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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第二章
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第六十話  ゴーレムマスター出撃その5

 「――――方円の陣」

 迷宮が近づくにつれ、魔物たちの襲撃は激しさを増していった。

 三千の軍団を潰滅させられたとも思えぬ数であり、厄介なことに遠距離から熱線を浴びせてくるゲリラ戦闘に徹せられると、防御に力を割かないわけにはいかなかった。

 『戦い方が変わりましたね。防御型にシフトしたようです』

 「そりゃ拠点を潰されちゃ生産もできんからな」

 松田たちの周囲は重装防御特化ゴーレムが囲み、魔物たちに一切の隙も見せずにいる。

 敵の攻撃を排除しつつ、ついに松田は迷宮内へと足を踏み入れた。


 「思ったよりも狭いな」

 道幅はおよそ四メートルほどであるが、天井が三メートルほどと低い。

 止む無く松田はグリフォンとガーゴイルを送還した。

 「犬臭い匂いがするです。わふ」

 「新手か?」

 ステラが察知したとおり、通路の交差点で左右から襲いかかってきたのは一角ホーンウルフの群れであった。

 名前のとおり頭頂部に鋭い角が生えており、その突進力は侮れない。

 これで知性が高く、群れで連携して狩りをする。さらに問題なのは、角から雷の魔法を使うということだ。

 だが――――。

 「邪魔をするなです。この犬っころども! わふ」

 殺気を漲らせたステラが進み出ると一角狼は目に見えて萎縮した。

 本能は逃げたいと言っているのに、脳からは戦えと指令が届いている。そんな感じであった。

 それを見逃すステラではない。


 「巨狼フェンリル突破ブレイク!」


 完全に人狼の姿へと戻ったステラが一陣の風となって迷宮を駆け抜けた。

 立ちはだかる何ものをも許さない。

 一瞬にして一角狼の群れは、見えない壁にものすごい圧力で叩きつけられたかのように全身打撲で死亡した。

 「他愛もないのです。わふ」

 「下がれ! ステラ!」

 「わふ?」

 腰に手をおいて勝ち誇るステラを、間一髪松田が引き戻すのが速かった。

 ちょうど今までステラの顔があった場所を、白い光が恐ろしい速さで貫いていく。

 ほんの一瞬でも松田の反応が遅ければ、ステラの命はなかったであろう。

 松田は光のやってきたほうを睨みつける。

 迷宮の壁を貫いた光は、その破壊の痕跡を濛々とした埃のなかに留めていた。

 その埃のなかにうっすらとしなやかな身体の輪郭が浮かび上がる。

 ――――思ったよりも小さな体であった。身長は百五十センチほど、ディアナやステラよりは大きいが女性としては平均的な身長である。

 一目で女性であることがわかったのは、その輪郭が非常に肉感的なフォルムをしているのが見て取れたからだ。

 一歩一歩、足を踏み出すたびに揺れる胸、細く折れそうにくびれたウェスト、魅惑の丸みを帯びたヒップライン。

 これで女性でなければ嘘であろう。

 「――――誰だ?」

 とはいえそんなスタイルを楽しみ余裕は松田にはない。

 危うくステラを殺されるところであったし、何より人型であることを警戒せずにはいられなかったのである。

 かつて戦ったシトリのように、人型の魔物は手ごわい相手である可能性が高かった。

 だが相手は答えない。

 次第に近づくにつれて相手の顔が明らかとなってきた。

 腰まで伸びた艶のある金髪、愁いを帯びた青い瞳、だが硬質の美貌は固く凍り付いたまま動くことはない。

 まるで表情のなかったころのディアナのようだ、と松田は感じた。

 『……信じられない。彼女は魔物ではありません。秘宝アーティファクトです』

 「やはりか」

 松田の感じた印象が間違いでなかったことを知って、松田は警戒の度合いを深めた。

 彼女が絢爛たる七つの秘宝に匹敵する存在とは限らないが、松田はディアナの非常識な力を知っている。

 まかり間違って禁呪など発動された日には今の松田にそれを防ぐ術はない。

 重防御特化ゴーレムの装甲など紙同然に破られるに違いなかった。

 二十代前半ほどにみえる美女は、瞳に剣呑な色を浮かべた。

 その事実に松田とディアナは戦慄とともに驚愕した。

 「まさかっ! 知性インテリジェントある秘宝アーティファクトだというのか!」

 ディアナ自身も絢爛たる七つの秘宝以外に知性ある秘宝の存在を知らない。

 それは完全に失われた技術であり、ディアナもライドッグの死後自らが意思ある存在であることを隠してきた。

 もし目の前の美女が知性ある秘宝であるとすれば、それはライドッグとは違う伝説級の術者がいたという証左であった。

 それにしてもどうして彼女はそんな深い怒りの色を浮かべているのか。

 怒りの対象がディアナであると気づくのにそれほどの時間はかからなかった。

 ふわりと空中に浮かび上がった彼女は、ディアナに向かって滑るように吶喊してきたからである。

 「…………………」

 声は出ずとも、彼女が怒りの咆哮をあげていることは表情をみれば十分であった。

 「――――召喚サモン、ゴーレム!」

 彼女とディアナの間に咄嗟に松田は騎士ゴーレムを召喚した。

 次々に襤褸雑巾のように砕け散っていくだけであったものの、守りの要たる重防御特化ゴーレムの前に彼女の突進力を削ぐことには成功した。

 彼女の握る光の槍は、重防御特化ゴーレムの厚い装甲によって阻まれた。

 『雷球追撃ライトニングボールチェイス!』

 彼女の機動力を前に、通常の魔法では当てるのも難しいと判断したディアナは、命中するまでどこまでも追いかけるホーミング型の魔法を打ち放つ。

 舌打ちするように眉を顰め、雷球を避ける彼女を追って、雷球が軌道を修正する。

 同時に五発の雷球を避けながら、彼女はそのうち二発を槍で斬り払い、さらに二発を軌道修正する前に壁へと激突させた。

 「鋼鉄槍アイアンランス!」

 彼女の回避行動を見計らっていたかのように、松田が放った二十発以上の鋼鉄の槍が殺到した。

 解放された平野ではなく、移動できる空間に制限のある迷宮内で、この攻撃を完全に避けることは不可能である。

 逃げ場を失った彼女は数の暴力の前に沈黙した――――かに見えた。


 実は戦いの早い段階で、戦闘は彼女の巧妙な誘導下にあった。

 もし彼女が本気であれば、最初の一撃でステラを殺せていた可能性は高かった。

 あえて全て迎撃できる雷球を必死に回避して見せたのも、あるひとつの目的のために為されていた。

 それは――――

 鋼鉄槍の命中により、迷宮の壁に大きな罅が入る。

 全てではないにせよ、何発かの直撃を受けた彼女もダメージなしというわけにはいかず、がっくりと膝をついた。

 それでも彼女の瞳は死んでいない。

 言葉にならない分激甚な怒りを瞳に宿したまま、彼女は挑発するように槍の先をディアナへと向けた。



 「――――何をしているの? お姉さま!」


 モニターから姉――試製マリオン005の戦闘を見つめていた006は姉が何をもくろんでいるかを察した。

 機密防衛区画――この迷宮を管理する006にも把握を許されていない封印区画を外敵の手でこじ開けさせようとしている。

 被創造物である006や005には造物主の命令に逆らうことは許されない。

 しかし命令系統外にある外敵の手なら問題は別だ。

 「やめて! そこはマスターの大事な場所なのよ!」

 ――――そう、そこがマリオンシリーズが産み出される原因となった愛娘エレクトラの思いでを封印した場所であることを006は知っていた。

 もちろんエレクトラに対しては複雑な感情がないとはいえない。

 しかし006にとってマスターの命令は絶対であり、たとえ間接的にであろうとも逆らうなど思いもよらないことであった。

 あの部屋はマスターの大事なものなのに、それを暴かれたらマスターは怒るかもしれない。帰ってきてくれないかもしれない。そんなことになったら――――。

 モニターの画面に005に止めを刺そうと魔法を唱える一人の少女の姿が映った。


 「止めてえええええええええええええええええっ!」


 もはや大人しくモニターを見つめることに耐えられず、006は件の現場に向かうため、全速力で指令室を飛び出していった。

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