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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第二章
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第三十一話 弟子入り

新章スタートします!

 「タケシ・マツダを銅級探索者に認定します。あと少しで銀級探索者ですから頑張ってくださいね」

 受付嬢のプライスレスな微笑をもらって、松田は肩をすくめた。

 「ありがとうございます」

 さすがに四十階層にまで到達した探索者を、いつまでも鉄級にしておくわけにはいかなかったようだ。

 しかし一足飛びに銀級へ昇格するのも憚られたため、四十一階層に達すると同時に銀級へと昇格という折衷案が取られたらしい。

 地位にこだわりのない松田にとってはどうでもよいことだ。


 結局あの魔物の暴走スタンピードは隠ぺいされた。

 メイリーとブリュートは行方不明。

 念入りにディアナが消滅ディスインテグレイトさせていたので、今後も彼らが発見されることはないだろう。

 もっともメイリーの後ろ暗いところを知っていた連中は、事の真相をある程度把握しているらしく、松田を見る目が明らかに変わっていた。

 シェリーは母の枕元に大金を積んでどこかに行方を晦ませたらしい。

 そういえばあまりに大量すぎて魔石の回収するのを忘れてたわ、という松田にディアナは苦笑して言った。

 『照れ屋さんですね』

 「だ、誰が照れ屋やねん!」

 「ご主人様、ステラはうれしいです! わふ」

 壊れてしまった心のほんのわずか、片隅に残された希望の光。

 それがシェリーに千体以上という莫大な魔物の魔石を与えることになったのだ、とディアナは承知していた。

 そうでなくてはあそこでシェリーを生かしておいた意味がない。

 もしかしたらシェリーももう一度松田のもとへやってくるのではないか、とディアナは予想していたがその予想は外れた。

 あのままで松田に合わせる顔がないと判断したのだろう。

 きっと彼女の気性からいって、この街を捨てたとしても、探索者を止めることはないはずである。

 であるならば、彼女の努力次第ではまた会える日もやってくるはずであった。

 もっとも、ディアナとしては会える日などこないほうが良かったのだが、こればかりは運命のめぐり合わせである。

 少なくともディアナは、シェリーが松田の背中に追いつこうと努力することだけは疑っていなかった。


 「――――さて、ちょうど一週間だな」

 ギルドを出た松田は大きく伸びをする。

 このところ長く地下に潜っていたせいか、高い日差しを浴びるのが新鮮な心地であった。

 『そうですね。いいタイミングだったというべきでしょうか』

 「またあのおっきなおじさんのところへ行くですか? わふわふ」

 思わず散歩じゃないぞ、と言いたくなるほどに松田の周りをまわってはしゃぐステラである。

 「新しい目標ができた以上、本腰を入れて教わらなくちゃな」



 ――――そのころドルロイ工房では、ドルロイが元老評議会からの使者を迎え苦虫を噛み潰していた。

 「まさか兄者が使者とは、な」

 「全く無茶な真似しやがって。おかげで一族の者がえらい目にあったよ?」

 立派というしかない見事な大髭。

 ぎょろりとした双眸に熱に焼けた赤銅色の肌は、兄弟そろって瓜二つである。

 唯一違いがあるとすれば、兄のほうが身綺麗でよそ行きの恰好をしているということか。

 「随分と久しぶりね、お義兄さん」

 「やあ、相変わらず可憐だねリンダ。まったく、この愚弟には似合わないよ」

 「放っとけ! うちのリンダに色目使うんじゃねえ!」

 「これでも私の選んだ男さ。融通は利かないが誰かさんと違ってちゃんと愛してくれるしね」

 「…………これは手痛いお言葉だな」

 ぴしゃりと自分の額を右手で打って、ドルロイの兄は苦笑した。

 軽口は叩いていても、自分が本当の意味で女性を愛せないことを男は自覚していた。

 「もうよかろう! それで! 評議会は許可を出したんじゃろうな!」

 ドルロイはそのために、自分の持つすべての人脈を利用して元老評議会に働きかけていたのである。

 「お前ね――――五槌のひとりがそんなしゃかりきになったら、疑ってくれというようなもんだろが」

 呆れたように男は両手を広げて頭を振った。

 ――――五槌

 それは当代のドワーフが認める名工トップ5に与えられる尊称である。

 ドルロイはその大仰な呼び名を辞めたがっているが、元老評議会によって認められたものがそう簡単に覆るはずもない。

 「権威なんて糞くらえのお前が、五槌の権限まで利用して弟子にしようとしたのがエルフときた。僕が元老でも鈴をつけるね」

 「ということは弟子の件は通ったのか」

 「通すしかあるまいよ。下手に反対すれば、お前ドワーフ評議会から離れるつもりだったろう?」

 「まあ、そうだな」

 ドルロイほどの名工になれば、ドワーフの横の連帯を利用しなくてもそれほど仕事に支障はないのである。

 もちろんドワーフ間の技術交流や稀少金属の融通など失うものも多いが、決してなくてはならぬというわけではない。

 評議会がドルロイに強く出れぬ所以であった。

 「それで通すには通すが、お目付役が必要ということになったわけだ。僕にとってはいい迷惑だが」

 「ふん、本当に迷惑だな!」

 憤然となってドルロイは顔を赤くした。

 松田を鍛え、緋緋色鉄の研究に没頭したかったというのに、これでは余計な邪魔が入ったも同然であった。

 できる限り隠密裏にドルロイは緋緋色鉄の研究を進めたかったのである。

 それを察したのか、男はいやらしい笑みを浮かべてドルロイの瞳を覗き込んだ。

 「安心しろ。兄弟のよしみで評議会には黙っておいてやる。それで? なんだってエルフの弟子なんか取る気になったんだい? まさか可愛いリンダから宗旨替えしたわけでもあるまいに?」

 「ば、馬鹿野郎! エルフは男だ! それに巨乳は永遠に俺の敵だ!」

 「わかってないな…………乳に貴賤などないというのに」

 「あんたらいい加減にしないと火釜に叩き込むよ!」

 レディの前でなんて会話だい、とリンダは頬を膨らまして激怒した。

 残念ながらこんな時の女性に男が対抗する術はない。

 「――――とにかく俺の邪魔をするんじゃないぞ! 人形師ハーレプスト!」

 「やれやれ、いつだって先覚者は理解されないものさ」



 『それにしても主様はとんでもないことを考えますね……』

 「ディアナだって身体が欲しいと言ったじゃないか!」

 『確かにあればうれしいですけど、主様が考えるほど簡単なことじゃありませんよ?』

 そもそもディアナをディアナ足らしめているのは、今や絶滅したとされる古竜の心臓を加工した魔核である。

 杖の素材もエルフの王国の心臓部にあたる世界樹から切り出されたもので、そのくらいの魔力強度がないと魔核の受け皿となることもできない。

 松田が造ろうとしている人間同様の身体に、それほどの魔力強度が得られるとも思えなかった。

 「ディアナさんがゴーレムになったら、きっと綺麗だと思います! わふっ!」

 本当にお前は会話を聞いていたのか、と突っ込みたくなるステラの言葉になぜか心をくすぐられる松田である。

 この娘に言われるとどうにも深く追及する気を失ってしまう。

 『もちろんそれは言うまでもないことですけれど!』

 はて、ディアナの身体を造るのは松田なのだから、ディアナの理想がそのまま形になるとは考えにくいのだが。

 ふと松田はディアナをゴーレムにするならどんな姿がよいだろうか考える。

 ディアナのイメージを損なわず、それでいてどこまでも松田の理想に忠実なディアナの姿を。

 川の流れるような艶やかな黒髪にツンとした小顔。そして愛らしくも大きな黒い瞳。

 和風な顔だちでありながら、どこか西洋人形ビスクドールのような雰囲気を感じさせるスレンダーで伸びやかなスタイル。

 ――――実に素晴らしい。松田の理想像なのだから当然である。

 完成したディアナを隣に侍らせる様子を想像して、松田は思わず頬を緩ませた。

 「んっ?」

 今何かおかしなところかあったような…………。

 「……ああ、貧乳か」

 ポン、と拳で右手の平を叩いて松田は頷く。

 『今の会話のどこから貧乳という言葉が出ましたか!』

 猛然と抗議するディアナに松田はどこまでも冷たい声で言い放った。

 「なんていうか…………イメージ?」

 『主様のイメージに致命的なミスがあると主張します!』

 納得いきません! 納得いきません! と呪文のようにつぶやき続けるディアナに止めの一撃が加えられたのはそのときだった。

 「わふ? ディアナさんは私より胸が小さいですか?」

 『――――あなた、餓鬼だと思って調子に乗ると許しませんよ?』

 「わふ?」

 しっかりと女の目で優越感を主張するステラに電撃がさく裂した。




 松田とディアナの理想の違いはともかく、一行は喧々諤々の論争をしている間にドルロイ工房へと到着していた。

 「――――この問題は継続審議とする」

 『了承しました。でも勝利するその日まで私は戦うことを止めませんよ?』

 「受け入れなくちゃ現実を」

 『貧乳なんて屈辱な現実があるなら見せてごらんなさいですわああああっ!』

 「なんじゃさっきからうるさい」

 苦虫をかみつぶしたような不機嫌な様子で、ひょっこりと店の扉から顔を覗かせたのはドルロイその人であった。

 「おお、来たか。ちょっと今嫌な奴が来ておってな……」

 松田が会釈しながら店内に入るとそこにはドルロイにそっくりな大柄のドワーフがいた。

 「ご兄弟ですか?」


 「「どうしてわかった??」」


 誰が見ても一目瞭然だと思うが、松田は日本人らしく空気を読んでスルーすることに決めた。


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