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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第一章
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第十四話 迷宮その3

書き溜め終了!今日から一日一回更新どこまで続くか頑張ります!

 『少しは頭が回るようですね。入り口は放棄して奥へ誘い込むつもりのようです』

 単に迎撃するだけなら狭い入り口で腕のたつ人間を並べるのが一番だ。

 精々四人程度しか並べない階段では数の利を生かすことができないからである。

 しかしラスネイルたちは間違っても自分たちの存在に気づかれるわけにはいかない以上、まず逃がさないことを優先させなければならなかった。

 瞬時にそうした決断ができるあたりは、ラスネイルもこと戦闘に関する限りはそれほど悪い指揮官ではないのだろう。

 「ま、逃がす気がないのはこちらも同じだけどな」

 あの性質の悪そうな領主に付け入る隙を与えるべきではないと、松田の勘が告げていた。

 気づいているのかいないのかわからないが、ディアナは一国に匹敵する伝説の秘宝であるし、松田のゴーレム運用も規格外というほかはない。

 気分的には六億円の当たった宝くじを財布に入れているようなものだ。

 一生かかっても使えきれない貯蓄を持ちながら、どこまでも富に飢え続けている権力者という人種を松田は知り尽くしていた。

 目をつけられたら尻の毛までむしられる。

 ノー残業DAYを設定して福利厚生に努めるのか、と思わせて実態はノー残業代DAYにしてしまうのが彼らのやり口なのだ。

 仕事量を減らさないのに、残業せずに定時で終わらせろと言われてもそんなこと現実にできるはずがない。

 そこまでして金が欲しいのか、と問われれば欲しいに決まってるだろうクズが! むしろもっとよこせというのが経営者の本音であろう。

 余計な事を思い出して松田が鬱になっていると、心配そうにステラが松田の手を握りしめてくれた。

 そんな癒しをくれるステラですら、心の底では信用を置くことができない歪んでしまった自分を松田は呪った。

 心配するな、とステラの髪を梳いておいて、松田はゴーレムに命令を下す。

 「投降するものは捕えろ。抵抗するなら殺して構わん」

 主の命令を受けて、前衛のゴーレムが足音も高く進み始める。

 念のためさらに十体のゴーレムを召喚して楔形の陣形を取らせると、松田は弓騎士ゴーレムとともにその中央に位置した。

 左右にはラスネイルの配下が奇襲を行うために隠れているが、そんなものはディアナの探索魔法によって筒抜けである。

 油断なく上空のガーゴイルが隠れた伏兵をいつでも迎撃できるように待機していた。

 「……あのエルフ野郎が……」

 ラスネイルは見覚えのあるゴーレムの姿に、やってきたのが松田であることを察した。

 同時に松田以外の戦力がないことも確認する。

 であるならばここで松田さえ殺すことができれば、ラスネイル一党の安全は確保されるはずであった。

 「おい」

 目で合図するのと同時に、岩の窪みに身を隠していた部下が雄たけびをあげて飛び出した。

 蛮声をあげて機先を制するのは商人を襲うには効果があるが、最初から襲われるのがわかっていた松田には通用しない。

 たちまち上空のガーゴイルから魔法が浴びせられ、ひるんだところを弓騎士の矢がとどめを刺した。

 「くそっ! てめえら死ぬ気で戦え! 俺達には後がねえんだ!」

 「おおおおおおっ!」

 逃げ場のない迷宮の中、ラスネイルたちが生きのびるためには松田を倒すしかなかった。

 あるいはステラを人質に取ることができれば……!

 ラスネイルは囮として部下を突撃させながら、ゴーレムの隙を伺った。

 ――――が、相手にならない。

 野盗が持つ質の悪い剣では、そもそもゴーレムの鎧に傷をつけることすら難しかった。

 タワーシールドの盾撃シールドバッシュで吹き飛ばされるもの。ゴーレムの剛剣で真っ二つにされるもの、弓騎士の矢で蜂の巣にされるもの。

 わずか数十秒の間にラスネイルの部下たちは潰滅していた。

 耳を含めた数名は両手を上げて抵抗の意思がないことを示す。どうせ死刑は免れないところだが、たとえ一日でも死ぬのは遅いほうがよいらしい。

 「うおおおおおおっ! 紫電フラッシュ連撃コンボ!」

 リジョンの町で唯一の銅級探索者ラスネイルは自身最強のスキルでゴーレムに斬りかかった。

 瞬きほどの間に加速したラスネイルは、先頭のゴーレムに渾身の三連撃を叩きこんだ。

 人間や魔物であれば、一撃で即死は免れないほどの威力である。

 そのうちのひとつが偶然にも装甲の隙間からゴーレムの心臓部へと届き、魔核を失ったゴーレムは薄紫の霧となって虚空へと消え去った。

 運にも助けられたとはいえ、さすがに銅級探索者に相応しい実力をラスネイルは身に着けていたのである。

 しかし戦いはラスネイルとゴーレムの一騎討ちではない。

 ゴーレムを倒した硬直時間を狙われて、ラスネイルの左肘と右肩に弓騎士の放った矢が突き刺さった。

 「ぐわああっ!」

 悲鳴を上げて激痛にのたうち回るラスネイルに、さらに追い討ちの矢が浴びせられたが、ごろごろと床を転がりまわってかろうじて避けることに成功する。

 それが実力ではなく運でしかないことを、ラスネイルは誰よりよくわかっていた。

 避けようと思って避けたわけではなく、適当に動いていたら、たまたま矢が当たらなかっただけだ。

 そう何度も運が続くわけがない。

 恐怖に突き動かされるままに、ラスネイルはジグザクに全速で走り回った。

 だがいくら逃げても地上へと続く十八階層への階段は、三体のゴーレムががっちりと封鎖していた。

 ラスネイルが助かるためには結局のところ松田を倒すしかないのだ。

 (くそが!――いったいどうすりゃいい?)

 おそらく松田と一対一に持ち込めば労せずラスネイルが勝つと思われる。

 ゴーレムの召喚以外、松田は何一つやっていない。

 攻撃魔法のひとつも使わないところを見ると、もしかしたら本当にゴーレム召喚以外できない可能性があった。

 問題はそのゴーレムを突破する術がラスネイルにはないということである。

 そんなときにラスネイルを支援すべき部下は一人残らず死ぬか松田の軍門に下っていた。

 (――――いや待てよ?)

 敵の敵は味方という言葉がある。何も松田やゴーレムを相手にするのはラスネイルの味方である必要はないではないか。

 どうせ後のない身である。わずかでも可能性があるのならその可能性に賭けるしかあるまい。

 最後の力を振り絞り、ラスネイルは最下層に続く巨大な鉄扉に体当たりして、その隙間に身体を躍らせた。


 『なるほどそういう手ですか』

 「どういう手だ?」

 一人でわかったようなことを言うディアナに松田は尋ねた。

 あの態度の悪い探索者が、下の階に逃げただけだと思ったのだが。

 『最下層にいるのは迷宮を管理する上位魔物であるのが普通です。上位魔物であれば私たちを倒すことができるかもしれない。毒を以て毒を制すつもりなのでしょう』

 もっとも上位魔物が狙うのは何も松田たちには限らない。ラスネイルも当然その対象となるのだが、そこは運を天に任せるということなのだろう。

 『どうなさいますか? このまま扉を封印して報告するという手もありますが』

 松田にわざわざラスネイルの思惑に付き合う義務はないのだ。

 このまま扉を開かないようにして、守備隊を呼ぶのも確かにひとつの手ではある。

 「いや、とどめを刺そう。あまり領主あいつに借りを作りたくない」

 『それでは主様のお望みのままに』

 「わふぅ! 今度はステラも頑張るです!」

 「ほどほどにな」

 癒し枠であるステラにはあまり戦闘して欲しくないが、上位魔物がどの程度のものか松田には想像もつかない。

 二体のゴーレムが進み出て、鉄扉をゆっくりと左右に押し広げていった。


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