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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第四章
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第百五十話  イリスを求めて


 ささやかながらもにぎやかな宴会となった。年齢が近いせいかすぐにステラとマリーカは意気投合してはしゃぎあっている。

「よかった……本当によかった」

 父親は笑顔を浮かべながらも、すすりあげるように嗚咽を漏らしている。

 もう二度と戻ることはないと諦めかけていた家族の団欒。

 それが今、目の前のあることがうれしくてならない。

 そんな父親を母親が優しくなだめるように背中をさすっていた。

「それでお姉ちゃん、マツダとは結婚するの?」

「ぶううううううううっ!」

 拗ねてエールをがぶ飲みしていたノーラが、盛大に口からエールを噴き出した。

「な、な、な、なにをイッテルンダイ? マリーカ!」

「いい年齢としなんだから早く狙ってる男は捕まえないと! だいたいお姉ちゃん男なんて跪いて靴をお舐め! って言ってたのになんでそんな弱気なの?」

「村みたいな小さな世界で完結してたあのころとは違うんだよ! お願いだからこれ以上古傷を抉らないでおくれ!」

「でもさあ――これからステラなんて絶対に綺麗になるよ? そこの幼女ディアナはわからないけど」

「そこの幼女って私のことですか! 聞き捨てなりません!」

「だって貴女成長しないんでしょ?」

「くっ……これというのもお父様が……素体! 成熟した大人の素体さえ手に入れば!」

「ステラ綺麗になるですか? わふ」

「……頭のほうまでは成長するかわからないけどね」

「わふ?」

「まあ、馬鹿な娘ほど可愛いっていうし」

「マリーカ、あんたどんだけ猫を被ってたんだい……」

 あまりにおませなマリーカの物言いにノーラは改めて自分の目が節穴であったことを悟った。

「処女なんて二十はたちまで守ってたら骨とう品とか言ってたくせにさ……」

「それを言ったら戦争だろうが! 戦争しかないだろうが!」

「いだだだだだだだだだ!」

 ちぎれんばかりにノーラに頬を引っ張られて、マリーカは激痛に涙した。

 ある意味蛮勇にもほどがある、というかこの本性をよくも隠し通していられたものだと感心する松田であった。

 単にノーラがポンコツであった可能性もあるが。

 がっくりと肩を落としてこの世の終わりのような顔をしているノーラを見ると、その可能性のほうが高いかもしれない。

「ひどいよお姉ちゃん! 私はお姉ちゃんを心配していってるのに!」

「心配してるからって人の黒歴史を暴いていい理由にはならないんだよ!」

「せめてお肌の曲がり角前には男を捕まえておくべきでしょ!」

「わわ、私だってまだ捨てたもんじゃ……」

「このステラのぷにぷに肌を見てもそう言えるの?」

「わふ?」

 襟首をつかまれて、ぐっとノーラに突き出されたステラは何が起こったのかわからずに首をひねる。

 瑞々しいうるおいに満ちた肌、それでいて張りがあり、ゴムまりのような弾力感がある。ある一定の年齢を過ぎると失われ、二度と手には入らない若さの象徴であった。

「ううう……負けた」

 敗北を認め膝をつくノーラに、さすがに哀れに思ったのかディアナが声をかけた。

「お肌だけなら秘薬で若さを保つことはできますよ?」

「なんだって?」

「なんですって?」

「こいつは聞き捨てならないね」

「わふ?」

 なぜかマリーカとペリザードまで食いついてきたのは、やはり女性にとってスキンケアは年代を問わないということか。

 あまりの剣幕で詰め寄られたディアナは慌てて両手を振った。

「いいい、今はありませんよ? 材料があればお父様でも作れますし、ただ今の世界でもあの材料が手に入るかどうか……」

「宝石級探索者嘗めんな! どんな手段を使っても手に入れて見せる!」

「その意気よノーラ!」

「お姉ちゃん頑張って!」

「おう!」

 盛り上がる三人に、ディアナはこめかみを揉んで冷水を浴びせた。

「素材を集めるのに時間がかかりすぎたら本末転倒でしょう? 素材の場所が最初からわかっていればともかく、闇雲に探したとしても――」

 あれ? 何か思いついたような……

「それ、万物を見通す眼イリスじゃわからんのか?」

「お父様、それです!」

 魔法で隠蔽されていないあらゆるものを探知するイリスならば、素材を集めるなど造作もないだろう。

「マツダ…………!」

 きらきらと期待に満ちた視線を向けるノーラに松田は苦笑して答えた。

「次の目標は決まったかな」

 やることは山積みだ。ステラの故郷も本腰を入れて探す必要がある。人狼の里は強固な隠蔽魔法が施されているようだが、そのあたりはサーシャから情報の提供を受ける必要があるだろう。

「――――わふ?」

 松田の視線に気づいてステラはうれしそうに首を傾げる。

 なんの疑いもない信頼の瞳。いつの間にかこの娘に心の柔らかな部分をゆだねてしまっていたことに松田は気づいた。

 この娘を疑ってしまう自分がひどくつらい。

「いろいろとはっきりさせておかないとな…………」



「……今なんといった?」

「ははっ! ワーゲンブルグ王国の先遣隊二万がマツダ様と謎の剣士の襲撃を受け完全に壊滅、本隊は残兵を収容して撤収しました!」

「想像以上だな」

 デアフリンガー王国国王、フェッターケアンは呆れたように天を仰いだ。

 もはや松田の単体戦闘力は大国の武力に匹敵する。ワーゲンブルグ王国どころかデアフリンガー王国でも対抗することは難しいだろう。

 もちろん大国であるデアフリンガー王国には、そうした非常識な敵と対抗する手段がいくつか存在する。

 もっとも有望なのは伝説級探索者との伝手だ。デアフリンガー王国が懇意にしているのはロプノール迷宮の主であり管理者である大導師ロータスである。

 迷宮からほとんど出てこないし、国家間戦争には協力しない契約ではあるが、同じ伝説級の探索者や伝説級の妖魔と戦いになれば協力して戦うことになっている。

「先手を打っておいて正解だった」

 ハーレプストとラクシュミーの結婚式に訪れていたころの松田は、今ほどの戦力ではなかった。

 おそらくはパズルの迷宮を攻略して、伝説級に匹敵する力を得たと考えるべきであった。

 先日のヴィッテルスバッハ公国に続いて、決して小国とはいえないワーゲンブルグ王国を降したということは、各国もマツダを放置しておくことはできまい。

 味方として抱きこむか、敵対するかを選ばなくてはならないだろう。

 幸いデアフリンガー王国は先んじて友好関係を築くことができた。何よりハーレプストとラクシュミーがデアフリンガー国民である以上、松田があえて敵対するなど考えられない。

 だが――――

「邪魔に思う国も多いだろうな」

 伝説級は国家間のバランスさえ崩す存在である。

 一国に匹敵するその武力は、たった一人いればその国の戦力は単純に考えて倍に跳ね上がる。

 友好関係にある国はよいだろうが、例えばデアフリンガー王国と対立するリュッツォー王国などは気が気ではないだろう。

 仮に松田と友好関係を結ぼうとはしても、裏でその排除を画策するであろうことはフェッターケアンでなくてもわかる理屈であった。

 あの古の大魔法士ライドッグですら、その死因は複数の国家による暗殺であると言われているのだ。

「しかしまあ、あの人となりであれば打つ手もあるだろう」

 困ったことに伝説級の探索者は性格が破綻した者が多い。暗殺を恐れ迷宮に引きこもる最大の理由がそれだ。

 現に大導師ロータスもなんというか……あまり真っ当な性格ではない。


「犬はいい……犬は裏切らん。犬耳もいい。犬耳のかわいらしさこそ至高!」


 人間不信をこじらせて、犬属性の魔物を量産して迷宮の奥に引きこもっているマッドである。

 最初は主人に忠実な犬が好きだったはずが、犬人間や犬鳥、犬魚とどんどん方向性が明後日の方向へ逸れていってしまっている。

 ただ実力のほどは本物で、彼を討伐することはデアフリンガー王国が総力をあげても不可能であろう。

 そんな困った伝説級探索者と、松田は明らかに異なる。

 価値観が平凡であり、善良な精神の持ち主である松田であれば、信頼できる取引の相手足りうる。

 ゆえに迂闊に手を出して敵認定されるのが一番怖い。

「――――少々動いてみるか。貸しを作っておくにはいい相手だ。貸しの意味を理解してくれる相手は貴重だからな」

 恩を売っても、相手がそれを恩と認識してくれなければ意味がないのだ。

 そうした常識が通用する伝説級は意外と少なかった。

 まずはスキャパフロー王国を懐柔する。シェリーの件ではあちらに貸しがあるし、ワーゲンブルグ王国にお仕置きを済ませるまでよしみを通じておきたい相手だ。

 ある意味松田の存在はちょうどよい機会であった。

「――ネルト」

「はっ!」

 侍従の一人を呼びつけると、フェッターケアンは命じた。

「マツダ殿に使者を送り、今後の方針についてお聞きしろ。我が国はそれを全面的に支援する用意があると」

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