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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第二章
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第五十九話 ゴーレムマスター出撃その4

 「な、なんだ?」

 ゾワリと背筋に悪寒を感じて松田は身体を震わせた。

 なんだか途轍もなく理不尽なフラグを立てられたような気がする。

 『どうかしたしましたか? 主様』

 「わふ?」

 「いや、なんでもない。気のせいだろう」

 額の汗を拭って松田は隠し扉から辺りの風景を見回した。

 無惨に破壊されつくした光景がそこにはあった。

 もともとそこは緑が溢れ、鳥や兎が駆ける生命の宝庫であったに違いない。

 しかし今は赤く焼けただれた石と土が、生々しい暴虐の痕跡を晒した荒野に変わっていた。

 根こそぎ焼き払われ、踏み荒らされたこの荒野が、再び豊穣の森へと戻るのは何十年先になるのだろうか。

 「なるほどこりゃあ…………国が出張るわけだわ」

 マクンバの街を守ればよい、という問題ではなかった。

 一刻も早く魔物を討滅しなければ国土が荒れ果てる。そうなれば国力そのものが衰退するであろう。

 迷宮の氾濫とはかくも恐ろしいものか。

 規格外のゴーレムを操る松田だからこそ、数の暴力がいかに凶悪なものであるかを知っている。

 どうやら急いだほうが良いようであった。

 『――――主様』

 すっかり人形の身体の制御に慣れてきたディアナは、器用に魔力を感知した方向へと愁いを帯びた視線を向ける。

 知らない者が見れば誰もディアナが人間であることを疑わない自然な動作――であるからこそ松田のロリコン疑惑が信ぴょう性を増すという悪循環であった。

 「――――うん? 何かまた……?」

 『主様、三時の方向から、敵です。魔物の新手かと』

 「そういえば前にあった氾濫でも、何波か続いたとか言ってたっけ」

 松田が知る由もないが、実際はそれ以上であった。

 パリザードの氾濫では魔物は四波ほど襲撃が繰り返されたらしい。

 特に最後の第四波は時間が空いたために、様子を見に戻ってきた領民たちが数多く犠牲になった。

 ところが単純な迷宮と違い、生産施設を持つこの迷宮では、素材が続く限り無限に魔物を生産することができる。

 現在マクンバを襲っている魔物はまだまだ序の口に過ぎなかった。

 何せ必要とあらば彼らは魔物を使って素材を回収してくることも可能なのだ。

 『数はおよそ三千です。蹴散らしますか?』

 ディアナが広範囲魔法を連打すれば、三千程度の魔物をせん滅するのはそれほど難しいことではない。

 まして禁呪を使えばほぼ一瞬で溶けるであろう。

 「いや、せっかくだしゴーレムの準備運動をさせてもらおう」

 こんな機会でもないと三千もの軍勢と集団戦闘を行う機会はないかもしれなかった。

 「――――召喚サモン、ゴーレム」

 その声とともに、松田の最大制御数である四百体のゴーレムが、隊伍を組んでその凶悪な姿を現した。


 主力を務めるのは騎士型ゴーレム二百体であるが、かつて松田が召喚していたものとは別物といってよいほどに違う。

 ドルロイ直伝の耐魔法処理に加え、ハーレプストの人形技術を応用して、できる限り人間に近い動きを再現できるよう組み立てられている。

 一見、人間と同じ動きでは無駄が多そうだが、松田はゴーレム一体一体を直接制御できる都合上、人間の動きがもっともイメージしやすいのであった。

 重量バランスから装備品に至るまで、改良に改良を重ねた騎士ゴーレムは単純な個体戦力でかつての二倍を優に上回るであろう。

 この騎士ゴーレムを援護する形で、弓騎兵ゴーレムが百体。

 弓の精度をあげるために、松田自身が工房に即席の射撃場を造って訓練したうえ、弓の弦をドルロイとともに魔改造した結果恐るべき貫徹力を手に入れていた。

 それは馬上の弓射としてはありえない、弩以上の装甲貫徹力であった。

 もちろん有効射程距離も伸び、純粋な射撃戦になれば魔法以上の火力を発揮するのは確実である。

 そして上空の直衛としてグリフォンが十体。

 さらにガーゴイル四十体が遊撃として空からの奇襲を担当する。

 極め付けは重防御特化タンクゴーレム五十体であった。

 武装がない代わりに腕と一体化した巨大な盾を装備し、耐魔法仕様の装甲は騎士ゴーレムの二・五倍に達する。

 守っては最強の盾であり、また攻撃をするにあたっても、敵の攻撃を引きつける重要な盾役であった。

 この四百体のゴーレムが完全な集団戦を遂行すればどうなるか。

 それは新たに迷宮からやってきた三千の魔物部隊が証明することとなった。


 「――――一の陣、構え」

 まずは滑るように弓騎兵部隊が進み出る。

 その手に握られた弓はギリギリと引き絞られ、月のように優美な弧を描いた。

 「放て!」

 そんな優美な見た目とは裏腹に、凶悪な牙を剝いた矢は流星のように大地を蠢く芋虫へと降り注いだ。

 瞬く間に五度の斉射を終えた弓騎兵は、一度後方へと下がり再びの出撃に備えて待機する。

 「第二陣、突撃!」

 次に前線へと進出したのは主力の騎士ゴーレム部隊であった。

 二メートル近い騎士槍を握った騎士ゴーレムは、三列の横隊を組むと地響きをあげて一斉に突撃を開始した。

 蠢く芋虫からたちまち熱線が集中するが、耐魔法加工を施された鎧は一時的な高熱による負荷に耐えきった。

 懐に飛びこんでしまえば芋虫は防御力の低い雑魚にすぎない。

 当たるを幸いに蹂躙され、蚕食される桑の葉のようにみるみる芋虫は溶けて消えていく。

 機能的に同士討ちができないのか、内部へ侵入を許すと芋虫の熱線による攻撃がピタリと止んだ。

 無抵抗に虐殺されていく芋虫を全滅から救おうと、巨大な彷徨鎧リビングメイルが騎士ゴーレムを押しつぶすように展開する。

 「――第三陣、撥ね退けろ!」

 彷徨鎧に一歩も引けを取らぬ、巨大な重防御特化ゴーレムが互いにそのパワーをぶつけあうが、軍配は重防御特化ゴーレムにあがった。

 出力はほぼ互角であったが、重量の差が最後の決め手となったのである。

 力比べに負け態勢の崩れた彷徨鎧に、上空で待機していたガーゴイルが襲いかかった。

 彷徨鎧の弱点は鎧の内部にある魔核である。

 外側は堅牢無比な彷徨鎧であるが、内部に存在する魔核は硝子細工のように脆い。

 その魔核を攻撃するには頭部の兜の隙間から攻撃するのがもっとも効果的であった。

 対物理、対魔法に極めて大きな防御力を発揮する代わりに、彷徨鎧の機動力はひどく鈍重なものである。

 まして態勢を崩した状態でガーゴイルの奇襲を避ける余裕は彷徨鎧にはなかった。

 次々と撃破されていく彷徨鎧。

 時を同じくして騎士ゴーレムが連携を失って孤立した芋虫の掃討を開始した。

 いかに強力な熱線といえど、散発的に攻撃するだけでは騎士ゴーレムの厚い耐魔法装甲を突破することはできない。

 彷徨鎧という盾役を失った芋虫は、抵抗らしい抵抗もできずに撃破されていく。

 完全に統制されたゴーレム四百と、数こそ多いもののひとつひとつの魔物がそれぞれプログラムに従って動いている三千の魔物――――どちらが戦力として強力であるかは明らかであった。

 本来疲弊したマクンバの守備軍に対する手痛い追撃となるはずだった第二波が潰滅するまで、それから三十分の時間もかからなかった。

 「敵が馬鹿で助かった。集中砲火食らったらもう少しやばかったかもな」

 松田は配下の騎士ゴーレムの損傷具合を確かめてひとりごちた。

 耐魔法装甲といえど、完全に無傷で済んだというわけではなく、特に装甲の薄い関節部などは予想以上にダメージを受けている。

 もし敵が統率され、目標を集中していれば騎士ゴーレムの三割程度は撃破されていたかもしれなかった。

 もっとも撃破されること自体は特に問題ではない。

 魔力あるかぎり松田は再びゴーレムを召喚することが可能だからだ。

 「さて、次の連中が湧いてでないうちに迷宮を目指すとするか」

 『次は私にお任せください! 華麗に殲滅! 殲滅してご覧に入れますから!』

 「ディアナには負けないです。わふ」

 「ディアナ、また殲滅癖が再発したのか? こら! ステラ! 人狼に変身してるじゃないか! まあ見てる人間はいないけど」

 松田自身の魔法やディアナもステラも温存したまま、もはや松田を迷宮まで遮るものは何も存在しなかった。



 「――――生体反応途絶、全滅したものと認識する」

 少女は画面を睨みつけて軽く眉をひそめた。

 まだマスターを見つけていないというのに、早くも邪魔が入ったことがわかったからである。

 「当該障害の脅威を算出――――危険度A、最大級の警戒が必要」

 思ったより強敵のようだ。

 会敵から三十分程度で三千の軍勢をせん滅。確かに警戒は必要であった。

 まさに少女にとって、造物主から預けられたこの迷宮を維持することは至上命題なのだから。

 「困りました。まだ切り札を切るには時間が足りませんし――やむをえません」

 接近してくる脅威をどのように排除するべきか。

 損傷の激しい少女自身による迎撃が難しい以上、なんらかの手段が必要であった。

 当面は生産した魔物から順次迷宮の防衛に充てていく。

 第三波として用意していた戦力が出そろうまであと四、五時間近くは必要であろう。

 それでも第二波を殲滅した敵を相手にするには実力が不足していると考えるべきであった。

 「隔壁第二、第三を解放。凍結処理を解除します」

 分厚い魔力隔壁が開き、極低温によって保存されていた身体が、みるみる輝きを取り戻し血の通ったものへと変わり始める。

 空気の抜ける音と、低温状態が解除されたことによる靄が立ち込める中を、コキコキ、と指先が問題なく動くのを確認して一人の女性が立ち上がった。

 歳のころは二十代前半といったところか。

 その面差しはどこか少女に共通した何かを感じさせるものがある。

 「現在、脅威度Aランクが接近中。迎撃をお願いします。…………お姉さま」

 少女と違い、発生気管を持たない女性は、声なく少女に頷き――――俯いて長い金髪に顔を隠すようにして、ニタリ、と嗤った。


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