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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第四章
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第百五十七話 運命の迷宮

 松田が目指す迷宮は、リジョンの町から数百キロ南下したホピバルの町にある。

 フェッターケアンから与えられた馬に乗り、およそ四日ほどかけて到着したそこは、スキャパフロー王国に比べかなり温暖で色彩に満ちていた。

 大きな湖に面した町並みは、赤や青の原色を輝かせた屋根が並んでおり、さながら油絵のようである。

「南国風だな」

 湿度はそれほどではないが、日差しの強さが段違いに強い。

 日焼けした人々が通りを忙しげに歩いていて、その喧騒はリジョンの町を遥かに超えている。

「兄さん、兄さん、果物水はいらんかね?」

「ああ、いただこうか」

 露店商に声をかけられ、松田はにじみ始めた額の汗をぬぐって答えた。

「探索者ギルドがどこかわかるかい?」

「ああ、あんた探索者かい。ギルドならもう少し進んでいったところを左に曲がってしばらくのところさ」

「ありがとう」

 そういって松田は露天商から果実水を受け取った。

「おいしいです。お父様」

「甘いです。わふ」

「ディアナお姉さまがうらやましい……」

 味覚のないフォウがうらめしげに松田を見つめるが、そこは松田にもどうしようもないことであった。

「ま、気長にいこうや」

 ノーラはぽん、とフォウの頭を撫でるのを合図に松田達は歩きだした。

 オーク製の大きな柱が三階建てのギルドの門構えを非常に重厚なものにしている。

 ほぼ三十分ほど歩いたところに探索者ギルドはあった。

「すいません」

「ようこそ、ホピバルの探索者ギルドへ! ご登録ですか?」

 見慣れぬエルフと女性陣を見て、受付のパーリアは不審な気持ちを抑えてにこやかにほほ笑んだ。

「迷宮に入る許可をいただきたいんですが」

「生憎と我がホピバルの迷宮は銀級……稼ぐつもりなら金級以上でないと厳しいですよ?」

「ああ、そういう……これ、デアフリンガー王国のギルドでもらったもんですけど……」

「なんですか? 賄賂ならお断わりいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 パーリアは松田の差し出した徽章を胡散臭そうに見たかと思うと奇声を発して立ち上がった。

 まごうことなき伝説級探索者の徽章である。

 真理を表すひとつの目、そして財宝を表す金貨の山を刻印したその徽章は、探索者ギルドにいるものなら憧れとともに誰もが知るものだ。

 このホピバルの迷宮を伝説級探索者が訪れたことはここ数十年はなかったとはいえ、パーリアも当然その存在を知っていた。

 万が一にも偽物であってはならない、とパーリアは食い入るように徽章を凝視しそれが本物であると確信したと思うと……

「ギ、ギルド長様あああああ!」

 突然脱兎のように二階への階段を駆け上がっていった。

「どうしたんだ?」

「あんたはもう少し伝説級の重さを感じるべきだと思うわ」

 呆れたようにノーラが笑う。

 伝説級探索者とは一国に匹敵すると公認された個人のようなものだ。

 いきなりふらりと国王が目の前に現れたら取り乱すのは当然であろう。

 松田がしているのはそれと同じだというのである。

「おいおい、いくらホピバルでも伝説級探索者がほいほい来るはずが……」

 四十代も半ばの大男が、面倒くさそうに二階から下りてきた。

 おそらくは若いころには優秀な探索者であったろう、研鑽の跡が見て取れる。

 今でも金級探索者程度の腕はありそうであった。

「ああ、あんたか? 伝説級の探索者っていうのは?」

「はあ、一応はそういうことになっています」

「おかしいなあ……現存の伝説級の探索者なら、俺が知らないはずがないんだが……」

「伝説級に認定されたのはつい先日のことですので」

「ん?」

 首を傾げるギルド長の横で、パーリアがひどく取り乱した様子でギルド長の上着の裾を引っ張っていた。

「ギルド長! ギルド長!」

「あんまり引っ張るなパーリア。伸びるだろう?」

「あれだけ言っておいたのに回状を見てなかったんですね! 先日デアフリンガー王国でワーゲンブルグ王国軍を個人で撃退した探索者が伝説級に認定されたと書いてあったでしょう!」

「…………いつの話だ?」

「確か三日前にはお渡ししたはずですよ?」

 心当たりがあったのであろう。ギルド長の顔色がみるみるうちに青くなっていった。

『溜飲が下がるとはこのことですわ。主様』

『性格が悪いぞ? クスコ』

 楽しそうに嗤うクスコと少なからずノーラとディアナも同じ反応をしている。普段と全く変わらないのはステラくらいだ。

「ここここ、これは失礼した。当ギルドに御用ですかな? マツダ殿」

 態度を一変させて笑顔を作るギルド長。

 正直いって似合わない。

 ある意味、腹芸をせずに生きてきた人なのだろうと思えば悪い人ではないと思うが。

「こちらで封印指定の迷宮があったと思いますが」

「――――我がホピバルには三つの迷宮がありますが、ひとつは封印指定がされております。どうしてそのことをご存知なのか――と聞くのは野暮ですな。伝説級探索者にはギルドの機密事項が開示されますから」

 ギルド長は勝手に納得してしまったが、松田がこのホピバルの迷宮を知ったのは探索者ギルドからの情報ではない。

「もちろん、どれだけ危険なのかは承知の上ですな?」

「時の流れを狂わせるパズルの迷宮ほどではないんじゃないですかね?」

「ああ、そういえばパズルを攻略されたのでしたか。かといってホピバルの迷宮がパズルより危険でないという保証はありません」

 そんな程度であれば最初から封印などしない。

「封印された迷宮を我々は運命の迷宮デスティニーと呼んでいます。探索者の技量とは関係ない別の何らかの力が働いている。ゆえに封印が決定されたいわくつきの迷宮なのです」

「探索者の技量とは関係ない別の力、ですか?」

『主様、万物を見通す眼イリスの力を封印に利用しているからですわ。迷宮内では常時監視中のようなものです』

『なるほど、それはきつい』

 いくら熟練の宝石級探索者であっても、迷宮内で常時緊張状態を維持するのは難しい。

 休憩をするときもあれば、治療や食事をとるときもあるだろう。

 それを正確に敵が熟知していれば、効果的な攻撃ができる。

 どの道を通り、いつ角を曲がるか。隊列がどうなっているか。誰と話しているか。

 そんな状態が全て筒抜けであるとすると、いくら探索者の技量が高くともどこかの時点で敗北してしまう。

 そしてついた綽名が運命の迷宮デスティニーというわけだ。

 なるほど理にかなっている。

「なかなか難しい迷宮ですが、相性が悪かったと諦めてもらいましょう」

 傲然と松田は意地の悪い笑みを浮かべた。

「やはり行くのですか?」

「私にも行かねばならない理由があるのです」

 実際のところ松田は今まで以上に力をつける必要がある。

 リアゴッドに狙われているということもあるが、もっとも大きな問題は覆面マスクとステラの本当のかかわりを知らなければ気が休まらない。

 前向きに問題を解決しようとしていることも松田にとっては大きな変化であろう。

「伝説級探索者様に閉ざす扉はございません。運命の迷宮デスティニーはこの町にはありません。我がギルドが管理するバースクリフ山の中腹に入口がございます」

 心の底から心配そうにギルド長は松田に対して頭を下げた。

「今、許可証を発行いたしましょう。どうかご無事にお戻りくださいますよう。私などが心配するのもおこがましいですが」

 どうやら本気で松田を心配してくれているようである。

 もともと人の好い男なのだろう。それ以上にギルドに伝わる運命の迷宮の情報がよほど恐ろしいものなのか。

「ありがとうございます」

「お父様なら何も問題なんてありません!」

「わふ!」

 そのとき松田も、ギルド長も誰もわからなかった。

 運命の迷宮に向かって、途轍もなく恐ろしい存在が迫っているということを。


 ホピバルの町からバースクリフ山まではおよそ一時間ほどの道のりである。

 バースクリフ山は標高五百メートルほどの山にすぎないが、山裾は長く中腹までにはそれなりの時間を必要とした。

「あれがギルドの警護かな?」

 大きく口を開いた洞窟の入り口に、大柄な二人の兵士が槍を手に立ち塞がっている。

 腕のほうは銀級というところだが、まああまり精鋭を暇な場所に張り付けておくこともできまい。

「ギルドから許可を得て参りました。伝説級探索者タケシ・マツダです」

「――――まずは許可証を」

 門番の兵士は胡乱な目で松田を見ると、右手を差し出した。

 いきなり伝説級探索者と言われても、松田のような優男をみれば簡単には納得できないのだろう。

 しかし、そのあたりの反応もギルド長はわかっていたようで、許可証には「ワーゲンブルグ王国軍を一人で撃退した間違いなく伝説級探索者だ。くれぐれも失礼のないように対応せよ」と書かれていた。

「ど、どうぞお通りください!」

 慌てて門番は背筋を伸ばして敬礼する。

「それじゃ失礼します。ご苦労様」

 何か門番が門柱の穴を操作している。おそらくは迷宮封印の結界を操作しているのだろう。

「さて、行くか」

 万物を見通す眼イリスの権能スキルは脅威だが、ゴーレムマスターとの相性は最悪だ。

 意気揚々と松田たちは運命の迷宮に足を踏み入れた。

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[気になる点] 運命の迷宮 ルビが「迷宮」にだけかかってて 運命のデスティニーになっている ちなみに3カ所
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