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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第四章
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第百五十八話 万物を見通す眼イリス

 ――それからしばらく後のこと 

「バースクリフ山の結界が壊れた? マツダ殿が行ったから停止しただけだろう?」

「停止ではなく破壊です! 時間的に微妙だったので報告が遅れました。何者かがバースクリフ山に侵入しています。おそらく宝石級以上の実力者が!」

 あるいは伝説級かもしれないという言葉を、かろうじてバーリアは飲みこむ。

 そんなことは想像もしたくなかった。

 バーリアが飲みこんだものを、ギルド長も正しく洞察していた。

「……だとすると我々の手には負えん! 領軍に出動を要請しろ! 宝石級探索者も緊急招集だ!」

 伝説級探索者というのは、過大でなく一国の戦力に匹敵するのだ。その伝説級と伝説級が戦えば、どんな被害が生じるかわかったものではない。

 最悪の場合、その被害によって運命の迷宮が氾濫するという事態も考えられた。

 いずれにせよもはやホピバルの探索者ギルド程度で収まる話ではなかった。

(――マツダ殿、勝手な望みとはわかっていますが、どうかお力をお貸しください!)



 運命の迷宮はダンジョン型のオーソドックスな迷宮だった。

「さて、てっとり早く行こうかな」

「ご主人様! ステラは? ステラは?」

「ステラ、ステイ!」

「わふぅ……」

 敵が万物を見通す眼イリスの権能スキルを使っているとするなら、下手にステラに暴走されると困る。

 この迷宮では徹頭徹尾、松田は攻略をゴーレムに任せるつもりだった。

「――――召喚サモン軍団レギオン

 ただちに召喚される巨大な重戦士ゴーレム、長弓兵ゴーレム、そしてグリフォンゴーレム。

 前後左右ばかりか上空までゴーレムで護衛し、休憩中だろうと無意識に油断していようと完全防御。

 しかも万が一防御を突破されても、不可視の盾フォウが文字通り最後の盾となる。

 罠があろうとやられたゴーレムは再召喚すればよいだけ。

 数の暴力で迷宮の罠をねじ伏せる。

 おそらくは松田だけに許された攻略方法であった。

 これでは松田たち一行を常時監視していられるメリットはほぼないと言っていいだろう。

 奇襲、バックアタック、飽和攻撃のどれも松田には通用しない。

 本来、迷宮という場所は軍隊には向かないとされる。

 だからこそ探索者という個人が、パーティーを組むことはあっても基本的には少数で攻略してきた。

 軍隊を投入しても損害が大きくなりすぎるからだ。

 特に戦闘正面が限られているダンジョン型の迷宮ではその傾向が顕著になる。

 かつて迷宮の独占を図り、軍を投入した国もないわけではないが、損害と利益が釣り合わない――国防が崩壊してしまうという観点から手を引くのが常であった。

 しかし松田は軍の消耗を気にする必要がない。

 魔力さえあればいくらでも召喚することができるからだ。

 となると数の力は俄然優位に働く。

 ましてレベルアップを経て、松田の召喚するゴーレムは一体一体が下手をすると銀級から金級並みに強いのである。

 疲れることもなく休憩の必要もなく食事もいらない。

 そんなゴーレム軍団に対処する方法があるとすれば、集団の力が全く通用しないほど圧倒的な個の力であろう。

 つまりボスでないとゴーレム軍団は止められない。

 でもボスはおいそれと前線には出現できないし、仮にそこで負けてしまうと後がないのである。

 逆に松田はボス戦になれば大量のゴーレム軍団を送還し、新たにボス戦用の強力なゴーレムを召喚することができる。

 もし迷宮に意志があるとすれば、何この理不尽な仕様と叫びたくなるはずであった。

 松田のパーティーには罠解除や索敵に特化したスカウトがいないのも何ら問題にはならなかった。

 偵察ならば飛行型ゴーレムが数の力で迷宮内を偵察しまくっており、罠は前衛の重戦士が端から踏みつぶしてくれる。

 これほど罠にかけ甲斐のない敵があるだろうか。

「あ、落とし穴」

 迷宮の床が割れて、前衛のゴーレムが十体ほどまとめて落ちていく。

 穴の先には鋭利な槍が林立しており、落ちたら最後なのは確実だがゴーレムたちは落ちるより早く送還されてしまう。

「はい、送還アンサモン

 間髪入れずサンダーウルフの一団が前方から突入してくるが、後方から長弓兵が射撃、討ち漏らしをフォウが弾き返す。

 そして再び召喚される重戦士ゴーレム。

 進退窮まったサンダーウルフは挟撃されてあっさりと殲滅される。

 そんな光景が繰り返された。

「なんだか相手が可哀そうになってくるわ」

 ノーラは松田の隣で見物に回ったまま呆れていた。

 汎用性や即応性で松田の指揮するゴーレム軍団は、鍛え上げた軍隊のそれを遥かに上回る。

 反則と言ってよいほどだ。

 埒が明かないと思ったのか、物量で攻勢に出てきても鉄壁の守備を抜くことは容易ではない。

 ゴーレムを突破してもそこには不可視の盾フォウがおり、その先には手持ち無沙汰で手ぐすね引いているステラとディアナにノーラが待っている。

 松田自身も土魔法に限って言えば優秀な魔法士なので、この何重もの障害を越えることはほぼ不可能に近かった。

 全く危なげない蹂躙に近い形で、松田たちは運命の迷宮デスティニーをどんどん地下へと進んでいった。


「ここが最下層か?」

「そうでしょう。この先へ降りる階段が見当たりません」

 薄暗い地下ダンジョンに、不似合いなほど高い天井。

 そして厳かな祭壇と魔力に満ちたオベリスク。

 思ったよりも早く最下層に到着したことに、松田は当惑していた。

 だが本当は違う。

 それだけ松田が反則なのである。

 道を迷わせようとしても、飛行ゴーレムが数の暴力ですぐに道をみつけてしまう。

 毒のトラップはゴーレムには一切効き目がないし、不可視の盾フォウの盾は攻撃だけではなく毒物も通さない。

 それに松田も幾多の戦いを超えて、ゴーレムの運用に慣れ始めていた。

 今なら軍隊と戦術的な駆け引きを行えるほど自在にゴーレムを扱えることに、当の松田が気づいていない。

 一人では限界があるからこそ、ライドッグほどの魔法士が絢爛たる七つの秘宝を生み出した。

 意思のある道具の汎用性はそれほどに高い。

 絢爛たる七つの秘宝には遠く及ばなくとも、松田の操るゴーレムはそれと同じ理想を実現していた。

 こんなチートをどうやって止められるというのか。

 もし迷宮が擬人化したら「なんだ、この無理ゲー!」と絶叫しただろう。

『当たり、のようですわ主様』

『すると絢爛たる七つの秘宝の?』

『ええ、この気配、万物を見通す眼イリスに間違いありません』

 クスコにとっては慣れ親しんだ気配である。

 それにしてもイリスの権能を迷宮の封印に取り込んだとすれば、この迷宮を構築した者も恐るべき術者であったろう。

 そうした術者をもってしても破壊できなかった絢爛たる七つの秘宝もまた、やはり絶世の神器であった。

「――――ガーディアンはドラゴン、か。定番だな」

「お父様、私がやってしまってもよろしいのでしょう?」

「ご主人様! ステラも! ステラも!」

「……やりすぎるなよ? くれぐれも」

 まかり間違ってイリスが吹き飛ばされたりしたら目も当てられない。

「絢爛たる七つの秘宝さえ滅ぼすとっておきの禁呪を……あいたっ!」

「やりすぎるなって言ったよな?」

「お父様、いけずです……」

「いい加減早く攻撃してくれないと、そろそろ私の盾もやばいんだけど……」

 そんな漫才の間にも、ドラゴンの攻撃をフォウは障壁を展開して防いでいた。

 フォウが突破を懸念する程度には、ここのドラゴンの攻撃は強いらしい。

 もっともまともな探索者からすれば、常識を疑うのんきさであろう。

「溶け散れ! 霊紅炎マナプロミネンス!」

 ミスリルも一瞬で蒸発させる超高温の炎が奔流となってドラゴンに直撃した。

「ふふふ……これでステラの出番はありませ……あら?」

 渾身の一撃が直撃し、さすがのドラゴンも一撃か、と思われたが白熱化したドラゴンは微動だにせず健在であった。

「魔法が効かない?」

「なら私の出番なのです! わふ」

 砲弾のように加速したステラが、ここぞとばかりに拳を振るう。

 ステラの身体能力は成長とともに幾何級的に向上している。

 何のスキルも使わなくとも、素手で鋼鉄を砕き、大地を穿つほどの威力があった。

 その空恐ろしい拳が一呼吸の間に何十発とドラゴンへ打ち込まれた。

「わふ?」

 どうも手ごたえがおかしかったらしく、ステラは可愛く首を傾げた。

 案の定、ドラゴンは全くダメージを受けた様子もなく、大きく口を開けてブレスを吐く。

 間一髪これを躱したステラの美しい銀の髪がわずかにブレスに触れて一瞬で燃え尽きた。

 髪の焦げる嫌な臭いが松田たちの鼻をつく。

 しかし当のステラは一切気にしていない様子で、手ごたえが変だった拳を握ったり閉じたりしていた。

『主様、これは…………』

『おそらくは――依り代』

 本体はこことは違う別な場所にいて、魔力を供給されている限りこのドラゴンも滅びることはない。そんな仕掛けだろう。

「――――とはいえ相手が悪かったな」

 もし松田たちが普通の探索者なら、ドラゴンの攻撃を防ぎつつ本体を探し求めるしかない。

 いかに実力者といえど、戦闘を継続しながら、しかもガーディアンを相手にそれを遂行するのは至難の業だ。

 大量の犠牲者を出し、ギルドがこの運命の迷宮デスティニーを封印した理由がわかる気がした。

 残念なことに、松田たちはあらゆる意味で普通ではない。

「フォウ、障壁を一時的に最大出力」

「お任せ!」

「ステラ、合図があったら、全力でぶちかませ」

「わふぅっ!」

 心の底からうれしそうにステラは小躍りして足をばたつかせた。

「お父様! お父様! 私は?」

「ディアナは止めを任せる。たぶん威力はいらないだろう」

「そんな……先ほど以上の出力の魔法もありますのに……」

「頼むから精度重視で派手な魔法は使うな」

「お父様のいけず……」

 自慢の魔法が全く効き目がなかったことは、ディアナのプライドに障ったようだが、この場合は関係がなかった。

「というわけで、ノーラ、接近して魔法を無効化してくれ。フォウの盾も無効化されてしまうから、すぐに離れるんだ」

「――――ああ、なるほど!」

 ノーラには絶対魔法無効化という切り札がある。

 どんなに無敵を誇る魔法であっても、無効化されてしまっては意味がない。

 ノーラの無効化スキルは魔法の強弱に関係なく作用するからだ。

 このスキルで本体と依り代の繋がりを断ち、無敵性を失った依り代を破壊してしまおうというのが松田の考えだった。

「行くわよ! 完全魔法無効キャンセル!」

「行け! ステラ!」

「はいです!わふ」

 同時に飛び出したステラが拳の弾幕を張ってドラゴンを打ちのめす。

 本体との接続を断たれたドラゴンは拳の圧力で、粉々にちぎれ飛んだ。

 そして術式の核であろう心臓の宝玉だけが残される。

「最後の締めはいただきます! 凝縮光槍コンデンスレイスピア!」

 太陽の光を一本の槍に集めたような正視できない眩しい光を放ち、真っ赤な宝玉に槍が突き刺さった。

 ほんの一瞬だけ、槍の破壊力と宝玉の硬度が拮抗するも、それはすぐに終わり、細かな罅が入ったと思うとすぐに宝玉は砂のように砕け散った。

 ガーディアンを倒され、祭壇の封印が解かれるとイリスが覚醒したであろうことを感覚として松田は理解した。

『……懐かしい気配』

『万物を見通す眼イリスか?』

『ん……不思議な感じ。貴方が新しいマスター?』

『そうだ。タケシ・マツダという』

『うん、わかった。貴方はタケちゃん』

「お父様に向かってタケちゃんとは何事ですかっ!」

『そこの幼女は誰?』

「幼女じゃありません! 終末の杖ディアスヴィクティナを忘れたとは言わせないわよ!」

『ディアスヴィクティナは貴女のような幼女ではない』

「これは一時の間違いなのよ!」

『そう……でも可愛らしくて私は好き』

「ですよね! やっぱりディアナお姉さまはこの姿のままで!」

『でも貴女は可愛くない』

「なんでよ! せっかくお姉さまそっくりに作ってもらったのに!」

『どうして?』

「私が聞いてるのよ!!」

 怒りのあまり肩で息をしながらフォウが怒鳴る。

 止めておけフォウ。怒れば怒るだけ損をするタイプだ。こいつは。

 地団太を踏むフォウを見て苦笑しつつ、松田は祭壇に鎮座する緋緋色鉄製の腕輪を手に取る。

 ドワーフの腕のいい鍛冶師あたりには緋緋色鉄だと見抜かれてしまいそうなので偽装が必要かもしれない。

 とりあえず長袖の上着の下に隠すようにして松田はイリスを装着した。

『タケちゃん?』

『どうしたイリス?』

『私にも可愛い身体』

『お前といいフォウといい、秘宝なのに身体は欲しがるんだな』

『身体はずっと欲しいと思っていた。でも造物主様が必要としていないこともわかっていた』

 ライドッグはあくまでも意思ある秘宝を求めていただけだった。

 そんなライドッグに身体が欲しいなどとは言い出せなかったということか。

『ちなみに私にディアスヴィクティナと同じような身体を持つ趣味はない』

「妹なんだからお姉さまに似せるのは当然でしょっ?」

『絢爛たる七つの秘宝は姉妹ではない』

「ぬががっ!」

 秘宝は人間のように遺伝子を引き継いで生まれるわけではない。

 そうした意味で秘宝に血縁関係はないのも事実である。

 しかしフォウもディアナも、血縁とは異なる絆が自分たちにはあると信じていた。

 あるいはそうしたものがあるのかもしれないと気づいた。

 自分では気づいていないだけで、ちゃんと身体が欲しいというあたりイリスにもそうした感情はあるのかもしれない。

「といってもなあ……素体がないからしばらく先のことになると思うけど。いや、イリスの力を借りれば材料を揃えるのは早いのか?」

 時間が許せばマクンバに戻って005の素体を掘り出せるか試してみるのもいいかもしれない。

 しかし天は松田にそんな悠長な時間を与えるつもりはないらしかった。


「――――その腕輪、絢爛たる七つの秘宝のひとつ、万物を見通す眼イリスと特徴が一致する。ライドッグの秘宝を操る探索者がいると聞いたときには半信半疑であったが――」


「誰だ??」

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