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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第二章
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第四十六話 ディアナ生成その2

 明らかに最悪のタイミングだった。

 黒曜石の瞳に熟れた柘榴のような唇、そして華奢そうに見える肢体には不釣り合いなほどの、70のCカップ――――。

 イメージは完璧だった、と思う。

 身長は少し低めの百五十センチ、エキゾチックな黒髪美女。

 知的でクールな硬質の表情が似合う彫の深い鼻梁、そして――――わふっ?

 いやいやいやいや、ちょっと待って! 今のなし! 今のなしでええええええええ!

 松田は内心で絶叫する。しかし現実はどこまでも非情であった。


 「――素晴らしい! これほど素晴らしい錬成は初めて見るかもしれないよ」


 ひどく満足そうにハーレプストは、うんうん、と何度も深く頷いた。

 魔力定着率の高さ――――美しさと耐久性の両立。

 それは間違いなくハーレプストの目指す永遠への道へと続く確かな道標であった。

 素材の良さもあるだろうが、この異常な品質の高さは松田の魔力のおかげであることは疑いない。

 やはり土属性の純度は品質に強い影響を与えるのだ。

 この感激をどう表現すればいいだろう? 湧き上がる興奮にハーレプストは力強く両手を天に向かって突き上げた。

 だが――――


 「やり直しを要求するうううううううううう!」

 『やり直し! やり直し! リテイクです! こんなのあんまりですううう!』

 「わふっ?」


 号泣して床を叩く松田の姿がハーレプストの視界に映ったのはそのときである。

 なぜだ? これほど完璧な出来なのに。


 「どうしたのだ? マツダ君。これはまさに女性の理想像だよ?」

 「それはあんたとドルロイ師匠がロリコンだからだあああああああああ!」

 「失礼な」


 合法ロリのリンダとラブラブなドルロイの兄弟であるハーレプストが、同じ性癖を患っていたとしてもそう驚くにはあたらない。

 だがしかし! 松田の好みは決してロリにはない。ロリにはないのだ。

 「イメージは完璧だったのに……こんなに小さくなっちまって……」

 『私の巨乳……私のCカップ……』

 「可愛いです。わふ」

 七色に輝いていた魔法生成物は、ちょこんと座った一人の少女に姿を変えていた。

 長い黒髪が身体を覆うようにして伸び、太もものあたりまで広がっている。

 耳元のあたりの髪が、ひと房だけ白銀の色をしていて否が応にもステラの影響を感じさせた。

 確かに将来を期待できる素材ではある。

 かろうじて百四十センチほどのちんまりとした身長のわりに、胸はそれなりに大きくおそらくは65のBはあるだろう。

 折れそうに細い腰のくびれも、緩やかな曲線を描いていて未成熟ならではの色気らしきものを漂わせていた。

 だが問題は、ゴーレムが成長しない、ということだ。

 「えへへ……もう少ししたらステラがお姉さん? ですか? わふ」

 ステラは妹分?の誕生にご満悦の様子であった。

 栄養状態が改善されたばかりか成長期に加えレベルアップしたこともあって、ここ最近のステラの成長は目覚ましいものがある。

 出会ったころには百二十センチ前半の身長が、いつの間にか十センチ以上も伸びていた。おそらくあと半年もしないうちに百四十センチは超えるだろう。

 (だがそれでいいのか? ステラ、お前胸では負けてるんだぞ?)

 身長ほどに胸囲は育っていないステラであった。

 『ふえええっ、主様の理想の私になるはずだったのに…………』

 もちろんディアナにとっての理想の女性像というものはある。

 だがそれ以上に松田が抱く理想の女性像――たとえそれがいくつもの選択肢のひとつであったとしても――になれることが重要だったのだ。

 こんな感情はライドッグに仕えていたときには感じなかった。

 ただの道具ではない自分を見てほしい。そんな人間のような欲求を抱くことはなかったはずなのに…………。

 「僕は感動したよ! だけどマツダ君の理想とする先はまだまだ遠いことを忘れちゃだめだからね!」

 「こんなに可愛いのにですか? わふ」

 「見た目は確かにかなり人に近いものにはなっているよ? でもこのままじゃ声を出して言葉を交わすこともできないし、食事をすることもできない。どうしても関節の動きはぎこちなくなるし、視線に合わせて眼球を動かすようなこともできない。少し注意深く見ていればすぐに人間じゃないとわかるだろうね」

 座っているだけなら美しい少女でも、松田とともに行動させるにはやはりゴーレムのそれを超えることはできないのだ。

 まずは確かな一歩を踏み出したことを喜ぶべきであろうが、目指すべき頂の遠さに松田はめまいを覚えるのだった。

 「人間と同じゴーレムを造り出すのに、あとは何が足りないんですか?」

 「そうだね。まずは魔核。魔神クラスの魔核が必要になるだろうね。それから素体。今は失われた技術なんだけど、高度な魔力で作られた魔法繊維が神経と筋肉の役割を果たしてくれる。この二つがそろえば限りなく人間に近い身体が造れるだろう」

 ただのゴーレムであればシトリ程度の魔物の魔石でも十分に魔核とすることができる。

 しかし人間並みの高度な伝達組織の代替品である素体を運用するには、並みの魔石では魔核とはならない。

 もっともディアナの魔核は神話の世界レベルのとんでもない代物なので、むしろその魔力に耐えうる素体を造ることのほうがよほど難しいだろう。

 そうした意味では今日錬成した器も、松田の目指すところからすれば、ギリギリの最低ラインをクリアーしたにすぎなかった。

 ディアナが十全に力を振るうには、心もとないくらいである。

 「だがマツダ君、君にとって最大の問題は魔核や素体ではない。竜の心臓や古代の素体も莫大な財力と権力さえあれば手に入らないわけではないからね。問題になるのは人と同じ感情を持った存在を人工的に造り出すということさ」

 絢爛たる七つの秘宝が人格ある存在であることは、ライドッグが誰にも話さなかったために世には何も知られていない。

 いったいどうやってディアナたち七つの絢爛たる秘宝をライドッグが生み出したのか、松田には見当もつかなかった。

 ただ一つだけ言えることは、松田が最大の障害となるはずだった人造人格、知性インテリジェントある秘宝アーティファクトをすでに手に入れているということだ。

 さらにいうならば、あと六つはこの世界のどこかに知性ある秘宝が眠っているのである。

であるならば、いつか必ず辿りつく。

 決して裏切ることのない絶対的な信頼をおけるパートナーとして、必ずディアナに身体を与えてみせる。

 「…………しばらく彼女と居させてもらえますか?」

 「そうだな。無粋な真似はするまい」

 自分の作品と向き合いたい気持ちはハーレプストにもよくわかる。

 まして松田は今日初めて自分の理想に近いゴーレムを錬成したのである。たとえ相手が言葉を交わすことができなくても、語りたい言葉もあるだろう。

 ポンと松田の肩を叩いて、ハーレプストは優しい笑みを浮かべると静かに工房を後にしたのだった。


 「――――非常に遺憾だと言っておこう」

 ハーレプストの考えたような感慨など欠片もなく、松田は沈痛な声でそう言った。

 『私のCカップ、私のCカップ、私のCカップ!』

 「こう言ってはなんだが、それでもステラよりは大きいぞ?」

 『そんな理由で私のCカップを諦められるとでも?』

 「ハーレプスト師匠の話を聞いていただろう? あくまでも暫定的なものと思って受け入れてくれ」

 口元が引き攣るのを承知で松田はディアナを慰めた。

 暫定的という言葉がどれほどあてにならないか、十分に知っているはずなのに。


 「暫定的に一か月ほど行ってきてくれないか?」

 上司にそんな言葉を言われたら、暫定的どころか確信犯で島流しにしようとしていると思ったほうが良い。

 賭けてもいいが後任など来ない。

 松田はそれで前任が逃亡した後釜として、過去に四度の転勤を経験している。

 暫定的にという言葉は奇跡みたいな偶然があったら、そんなこともあるかもね、くらいに聞いておいたほうがいい。

 もちろんこの失敗をそのままにしておくつもりは毛頭ないが、なぜかディアナの身体が大人になることはないんじゃないかな、という予感があった。

 存外そんな根拠のない予感というのが馬鹿にならないのだ。

 さしあたり、将来有望な類まれな美少女ということで、ひとまず満足してもらうしかないだろう。

 「わふぅ、とっても可愛いのです! 今日からステラをお姉さんと呼んでもいいですよ?」

 『わあああああっ! 私のCカップぅぅぅぅぅ!』

 「ステラ! ディアナを刺激するんじゃありません!」


 結局機会があれば、ディアナの要望を極力取り入れて次回に生かすことを約束して、ようやくディアナは号泣するのを止めた。

 実際の声ではなく念で届く声なので、泣き声から耳をふさぐこともできず軽い拷問状態であった松田である。

 『今度こそ理想の美女に…………!』

 決意に燃えるディアナの夢がかなうことはあるのか。

 それは運命の神だけが知っている。

 しかし運命の神はいつだって悪戯好きであることを、松田はなんとなく理解していた。


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