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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第二章
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第五十五話 災難の始まりその6

 「――――最悪だ」

 一目でバイエルはその状況を察した。

 まず数が尋常なものではない。マクンバの騎士団は根こそぎかき集めても二千程度。

 周辺の村の避難に兵力を回さなければならないことを考えれば、いいところ千数百というところだろう。

 探索者の応援を得てもはたしてどれだけ集まるだろうか。

 あのパリザードの氾濫では最終的に数万の魔物が観測されたものの、初期では五千程度の数であったはずだった。

 予想していたよりも数が多すぎる。

 さらに問題なのは、あの芋虫のような魔物が吐く熱線である。

 騎士団は基本的に白兵戦闘のスペシャリストであって、遠距離魔法戦のスペシャリストではないのだ。

 魔法士もいないわけではないが、あんなでたらめな数の魔物と張り合えるはずがない。

 近づきさえすれば、防御力の低い魔物であろう。

 蹴散らすのはわけもないことだと思うのだが、近づくまでに被るであろう騎士団の損害を考えると目の前が真っ暗になるバイエルであった。

 「…………幸いあの熱線になら城壁は耐えられる」

 それだけが唯一の救いである。もちろん無傷とはいかないだろうが時間は稼げる。

 もしあの魔物が爆発エクスプロージョン系の魔法を使えたら、マクンバの要塞とて危ういかもしれなかった。

 城壁に拠って魔法戦を展開している隙をついて、騎士団による蹂躙突破。

 それである程度間引きできれば、援軍までマクンバを保たせることは可能だろう。

 ざっと魔物の集団を観察したバイエルはそう結論した。

 もうひとつ、ありがたいのは侵攻速度の遅さである。主戦力があの芋虫である以上、彼らの到達までは三日以上の時間は見込めるはずであった。

 そうなれば分散していた騎士団を集中することも可能かもしれない。

 そんな甘い夢想は次の瞬間に吹き飛ばされた。


 「な、なんだ…………?」


 芋虫――サムス05が燃やした木々の瓦礫を押しつぶすようにして、巨大な鎧が出現したのである。

 その大きさは優に二メートルを超え、三メートルには届かないが二メートル半はあるだろう。

 鎧というよりは重厚な壁が出現したかのようであった。


 「リ、彷徨鎧リビングメイル…………」


 その敵の凶悪さにバイエルは絶望のひび割れた声を漏らした。

 彷徨鎧リビングメイルは全身が鎧そのものであるということから、無類の物理耐性を誇るうえ、痛覚もなく、魔法も効きづらいという最悪の相手であった。

 特に騎乗しての蹂躙攻撃を得意とする騎士団とは決定的に相性が悪い。

 そんな魔物がおよそ五十体。

 芋虫の前衛を務めるには十分な数であった。

 バイエルは自分の思い描いていた戦略が崩壊したことを悟らざるを得なかった。

 ゾクリとバイエルの背筋を冷たいものが這い上がってくる。自分たちはあの魔物からマクンバを守り抜くことができるのか?

 いやできるのかではない。やらなくてはならないのだ。

 だがいったいどうやって――――

 「うわああああああああああああああ!」

 バイエルが連れてきた騎士のひとりが、突然魂切るような悲鳴をあげた。

 「どうしたガストン! って、双翼人ハーピーだとおっ?」

 上空からの双翼人の奇襲で、無防備な頸動脈を切り裂かれた騎士は虚ろな目をして落馬した。

 彼がもはや手遅れであるのは血の気の引いた白い肌が雄弁に物語っていた。

 「上空を警戒しろ! こいつらが一体だけのはずがない! 注意しつつ引き上げるぞ!」

 このままでは全滅する。

 もう少し敵情を探りたいところではあるが、今は全滅してこの脅威を報告できないほうが遥かに問題だった。

 「キーッ! キーッ!」

 三体ほどの双翼人がバイエルたちの背後から襲いかかり、さらに一人の騎士が失われた。

 やはり上空からの攻撃は騎乗する騎士には対応が難しい。

 それ以上に、城壁という高さを無効化する兵力を魔物側が持っているという事実が何より恐ろしかった。

 下手をすれば、この氾濫はパリザードの氾濫を大幅に超える規模なのではないか?

 あのパリザードの氾濫でさえ数万の人々が失われたのに、今回はどれほどの人命が失われるというのだろうか。

 「くそっ! 化け物どもめ!」

 強力な熱線を放つ芋虫、そして堅牢無比な彷徨鎧、さらに双翼人という完全に相互連携が可能な軍団を前にバイエルはかろうじて追撃を振り切った。

 だがいくら考えても彼らに対抗する有効な手段が思い浮かばなかった。




 五十二階層――――そこは本当に迷宮の中なのか疑わしい腐った泥のような沼地に侵されていた。

 かろうじていくつかの石畳が残されており、そこを通れるようにはなっているが、足元はおぼつかず何より逃げるスペースがない。

 「いや、どうみてもフラグだろう」

 どうみても石畳に乗った瞬間、真横から巨大魚が急襲してくるとか、石畳が崩れて沼に落下するとか、危機に陥る情景しか見えてこなかった。

 「ご主人様、ご主人様、見ててください。わふ」

 「どうしたステラ? それは――――」

 前の階層で仕留めた三頭蝮トライアングルバイパーじゃないか、と松田が言いかけるより早く、ステラは蝮を沼に向かって投擲する。


 ――――ポチャリ


 蝮が水を打つ音は意外に小さかった。が…………

 ゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワッ!

 「どわあああああああああああああああああ!」

 泡のようなものが浮かび上がったかと思うと、蝮が泡だらけになったと思いきや、泡の正体は無数の蛭であった。

 たちまち骨を皮だけに干からびた蝮は、そのまま沼に沈んで魚の餌となった。

 「やっぱりです。あれの傷は治りにくいから嫌いです。わふ」

 得意気にステラは胸を張る。

 「そういう規模と問題じゃねえ!」

 性質が悪いだけでなく生理的嫌悪感を催す物体ヒルであった。

 「渡りたくねえ……」

 あの大量の蛭や、姿は見えなかったが沼深く潜行しているらしい怪魚を相手にするのはできれば避けたい。実は松田はカナヅチなのだ。

 こんな沼地では松田得意のゴーレム軍団が運用できないのも問題である。

 ガーゴイルタイプの空中ゴーレムは使えるが、それでは先ほどのような沼からの奇襲には対応できないのだ。

 かといって魚タイプのゴーレムを操る自信は松田にはなかった。

 ゴーレムマスターも万能ではない。ある程度の構造の把握やイメージができないとそれを操ることもできないのである。

 『主様、主様』

 つんつん、と袖を引かれたかと思うと、ディアナの少し恥じらうような顔が松田の肘のあたりに擦り寄せられていた。

 『私にお任せください』

 やる気満々の目でディアナは松田の命令をじっと待っている。

 これを断るような真似ができるはずがなかった。

 「それじゃ頼むよディアナ」

 『はいっ……!』

 松田に頼られた悦びを隠そうともせず、ディアナはニコリと顔を綻ばせる。

 ステラの天真爛漫な笑みとも違う、どこか慣れない感情を表に出すのを恥じらうような笑みであった。

 念話だけでは伝わらなかった微妙な心の機微を映し出すようになった、ディアナの表情に松田は思わず見入ってしまう。

 やはり表情があるとないとでは、感情の移入度が違った。

 今までよりずっと身近に感じるようになったディアナに、新たなボディを与えるのを検討し始めた松田である。

 『――――毒霧ポイズンミスト

 火力を重視するディアナだが、そのほかの魔法が苦手であるというわけではない。

 羽虫のような敵に戦術魔法を打ちこんでも無駄なわけで、小さな敵には小さな敵用の魔法も多数習得していた。

 毒霧は小動物の集団を一気に殲滅するための、ディアナの得意技のひとつであった。

 広範囲殲滅型というのはやはりディアナの趣味が出ている。


 ――――プカリ


 「おろろろろろろろろろろろろろろろ」

 毒で紫色に変色した数万の蛭と、グロテスクな怪魚が腹を見せて沼地を埋め尽くした光景に、松田無念のリバース。

 『主様! 大丈夫ですか? なんだか顔色が……ステラ! 主様が大変なの!』

 「わふふふふふ……はふう、はふう……おろろろろろ」

 『きゃああああああ! ステラまでえええ!』

 松田よりも嗅覚の鋭いステラが無事に済むはずもない。

 『お願い! 二人ともしっかりしてええ! せめてどちらか一人だけでもしっかりしてええええ!』

 小さなディアナの身体ではとても二人を運ぶことなどできなかった。

 ワタワタと慌てふためくディアナであったが、そんな困惑もまた新鮮な体験であった。

 『誰か……誰か助けてくださあああああいっ!』

 今にも泣き出しそうなディアナをなんとか宥めて、ようやく回復した松田がステラを背負い地上へと帰還すると、慌ただしく人が行きかう中をよく見知った女性が待ち構えていた。

 「――――遅いっ!」

 「あれ? どうしてリンダさん探索者ギルドに?」

 「あんたが潜っている間にこちとら大変なことになってんのよ! いっしょにギルド長室まで来な!」


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