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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第三章
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第六十五話 望みは儚く

 マクンバから北に伸びる街道から松田は後ろを振り返る。

 ドルロイには急いでしたためた手紙を渡すようにハーレプストに託した。

 本当なら緋緋色鉄の解明に協力するはずであったのに悪いことをした。いずれ帰ったときにはそれなりの土産を渡したいと思う。

 「――――一刻も早く、国に負けないだけの力を持ちなさい」

 別れの間際にハーレプストはそう松田に言った。

 それは探索者でいえば金級とその上の宝石級を通り越し、最上級の伝説級と呼ばれることを意味していた。

 彼らは一人で一国に匹敵する戦力と政治的影響力を所有している。

 松田が自由を確保するためには、少なくとも伝説級に近い戦闘力を備えなくてはならなかった。

 「――――必ず。私も誰かに人生を押しつけられるのは御免ですから」

 この世界では誓って思うがままに生きてみせる。

 そのためには力が必要だということを松田は改めて思い知った。

 いまだ松田の力は国家を相手にするには及ばない。

 今回のような集団対集団の戦闘では領主軍にも勝るであろうし、金級探索者であるリンダにも勝てるであろう。

 しかし一対一で戦った場合、松田がリンダに勝てる可能性は低かった。

 規格外、と思われる松田のスキルであるが、決して万能なわけではないのだ。

 もう一度レベルアップすればおそらくはリンダ以上になるかもしれないが、伝説級と呼ばれる領域までどれほどレベルアップすればよいのか見当もつかない。

 だからといって立ち止まっていたら永久に松田が望む自由も手に入らないのである。

 「待っていてください。必ず俺は帰ってきます!」

 鍛冶師として、錬金術師として、ドルロイとハーレプストにはまだまだ学べきことがたくさんある。

 そして新たなゴーレムの可能性の扉を開くためにも、もっともっと強くなろう。松田は強くそう決心するのだった。



 「ううっ……ぐすっ……えぐぅ」

 格好良く感慨にふけっていたつもりの松田であるが、しゃくりあげるような嗚咽にシリアスな雰囲気を続けるのを諦める。

 「そんなに落ち込まなくてもいいじゃないかディアナ」

 「あんまりですお父様。恩をあだで返されたのです……ううっ」

 ディアナがもう小一時間以上すすり泣いているのには理由がある。

 それは006の魔核を取り込み、彼女の身体にディアナが移植された形となった後のことであった。


 「――――よほど強い思念だったんだろうね。というか魔核が魔核を取り込むとか、僕も初めて見るんだけど…………」

 「これは私たち知性ある秘宝だけができることですから」

 「普通の魔核も錬金素材として新たな魔核と合成することは可能だけどね。意思が意思を呑みこむという現象が驚きなのさ」

 人間が人間の意思を呑みこめばどうなるのだろうか?

 二重人格になるのか、それとも全く異なる存在になるのか?

 知性ある秘宝では、より魔力と情報量の大きい存在が小さい存在を統合するらしい。

 一人の錬金術師としてハーレプストの興味は尽きなかった。

 「それで分離は可能なのかい?」

 「いえ、一度統合された意思を分離することは不可能です。少なくともそうする術式を私は知りません」

 「――――なるほど。となると…………」

 次の言葉が致命傷であった。

 「ディアナの身体はこのまま固定かな?」

 「――――なんですって??」

 「一目瞭然だと思うけど、魔核の情報が身体に影響を与えて定着してしまっているからね。だからよほど強い思念だったんだろうね、と言ったんだ。普通の魔核はあくまでも心臓部であるだけで身体にまで影響を与えたりはしないよ」

 わなわなと震えてディアナの顔色が蒼白になっていく。

 それは約束されていた栄光の未来、巨乳への道が閉ざされたことを意味しているからだ。

 「ご冗談でしょう? まさか私はこのまま…………」

 「あの少女の残留思念が影響している間は無理でしょうねえ。あるいは魔核を切り離すことができればいいんでしょうが……」

 「ハーレプスト様! お願いします! 私からあの娘の魔核を切り離して!」

 「うん、無理かなって」


 結局どうあがいても、現状ではディアナと少女は切り離せないことが明らかになった。

 当然ディアナのDカップも解決するまではお預けだ。

 もはやこれは悪戯の神がディアナを弄んでいるとしか思えない。

 「せっかく可愛いんだから高望みしなくても……」

 「わふ、ディアナ可愛い可愛いです!」

 「悪意を感じますわああああ!」

 超然とした硬質の美少女だったころに比べ、少女と同化したディアナは類まれな美少女であるのは相変わらずでも、年相応の幼さを感じさせる。

 精神年齢相応になったといいたいところだが、大人なできる女を自認しているらしいディアナにそれを言えばさらに泣くだろう。

 今はその可愛らしさを褒め、悲嘆にくれるディアナを慰める以外の方法を松田は思いつけずにいた。

 「こんなことならっ! こんなことならっ! あの大人(005)のほうを助けておけばよかった!」

 と嘆きながらもディアナは松田に抱き着くようにして頬をぐりぐりと擦りつけている。

 その様子は子供がわがままをいって親に甘えている姿そのものであった。

「あきらめません! 私は絶対にDカップを諦めない! だからお父様も諦めないでくださいね!」

 「お、おう……………」

 「それじゃ、それまでは慰めてください!」

 「わふぅ……ディアナが開き直ったのです」

 どうやらディアナの心のなかも複雑なようである。




 松田がマクンバを人知れず旅立った翌日である。

 「はああああああああっ? いなくなったあああああ?」

 マクンバ伯爵ノリスは部下からの思いもよらぬ報告に、つい周りを省みずに叫んだ。

 それほどに予想外の出来事だった。

 松田は控えめにいっても今回の氾濫からマクンバを守った英雄である。

 リンダやドルロイも英雄のひとりではあるが、その功績は松田一人に到底及ばない。

 氾濫の震源たる迷宮を攻略したのみならず、帰還したついでとばかりに殺人蜂をまとめて殲滅した。

 もしあそこで松田が間に合わなければ、騎士団にも探索者にも甚大な被害が出ていたのは確実であった。

 さらにあのとき使用した魔法は、ノリスの配下の魔法士が一人たりとも知らないという未知の魔法だというから驚きである。

 なんとしても伯爵家に仕えさせたい。

 それができなくとも、最低限探索者のパトロンとしてパイプを作っておきたいとノリスは考えていた。

 あれほどの探索者、いずれ宝石級、いや、伝説級に達したとしても不思議ではない。

 将来そうなったときに、階級が低いころから面倒を見ていたという実績は役に立つ。

 「理由は? 行先はわからんのか?」

 「それが鍛冶師の師匠から与えられる課題を達成するためだとか」

 「――――はあ?」

 ますます松田の意図がわからなくなるノリスであった。

 「やむを得ないな――――ドルロイに遣いを出せ。主役がいなくては話にならん。すぐに呼び戻させろ!」

 「それが……ドルロイではなく兄のハーレプストの課題らしく、とある素材の収集だがどこに探しに行ったかまでは知らない、と」

 「そんな話が通るかああああああああ!」

 確かにドワーフには独特の文化と伝統があることをノリスは知っている。

 だがここまで世間の常識からかけ離れているかといえばそうではないはずであった。

 それはすなわち、常識的ではないことをしなければならない何らかの理由があるのではないか?

 ノリスの抱いた疑惑は新たに到着した騎士によって確信に変わった。


 「――――ただいま偵察から戻りました」

 「どうした? 顔色が悪いが」

 「それが…………」

 冷たい汗を滴らせながら騎士は今でも自分の見たものが信じられずにいた。

 「迷宮への途上、大規模な戦闘が行われたらしき形跡があり、三千以上の魔物の死骸を確認しました」

 「三千以上? そうか、第二波がこなかったのかすでに殲滅されていたというわけか」

 「実はそれでひとつ腑に落ちぬことが」

 自分の考えていることが現実であるとすればとんでもないことになる。

 はたしてそれが本当なのかどうか騎士には判断がつかなかった。

 「なんだ?」

 「どうみても倒れた木々や大地の踏み荒らされ方が、集団対集団の戦いが行われたことを示しております。まさかとは思いますが、マツダという探索者が操れるゴーレムの数というのは……」

 数体同時に操れるだけでも規格外。

 まして百体を超えるとなればこれは長い魔法の歴史にもなかった快挙である。

 というよりも、倒されても痛くもかゆくもないゴーレムの軍団など敵となれば悪夢でしかない。

 「――――ホルストナウマンを呼べ。一刻も早くマツダの居場所を掴むのだ。場合によっては娘をくれてやっても構わん!」

 マクンバを治める領主として、戦乱が近いことを知る貴族として、松田を大人しく見逃す選択肢はノリスにはなかった。


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