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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第三章
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第七十三話 デファイアント山脈を越えてその2

 松田の知る言語には訳しがたい雄たけびがあがる。

 言葉の意味はわからなくとも、それが決して友好的なものでないのは明らかであった。

 人数も百人は下らない。

 まともな商隊であれば、交戦を諦めて身一つで逃げ出してもおかしくない数である。

 だがアランの商隊の面々に浮かぶ表情は、むしろ歓喜のそれであった。

 (…………戦闘狂かよ)

 少なからず戦闘を好む人間でなければこんな商売をやっているわけはないか。

 松田は一人で勝手に納得すると静かに詠唱を始めた。

 「――――召喚サモンゴーレム」

 二体の大盾持ち騎士ゴーレムを召喚する。

 戦闘狂がいるのなら攻撃は任せて防御に徹するのがいいだろう。

 現にパリスやナルガクのような前衛戦士は、今にも飛び出したい衝動をかろうじて抑えているという様子であった。

 「――――マツダさん、ゴーレムを召喚して魔法が使えますか?」

 心配そうに尋ねてきたのは魔法士のケテルである。

 護衛隊ではただ一人の魔法士で、脳筋集団っぽい護衛隊のなかでは数少ない知的な容姿をしている。

 金髪碧眼でやや吊り目がちだが、全体的には温和な雰囲気を漂わせているので松田としても話しやすい相手だった。

 「土魔法なら問題ありません」

 「…………すごい魔力量ですね。二体もゴーレムを召喚してまだそんな余力が……」

 人間の魔法士なら一体の維持ですら困難。

 さすがはエルフというべきなのか、それとも松田が規格外なのか。

 「助かりますよ。この護衛隊では私のほかに魔法支援がいませんので」

と、同時にブンと空気の震える音がして、荷台の上から光の軌跡が流れて山人の額に突き立った。

 「…………無駄口を叩いている暇はないぞ」

 不愛想な弓士のロビンが目線を合わそうともせず、次の矢を放つ。それにしても弓士でロビンとはお似合いすぎる。

 「さて、私たちも働くとしますか」

 「そうですね」

 後方から矢と魔法が飛ぶまでもなく、パリスたち六人の前衛は突撃した。

 「うおおおおっしゃあああああ!」

 後衛の防御は松田のゴーレムがいれば大丈夫、と自分に都合よく解釈したのである。

 地味な守備よりも、敵を蹂躙することに悦びを感じる人種らしい判断であった。

 「行きます! わふ」

 「お父様に逆らう愚か者、一人たりとも生かして帰しません」

 そしてステラもパリスを追い越す勢いで突撃し、ディアナはそれを支援するべく大量の氷槍を射出する。

 実に息の合った連携で、何かと張り合う二人だが、いつの間にか互いの呼吸を知る仲にはなっていたらしい。

 山人のリーダーらしき男が荒々しく何かを叫んだ。

 その瞬間、ディアナの魔法が見えない壁に弾かれたかのように無効化される。松田とケテルの魔法も同様であった。

 「……まずい。敵に精霊士がいますね」

 「もしかして無効化あれはその精霊士が?」

 「ええ、土地の精霊と契約するものらしいのですが、その土地で戦う場合にかぎり、ああして魔法を無効化してくる厄介な相手ですよ」

 拠点特化すぎて探索者の間では聞いたことのない職種である。

 契約した土地を出てしまえばほぼ無害になるので、一気に通り抜けてしまうのが上策なのだが、山人もさるもの数で進路を完全に塞いでいた。

 「面白え! 俺と勝負だ!」

 「待て! 俺にやらせろ! リーダー命令だぞ!」

 「臨機応変、先手必勝ってやつさ!」

 ダッシュ力でわずかにパリスを上回ったナルガクが山人のリーダーに斬りかかる。

 ともに二メートル近い巨体と百キロを軽く上回る重量の肉体を持つ前衛戦士である、が激しいつばぜり合いの力比べは山人のリーダーに軍配があがった。

 振り下ろした剣を弾かれたナルガクは踏鞴を踏んで後方に飛びずさった。

 「ちっ! やるじゃねえか!」

 正直力負けしたのはまだ探索者であったころ以来のことである。

 悔しさに顔を歪ませるナルガクを尻目に、今度はパリスが気炎をあげて打ちかかった。

 「ナルガクを力負けさせるとはやるじゃねえか!」

 剣と剣がぶつかりあった瞬間、パリスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 それは実戦に継ぐ実戦を生き抜いてきた戦士が感じる本能のようなものであった。

 (この男――――強い!)

 戦士であると同時に指揮官でもあるパリスは、すぐさま味方の不利を直感した。

 護衛隊の最大戦力である自分とナルガクが、山人のリーダーを抑えるのにかかりきりになってしまっている。

 魔法は無効化されていて実質魔法士が戦力にならない。

 こうなると松田のゴーレムがいてくれることが本当に心強かった。

 残る四人の前衛だけでは、百人を超える山人を商隊に近づけず守ることは至難の業であっただろう。

 「があああああああっ!」

 何か怒鳴っているようにしか聞こえない雄たけびなのに、山人たちは整然と隊伍を整え護衛隊をけん制する部隊と、商隊攻撃の部隊とに分かれた。

 思った以上に統制が取れている。その統率は山賊の比ではない。

 「ど、どうしよう……やばいかも」

 魔法を封じられたことで弱気になったケテルが不安そうに後ずさった。

 「心配しなくても近づけやしないよ」

 そういえばどうしてゴーレムは無効化されないのだろう?

 そんな疑問が顔に出たのか、ケテルはおかしそうに解説してくれた。

 「ゴーレムは魔力で術者と繋がっていますからね。だから放出系の魔法じゃなくて、たとえば自分の剣に魔力付与するのは無効化されないんです」

 「…………なるほど」

 「そんなすごいゴーレムを操るのに、意外と基本的なことを知らないんですね」

 実はど素人ですから、とは言えずに松田は曖昧に苦笑するに留めた。

 「悠長に解説している場合か?」

 不機嫌そうなロビンの言葉に視線をあげれば、左手に盾を掲げた山人たちの一団が恐るべき速さで迫りつつあった。

 「あわわわ…………」

 ケテルがペタンと尻から崩れ落ちる。

 ロビンは速射で雨あられのように矢を浴びせかけるが、急所を守った山人の突進を防ぐには至らない。

 「くっ…………」

 無表情なロビンにも遂に焦燥の色が浮かび始めると、松田はさらなるゴーレムの召喚を考えざるを得なかった。

 (できればやりたくないんだよな…………)

 この戦闘をアランは間違いなく見ているであろうし、あの抜け目のない男が松田の真の能力を知って利用しないはずがない。

 最悪十体ほど召喚して急場をしのごうかと松田が考えていると、白銀の閃光が山人の列をなぎ倒した。

 「白牙ホワイトファング猛進チャージです! わふ」

 「馬鹿! 気を抜くな!」

 どうだ、と言わんばかりに松田を振り返って胸を張るステラを、後方から精霊士からの魔法攻撃が襲う。

 完全に背を向けていたステラは、一瞬反応が遅れた。

 「――――錬金! 岩壁ロックウォール!」

 魔力が繋がっていればいいのなら、物質化のために魔力を供給し続ける錬金も無効化されないはずだ。

 松田の予想は当たっていた。

 たちまち出現した巨大な岩が壁となって、ステラを狙っていた炎の矢をその質量で完全に受け止めた。

 二体のゴーレムたちも統率を乱した山人の集団を、巨大な戦槌を振るって物理的に叩き潰していく。

 哀れにも正面から戦槌を食らった山人は、肉塊とも言えぬ赤黒い染みを大地に刻印して永久にこの地上から消失した。

 「ぐおおおおおおおおおっ!」

 再び山人のリーダーからの指示が飛ぶ。

 いや、本当に指示なのかどうか叫んでるだけにしか聞こえないのでわからないのだが。

 「ちっ! 指揮する余裕ありますってかぁ?」

 「熱くなるな! こいつを倒さんとじり貧だぞ!」

 「わかってる!」

 一旦は押し戻したと思われたものの、さらに五十ほどの援軍がやってきて戦況はむしろ悪化していた。

 なんといってもあちらの土俵で戦っているのと、魔法が無効化されているのが痛い。

 (…………お父様)

 (なんだ? ディアナ)

 自分の声で話せるようになってからはほとんどなかったディアナからの念話に、松田は内心で緊張する。

 (…………あのパリスという人、魔剣の力を使っていません)

 (なるほど、そういうことか)

 あえて苦戦を装うことで松田の引き出しを探っているのだろう。

 本気でやばくなればいつでも山人のリーダーを倒せるという自信がなければ、到底できることではない。

 そうだとするとパリスの技量はもう一ランク上に考えておく必要がある。

 (油断も隙もありゃしない…………)

 ドルロイの弟子でドワーフの国王に面会できるというだけでも松田という存在は貴重だが、アランの商人としての嗅覚はもっと金になる匂いを嗅ぎつけたのか。

 儲ける機会を逃さない飽くなき執念に関しては、松田も心当たりがあるだけに他人事とは思えないのであった。

 営業ノルマを達成したにもかかわらず、目の色をかえて新たな契約を追い求める同期の友人がいた。

 数字でしか達成感や人事評価を得られないという環境は存在する。

 その競争を勝ち抜いた人間が上に上がっていくのを松田は否定する気はないが、自分はそんな生き方はしたくないと思う。

 ただひとつわかっているのは、彼らの数字に対する執着は平凡な庶民の常識を甚だしく逸脱しているということだ。

 儲けに目がくらめば現場に無茶を押しつけてくるのが彼らである。

 それでどれほど理不尽な苦労を強いられたことか。

 思わず過去の黒歴史に行き場のない怒りを感じてしまった松田であったが、同時に扱いやすいとも感じていた。

 基本的に彼らは儲けさせてくれる取引相手を怒らせるようなことはしない。

 (あるいは高く売りつけるという手もありか)

 そんなことを松田が考えていたのもつかの間、すでにノリノリのステラが松田にいいところを見せようと咆哮した。


 「――――銀狼シルバーウルフ乱舞ダンス


 松田と時を同じくしてレベルアップしたステラの新たなスキルであった。

 その瞬間、パリスが軽く目を見張ったことに、ステラも松田も気づかずにいた。


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