を積んだであろう見事な体躯のゴドハルトが、非常に丁寧な物腰であることに松田は好感を抱いた。

 いかつい顔に鍛えられた肉体をもった人間が、腰が低かった例は少ないのだ。

 その身体の持ち主が公務員で、相手が民間人であった場合は特に。

 「わふう、ご主人様、お腹がすいたです」

 「登録が済むまで我慢しろ。それが終わったら宿をとって夕食にしよう」

 ガイアスのアジトから失敬してきた軍資金もあることだしな!


 「――――ところでどのギルドに登録すればいいんだろう?」

 いきなり最初の時点から躓く松田であった。

 『おそらく探索者ギルドが一番手間がかからないかと』

 「なんだ? その探索者ギルドっていうのは?」

 『迷宮ラビリンスを探索し、運用し、制覇することを目的として作られた組織です。やはり千年程度では迷宮を制覇することはできなかったのですね』

 「――――迷宮ラビリンス?」

 ドルディア大陸には数多くの迷宮が存在する。

 ディアナが造物主に創り出されたころには、およそ千ほどの迷宮が確認されていた。

 ある迷宮は森に。

 ある迷宮は地下に。

 ある迷宮は天空に。

 ある迷宮は海底に。

 無尽蔵ともいえる魔物と、貴重な秘宝アーティファクトをその内に蓄えた迷宮は、一獲千金を狙う 探索者にとって約束された蜜の滴る土地であった。

 迷宮の大きさと難易度は、管理者マスターによって異なるが、もっとも有名なのは深淵アビス超越者オーバーロード最古オリジナル神竜ドラゴンであろう。

 残念ながらそうした伝説級の管理者が支配する迷宮はいまだ攻略されたことがなく、これまで踏破された迷宮は、例外なく上級以下の魔物が支配するものに限られていた。

 とはいえ攻略の途上であっても、迷宮がもたらす秘宝や魔石に変わりがあるわけではない。

 需要の増大とともに探索者を管理し、探索を補助運営するための組織として探索者ギルドが立ち上げられた。

 本部は大陸でもっとも大きな権威と歴史を持つゴンドワナ帝国の帝都オラクルにあり、初代のギルドマスターには皇帝の甥にあたる探索者ヴォルフラム・オットーが就任した。

 彼はディアナの造物主ライドッグの友人にあたる人物でもあった。

 その後千年余にわたって紆余曲折を経ながらも、探索者ギルドは大陸各国に深く根を下ろしていたのである。

 松田のような住所不定無職の身分を証明する手段としては、もっともポピュラーな組織と言うべきであった。

 「へえ、ダンジョンみたいなもんか」

 『もちろん、ダンジョンタイプも数多く存在します。でも中にはただの平原とか、火山まるまるひとつみたいな迷宮もあるんです』

 ダンジョンと違い、見た目にはなんの変哲もない迷宮――ディアナが封印されたミルファの森も、かつてはそんな迷宮のひとつであった。

 もしかすると他の絢爛たる七つの秘宝なかまたちも同じように迷宮を封印の核にしているかもしれない、とディアナは思う。

 できれば彼女たちも助けてやりたいところだが、そのために主を危険にさらすのは従者としてはやはり憚りを感じてしまうのだった。

 (――――でも、私たちは感情を持った知性インテリジェントある秘宝アーティファクト……秘宝であるがゆえに人間のように狂うことも許されない。そんな私たちに千年の孤独は長すぎる)

 話す相手もいない。それどころか音もなく人間のように身体から感じる五感を持たないディアナは永遠にも思えるときの中で、解放を待ち続けてきた。

 解放されたら、また造物主といたときのような楽しい時間が戻ってくるのだと、無垢な少女のようにそれだけを信じていた。信じる以外に術がなかった。

 (私は――――運が良かった)

 主として松田の力量には疑問の余地はない。それ以上に人として松田が優しく、平凡な性格の男にすぎないことがディアナにはうれしかった。

 それはかつて、ディアナが造物主との生活のなかで、望んでも叶えることができなかったものであるからだった。

 なぜなら造物主は正しく英雄を体現した存在であった。

 「わふう、あそこに探索者ギルドって書いてあるです!」

 血まみれだった上着を捨て、露天商から松田に真新しい緑色のチュニックを買ってもらったステラはご機嫌で松田の腕を振り回した。

 ハイテンションで松田の周りをぐるぐると回るステラを見ていると癒される。

 目を細めてステラの頭をくしゃりと撫でまわすと、松田は意を決して探索者ギルドの入り口のドアを開けた。

 思ったよりも殺風景な建物の中は、受付のカウンターと買い取りや各種手続き用の窓口、そして職員のためのオフィスとなっているようであった。

 「ようこそ当ギルドへ」

 カウンターの女性に微笑まれた松田は、いつもの癖で愛想笑いを浮かべて腰を折った。

 まるでモデルのような体形の美女である。

 ――が、自分がそれほどもてないことを熟知している松田にとっては、眼福眼福程度のものであった。

 「登録をしたいのですが、よろしいですか?」

 「ギルドは新たな探索者の誕生を歓迎いたします。ではこちらの窓口へ」

 松田の連れてこられた窓口には、先ほどの受付と違って年季の入ったお局様が鎮座していた。

 どこの世界でも受付嬢と事務職の格差は厳然と存在するのである。

 もっともそう思っても決して口にしてはいけない。少なくともそれなりの退職金をもらって引退したい人間ならその程度の分別はあってしかるべきなのだ。(断言)

 「エントリーシートは必要ですか?」

 「――はいっ?」

 「履歴書と職務経歴書については時間があれば用意いたしますが」

 「は、はあ…………」

 「失礼ながら今日は御社のパンフレットが用意できませんで、よろしければ今後のために拝見させていただければ幸いです」

 「あなた何をしにここにいらっしゃったのかしら?」

 素で般若の形相をし始めたお局様に、松田はうっかり就活生であったころの癖をさらしたことに気づいた。

 「探索者の登録をお願いしたい」

 「ではここに署名を。探索者の規約についてはこちらの冊子をご覧ください。規約にはずれた探索者をギルドは一切擁護いたしませんから重々ご注意を」

 「あくまでも自己責任ということですか?」

 「もちろん探索者が探索者として正当な活動に勤しめるよう、ギルドは全力で支援いたします。ですがここのような地方の出張所には限界があるとご承知ください」

 「ああ、本社の決済がないと動けないんですね。わかります」

 一万円以上の出費は全て本社決済、緊急の自動車の故障や得意先との飲食費も例外はなし! しかも稟議が必ずしも決済が下りるとは限らない。決済が下りなければ自腹! 圧倒的自腹! 地方出向社員はつらいのだ。(泣)

 「あのぅ……どうして泣いてるんですか?(ドン引き)」

 「すいません……ちょっとつらかった昔を思い出しまして」

 エルフは外見から年齢を推し量ることができないことを思い出したお局様は、松田にもつらい過去があったのだろう、と勝手に自己完結した。

 「最後に魔力の登録をお願いします。はい、これでマツダ様の登録は終了しました。今後は毎年金貨一枚の更新料が発生します。なお迷宮内での取得物はその評価額に応じ一割がギルドの手数料となります」

 「――ほう、それでギルドは探索者の保護のために何をしてくれるので?」

 期待は最初はなからしていないが、一応聞いてみる。

 「迷宮情報の講習や初期技能のレクチャー、オークションの管理、低利での融資などですね」

 「迷宮内で大怪我をした場合の福利厚生などは?」

 「迷宮での負傷は自己責任です。ただし窃盗や殺人は王国法が適用されますのでご注意ください」

 「ですよね~~」

 やはり全ては自己責任だった。

 なるほど働くも働かぬも自由だが、この手の自由は往々にして社畜より厳しいものであることを松田は知っている。

 どれだけサービス残業を強いられても、最低限社畜は基本給を保障されているが、自由業はその基本給すら保障されていない。

 もちろん当たれば大きいが、はずれたときのセフティーネットは無きに等しいというのが自由業のつらいところであった。(作家もそうかもしれない)

 「迷宮内での秘宝、魔石をギルドを通さずに販売、着服した場合、身分の剥奪および高額の賠償金を請求いたしますので」

 「ギルド以外に販売できない?」

 「いえ、あくまでも無断でというだけです。査定も基本的に内包されている魔力量の等級で判断されております。探索者ギルドであればどこの支部であるかは問いません」

 「――なるほど」

 頷きつつも松田の表情は険しかった。

 当たり前のことなのだが、予想以上にこの世界の現実は厳しい。

 セイフティーネットがないのに一割の収入を強制的に搾取されるのは、ある意味ブラック企業にいるよりも問題であった。

 「ご主人様! 書けましたです! わふ」

 「はい、貴女の登録も結構です」

 そんな松田の苦悩をよそに、満面の笑みを浮かべるステラの無邪気な顔に癒されながら松田は顔をあげた。

 「よしよし、今日のところはこれでいいかな? ところで宿泊先を探しているんだが、どこかいい宿はないかな?」

 「それでしたらギルド提携の青い燐光亭がよろしいかと。探索者の身分証を出せば割引してくれますから」

 「ありがとう。明日また来るよ」

 「またのお越しをお待ちしております。ありがとうございました」


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