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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第二章
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第五十七話 ゴーレムマスター出撃その2

一度圏外に落ちてからの日間9位、感激です!ありがとうございます!

 人形である少女は夢を見ない。

 しかし記憶回路に残留する造物主マスターを少女は目を閉じて何度も何度も反芻する。

 それはある意味で夢ではないが、夢以上に儚い記憶であった。

 試作マリオン006――――名前を与えられることのなかった彼女は一度だけ、造物主がマリオンをみて呟いたのを聞いたことがある。

 「…………エレクトラ」

 その言葉を忘れられず、少女は隙をみては迷宮内の記憶バンクを検索した。

 エレクトラはいったい何者なのか。そして造物主はなにゆえ自分をみてそう呟いたのか。

 幾重にも張られた防壁を突破し、少女はついにエレクトラの秘密へと辿りつく。

 その名は造物主の死んだ娘の名であった。

 記憶媒体に残されていた彼女の姿は、造られたマリオンにそっくりだった。

 ――そうか、自分は彼女の代わりとして造られたのか。

 マリオン006は自らの使命をそう認識した。何をどうすればよいのかはわからないが、エレクトラに代わり造物主をお慰めしようと決めた。

 だが少女の頑張りにも関わらず造物主の機嫌は一向に冴えない。

 むしろ彼の機嫌は、日を追うごとにどんどん悪化していく一方であった。


 造物主マスター――――その名を隠者ゴルディアス・フッケバインという。ディアナの造物主たるライドッグより百年ほど前の人間である。

 ライドッグほどには世間に名を知られなかったものの、錬金技術においてゴルディアスは確実に歴史に名を刻むべき天才であった。

 だがそんな彼が隠者と呼ばれ、世間から姿を消した理由――それは死んだ愛娘を再現しようという狂気に満ちた妄執に憑りつかれたためである。

 目に入れてもいたくないほど可愛がっていた愛する妻の忘れ形見でもある娘、エレクトラはゴルディアスを操ろうとする時の権力者によって誘拐され、父の枷となることを恐れたエレクトラは自らその命を絶った。

 件の権力者は一族郎党千人を超す人間ごと、謎の奇病によって苦しんで苦しんで苦悶の表情を刻みつけて死んだ。

 もちろんその犯人としてゴルディアスが疑われたが、証拠となるものが一切なかったために結局司直も手を出すことはできなかった。

 その後彼の不興を買えば、原因不明の死を迎えないとも限らないとあって、罪にこそ問われなかったものの、ゴルディアスと接触しようとするものもいなくなったのである。

 そしてゴルディアスはエレクトラと再会するために、山奥に研究施設としての迷宮を建設し、そこで隠者の生活を始めた。

 いつしか彼の名をひとは忘れ、かつて恐るべき暗殺劇を繰り広げた魔法士がいたといううわさだけが残った。

 迷宮のなかで孤独な研究を続けるゴルディアスはその類まれな才能によって、おそらくは人類史上初めての自立型思考人形マリオン001を開発。

 その後思考ルーチンを強化した002、003を開発するがこの時点では自立型思考人形と言っても複雑な計算機のようなものにすぎなかった。

 語彙は増え、表情も豊かになった004も、ゴルディアスの心を満たすことはできなかった。

 むしろこのころから、ゴルディアスの心は確実に病んでいった。

 ――――どんどん外見は娘に似ていく人形、しかし感情や仕草は機械的で、幼児ほどの情緒もない。似て非なるものしか産み出せないという事実が、ゴルディアスの心をますます追いつめていったのである。

 どうしたら娘と同じように笑いかけてくれるのか。

 あの愛しい娘の仕草をどうしたら再現できるのか。

 狂いそうな懊悩とともに、ゴルディアスはそれだけを求め続けた。

 来る日も来る日もゴルディアスは実験に明け暮れた。そして学習型として開発した005を発展させたもっとも人間に近い自立型人形、それが006であった。

 高度な学習機能を持つ006こそは、今度こそ画期的な作品となるはずだった。

 ――――が、学習するということは当然時間がかかるということでもある。

 もはやゴルディアスに残された時間はごくわずかであった。

 人間としては長命な魔法士であっても、不老不死には程遠い。細胞の耐用限界が近づいていることをゴルディアスは自覚していた。

 006がエレクトラの存在を暴き出したのは、まさにそんなときだったのである。


 「我がエレクトラを穢すつもりか? この出来損ないめ! 出来損ないめ!」

 「お許しくださいマスター!」

 「許すものか! お前のような出来損ないが、どうしてエレクトラと同じ顔をしていながらお前はそんな出来損ないなのだ! エレクトラはそんな愚かではなかった!」

 老人の精神はすでに限界に達していたのだろう。

 どんな錬金術師であれ、人格をそのものを完璧に再現することなどできはしない。

 だが人生のすべてを娘との再会に捧げた老人は、どうしてもそれを認めることができなかった。

 ゴルディアスは口を極めて少女を罵倒した。

 髪を引っ張り、頬を打って、少女がいかにエレクトラに劣る存在であるかを叫んだ。

 そんな仕打ちを受けても、造物主を愛するようプログラムされた少女は、欠片ほどもゴルディアスを恨むことなく、むしろ自分の愚かさを責めた。

 まだ子供同然のメンタリティしかない少女であったが、それでも造物主を慕う心はあくまでも頑なであった。

 エレクトラに嫌われるなど想像することさえ嫌なゴルディアスは、少女をそうプログラミングしたのである。

 どんなにゴルディアスに罵られ、虐待されようと、少女は造物主に尽くし続けた。


 ……やがて少女の心にひとつの欲求が生まれる。

 それは少女が自己学習型として造られたからこそ芽生えた、プログラムされていない初めての感情であった。

 少女は決して造物主を憎むことはできない。

 愛することだけしかできない。だからこそ――――――愛して欲しい。それがエレクトラの代用品であったとしても。

 そんな少女の心に宿った感情に気づいたのか、気づかなかったのか。

 ゴルディアスは少女を眠りにつけ、迷宮を封印して何処ともなくその姿を消したのである。


 「…………マスター、いたらぬ私をお許しください。それでも私には貴方が必要なのです。マスター、マスター、マスター…………」

 ゴルディアスを愛することが少女の存在意義であり、そして愛されることが少女の存在証明であった。

 少女は防衛生体から刻一刻と更新され続ける情報をぼんやりと見つめた。

 心待ちにしているマスターの情報はまだない。

 それでもどこかに、必ずマスターがいてまたこの迷宮に帰ってきてくれると信じて、少女は情報を見つめ続けた。




 リンダの説得に白旗をあげた松田ではあるが、無条件にギルドに協力することを承服したわけではない。

 松田の真のスキルは師匠であるドルロイやハーレプストですら知らないのだ。

 ホルストナウマンだって、実はメッサラとアイリーナからの報告で松田が数百のゴーレムを操っていたということしかしらない。

 もちろんそれは、十分に規格外で恐ろしいことなのだが。

 今の松田の全力は四百のゴーレムを同時に制御し、完全な集団戦闘を行えるだけでなく、魔力が続く限りゴーレムを補充維持し続けられるのである。

 理論的にいえば、魔力さえあれば松田は無限にゴーレムを補充することができる。

 下手をすれば千のゴーレムを操る以上に厄介な能力であった。

 さらにレベルが上がって凶悪なスキルを覚えた人狼のステラ、歴史に忘れ去られた禁呪を使用することのできるディアナを加えた戦力は領主軍の総力をも上回るかもしれなかった。

 そんなことが衆目の目にさらされればどうなるか。

 厄介ごとの匂いしかしない、と確信する松田であった。

 ならば松田が単独で、誰もいない場所まで行って戦うしかない。

 このままマクンバに立てこもって防衛戦の一翼を担うなど下策もいいところであった。

 「それであんたの条件って?」

 「黙ってひきこもるのも芸がないと思いませんか?」

 不敵に嗤う松田の意図をリンダは誤解しなかった。

 この男は王国の援軍を待つことなく、迷宮に対し逆襲するべきだと言っているのである。

 「無茶だ! さっきの話を聞いていたのか? 敵は恐ろしくバランスのとれた数万の軍団なんだぞ!」

 「――――ですが統制のとれていない烏合の衆で、迂回して裏を突くのはそれほど難しいことではないでしょう?」

 数万の軍団がマクンバを目指しているといっても、迷宮までの土地が魔物で埋め尽くされているというわけではあるまい。

 これを迂回して迷宮を直接叩くのは不可能ではないはずだった。

 それに迷宮内ならば同時に動ける魔物の数も限られるので、松田のゴーレム軍団でも十分に対抗が可能であろう。

 「確かにパリザードの氾濫は二週間は湧き続けていたって話だったね。迷宮を叩けるなら結果的には被害を減らせるか」

 「姐さん、冗談を言っている場合じゃないんだ。自殺する若者を止めるのが年寄りの役割だろう?」

 「誰が年寄りだいっ! 口の利き方に気をつけな!」

 「ぐはっ!」

 捻りの利いたレバーブローを食らってホルストナウマンは悶絶した。

 現役時代から少しも衰えていない電光石火の早業であった。

 「そんな大言をするからには自信があるんだね?」

 「魔力を補てんする秘宝か秘薬が欲しいですね。私の制御できるゴーレム数は四百。魔力さえあればより強力なゴーレムを召喚が可能です。魔力が続くかぎりいつまでも」

 「なにそれ怖い」

 「ぶっちゃけもう君一人で十分と違うかな?」

 「仕事してください」

 基本的に松田は攻撃側オフェンスである。防衛側ディフェンスがいなくては試合にならない。

 どれだけ敏腕な営業マンがいても仕事をこなせなくては意味がない会社といっしょである。

 「そういうことなら仕方ないね。これを持っていきな」

 呆れたようにため息を吐きながら、リンダは松田に青い竜燐石のリングを差しだした。

 「これは?」

 「魔力を五割増しにしてくれる秘宝アーティファクトさ。私のとっておきなんだが、あんたほど魔力に頼っちゃいないからね」

 「ならば私は魔力回復の秘薬を渡そう。一本しかない魔力完全回復薬だ。どんなに大きな魔力量だろうと完全に回復してくれる」

 それはまだ、ホルストナウマンが迷宮に潜っていたころに一度だけ拾うことができた虎の子であった。

 これで実質的に松田の魔力は三倍になったと言える。

 時間にもよるが、それなりの大型ゴーレムを召喚してもこれなら保つだろう。

 「迂回するのもいい考えがあるぞ? マクンバには非常用の脱出穴がある。それを使えば最短ルートで迷宮に辿りつけるだろう」

 「それは助かります」

 できる限り魔力を温存したい松田としては願ってもない話であった。

 「では、巣穴退治と行きましょう。私が戻るまでマクンバを頼みますよ?」

 「誰にものを言っている?」

 絶大な自信とともにリンダは傲然と胸を反らした。

 「私の旦那ドルロイに手を出そうって馬鹿は、魔物だろうと根こそぎミンチにして大地の肥料に変えてやる」

 「ひええええええっ!」


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