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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第四章
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第百六十五話 リアゴッドとの決戦

「ま、間に合ったのか?」

「御意」

 五日目にしてデアフリンガー王国から報告を受けていたラザール一世は一日千秋の思いで松田を待ち続けていた。

 残る二日、たった一日遅れただけでも王都は灰燼に帰すであろう。

 グリフォンゴーレムで空中を飛行することができる松田でなければ、到底二日で王都へ到達することはできなかったに違いない。

 当初松田が発見された場所を聞いたラザール一世はそれだけで絶望したものだ。

 リアゴッドの予告からちょうど一週間目の今日、地平線の彼方に松田のゴーレムの姿を確認して、ラザール一世はどさりとソファに腰を落とした。

「――――このような思いは二度とごめんだ」

 この一週間で一生分の忍耐を使い果たしたような気がする。

 胃が痛くなるほどの思いで人を待ち続けるなど、ラザール一世の人生ではかつて経験のないことであった。

「願わくばあのリアゴッドに報いを与えてくれんことを」



「ようやく来たか。このまま王都を灰にするのも一興であったものを」

『やりますか? 造物主様』

「まだよい」

 接近するグリフォンゴーレムを前に、リアゴッドは奇妙な高揚に包まれていた。

 万物を見通す眼イリスを奪われたという怒りはすでにない。

 あるいはかつての〇〇〇のように、自分に匹敵する対等の存在を松田のなかに見出したのかもしれなかった。


「――召喚サモン、ゴーレム!」

 松田の誇るゴーレムの大軍団が出現した。

 その数およそ九百。

 巨大な盾騎士を先頭に、整然と方陣を組む軍団を見たラザール一世は瞠目した。

 こちらはこちらで、リアゴッドとは異なる恐怖を揺り起こされる地獄の軍団であった。

 確実に一騎あたりのゴーレムが兵士百人以上に匹敵するに違いない。

 いや、中央の円卓騎士ナイトオブラウンズ攻城弩バリスタオーガなどは千人いても勝てる気がしなかった。

「化け物め!」

 ある意味で松田を殺しておくべきと判断したリュッツォー王国のグリンゴは正しい気がした。


「タケシ・マツダよ! 大人しく我が絢爛たる七つの秘宝を返還し我に仕えよ。貴様のその才には理想郷ティルナノーグに生きる資格がある」

 リアゴッドの目にも松田のゴーレム軍団は見事であった。

 これほどの数と性能のゴーレムを制御することは、天才たる自分にもできない。

 誰も理解できない天才の地平を知るがゆえに、リアゴッドは自分とは違う天才に飢えていたともいえる。

「生憎とディアナもフォウもイリスも、そっちに仕えるのはごめんだってさ」

「私はお父様のものです!」

「私はお姉様についていきます!」

「わりとどうでもいい」

 銘々が勝手なことを言っているとリアゴッドは嚇怒した。

「秘宝風情が! 造物主に逆らうか!」

『絢爛たる七つの秘宝の名を穢す愚か者め!』

 以前にディアナに裏切られた屈辱が蘇った。

 絶対に裏切ることのない信頼を置くことのできた人ではない秘宝。

 その秘宝が裏切ることなどあってはならなかった。

 主人を裏切るとすれば、それはもはや秘宝ではなかった。

「やはり貴様は死ね!」

 リアゴッドの手から巨大な炎が放たれる。

 無詠唱だが、それだけでも分厚い城壁を燃やし溶かすほどの威力である。

「今度はそう簡単にはいかないよ」

 魔法抵抗を向上させた大盾ゴーレムがその炎を正面から受け止めた。

 三メートル近い巨大な盾が炎の圧力とせめぎあい、ギシギシとゴーレムの脚部が悲鳴をあげる。

 しかしなんとかゴーレムは炎の一撃を凌ぎ切った。

 もっともリアゴッドにとってはただの牽制の一撃にすぎない。

 本命はこれから転移してからのヒットアンドアウェイだ。

『申し訳ありません造物主様! 周囲数百メートルにわたって結界が張られていて転移ができません!』

「なんだとっ?」

「いやいや、一度見せられたら対策くらいするだろ」

 実は松田の四方を守るように結界機能を持たせた四天王ゴーレムが展開されていた。

 これでリアゴッドはコリンの転移を使って松田に肉薄することができない。

「こざかしい真似を!」

「行くぞ!」

 巨大な攻城弩バリスタを操るオーガから、丸太のように太い矢が打ち出された。

 さらに毒を付与された鳥型のゴーレムが燕のような速さでリアゴッドへ迫る。

「そんなものがこの私に通じるか!」

 高度な魔法士は自分を守るために魔法障壁を展開しているものだ。

 いかに巨大であっても、それだけではリアゴッドほどの魔法士の障壁は突破できない。

「こっちも牽制さ」

 ゴーレムが時間を稼いでいるうちに、ディアナが禁呪の詠唱を終えている。

「行きます! 星を砕くもの(スターブレイカー)!」

「くそっ! ディアスヴィクティナめ!」

 ディアナの禁呪を目にしたリアゴッドの表情から余裕の色が消えた。

 禁呪はリアゴッドをもってしても本気で防がなければならない魔法だった。

「加勢するわよ」

「松田すまん、私の出番があったら言っとくれ」

「ありがとうサーシャさん、ノーラ」

 人狼の戦巫女であるサーシャと違い、ノーラは現状戦力としては計算できなかった。

 しかし万が一のとき、彼女の完全魔法無効は切り札になる。

狼王ウルフキング天罰バニッシュ

「ステラも行きます!」

「嘗めるな! 我こそはこの世界の支配者リアゴッドなるぞ!」

 障壁の出力を全開にしながら、サーシャやステラに致死性の雷撃を飛ばす。

 リアゴッドのような規格外の魔法士であるからこそできる高度な並列処理戦闘であった。

 強大な力を持ちながらも、個が集団に敗北してしまうのは、この並列処理に限界があるからだ。

 一対多の戦闘に慣れているリアゴッドにとってはごく当たり前の技術である。

「甘いです!」

「次は貴様か! フォウ!」

 ところがリアゴッドの放った雷撃は、不可視の盾によって防がれてしまった。

 雷撃を突破したサーシャの拳が、リアゴッドの障壁に衝突して互いに押しあう魔力が火花を散らす。

「こんな馬鹿な……」

 自分が押されている。

 レベルアップしコリンもグローリアも手に入れた自分が。

 グローリアという回復手段を手にしている分、長期戦はリアゴッドに有利だが、それはリアゴッドの求める勝利の形ではなかった。

 自らの力による格上の戦いを目指しているリアゴッドにとって、現状は屈辱以外の何物でもなかった。

薔薇聖界ローズサンクチュアリ!」

 棘をつけた巨大な蔦がリアゴッドの周囲を取り巻き、サーシャやステラを捕えんと触手のように蠢いた。

「こいつ、気持ち悪いです。わふ」

「厄介ね……こいつと障壁を同時に相手にするのは正直分が悪いわ」

 白兵戦のスペシャリストである人狼の二人が躊躇していると、それを待っていたかのようにリアゴッドは詠唱を開始した。

「神の怒り(ラスオブゴッド)」

要塞フォートレス!」

 松田は対魔法用の巨大なシェルターを錬金してこれを防いだ。

 さすがのリアゴッドの大魔法をもってしても、要塞と不可視の盾の二重の防御を突破することはできなかったのである。

 それが嫌が応にもリアゴッドの屈辱感を掻き立てた。

「マツダよ。貴様はなんのために戦う?」

 これほどの力を持ちながら。

 そして間違いなくかつてのライドッグのように各国からの迫害を受けているはずなのに。

 あの運命の迷宮で待ち構えていたリュッツォー王国パリシア王国連合軍が、本来は松田を討伐するためのものだったとリアゴッドは知っていた。

「わからんか? その力を見せれば見せるほど、この世界は貴様を排除していくのだと」

「だから自分の方から排除するんじゃ本末転倒でしょ」

 嫌いだから、わかってもらえないから、自分を肯定してくれるだけのコミュニティーを作りたい。

 松田に言わせるとリアゴッドのいう理想郷というのは、厨二病のコミュニティーだった。

 妄想に慰めを求める社畜であったころなら、それもいいと思える。

 しかし松田はこの世界で、われがままに生きると決めたのだ。

 我がままに生きるとは、逃げない目を逸らさないということ。自分の心を欺かないという誓い。

 だからこそ――――

「あんたと失楽園するつもりはないね」

「やはり所詮は貴様も虫の仲間であったか!」

 どうしてわかってもらえないのか。

 自覚はせぬままにリアゴッドは思う。

 天才を虫は理解できない。

 しかし天才なくして人類の飛躍はありえないのだ。

 理解できぬだけならともかく、邪魔までする虫を排除して何が悪い。

 それが結果的に世のため人のためになるとなぜわからない?

「他人のことがわからないなんて当たり前のことだろが。だから信じるって行為が難しいんだ」

 松田も一度は信じるということを諦めた。

 力がなかったから、リアゴッドのように自分から進んで信じられないものを破壊しようとは思わなかったが、信じることそのものは不可能だと思った。

 今でも本当に人を信じられるとは思っていない。

 だが信じたいと思っていた。

「残念だな。なまじ天才で力があるばかりに人を知ろうとしなかったか」

「虫の分際で! この俺を憐れむな!」

「お父様は虫じゃありません!」

「おのれ……ディアスヴィクティナ!」

 そこでふとリアゴッドは気づいた。

 ディアナの星を砕く者が、リアゴッドの魔法障壁を侵食し始めているということを。

「馬鹿な! ありえん! いかに終末の杖といえど魔法力ではこちらが上のはず!」

「悪いけど、それこの間までなんですよ」

 肩をすくめて松田は嗤う。

「どういうことだ?」

 焦りの色を濃くしながらリアゴッドは尋ねた。尋ねずにはいられなかった。

 ディアナはリアゴッドが設計から製作にまで携わっており、その力の恐ろしさも限界も十分にわかっていた。

「私のスキルに秘宝の進化というのがありましてね」

「今の私はあなたが知る終末の杖ではありません。いうなればニュー終末の杖!」

「……お姉さま、ネーミングセンスだけはありませんね」

「激しく同意」

「貴女たちは黙ってて!」

 バチバチと魔力の火花が、障壁の限界が近いことを告げていた。

「秘宝を進化させたというのか。なぜそれほどのスキルを持ちながら…………」

 こめかみから脂汗を流しながらリアゴッドは障壁の出力をあげた。

『造物主様!』

『攻撃手段のないわが身がうらめしい……』

 確かに回復や逃亡は万全であるが、攻撃手段のある秘宝がないことが結局じり貧となることになった。

 今となっては転移して逃げることも難しい。

 転移する一瞬の空白の間に、障壁は破られリアゴッドは命を失うだろう。

「くそっ……障壁が……」

 ついに限界を迎えた障壁に、ありったけの魔力を注いだことで、一時的にリアゴッドの意識が飛んだ。

 糸が切れた人形のように崩れ落ちるリアゴッドを、ディアナの星を砕くものが圧し潰そうとしたそのとき――


「やめなさいディアスヴィクティナ」


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