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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第四章
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第百三十九話 裏切り

 連日持ちこまれる大量の魔石にクロードはやれやれ、とため息を吐いた。

「処理するこっちの身にもなってください」

「いったいいつになったらギルドは増員をよこすのよ!」

 腹立たし気にノーラは怒鳴る。

 クロードのような老人一人で処理しきれぬ量であることはわかっていた。

 このところ目録を作成するのに精いっぱいで、実質的な換金は行われていない。

 下手をすると一生遊んで暮らせるほどの大金になっているはずである。

 まさかクロードが着服するとは思っていないが、多少懐に入れるくらいはありうる話であった。

 先日対応を協議するためサーシャは隠れ里へと帰還したが、基本的に探索者側の人間であるノーラとしては、ここで一気にギルドが人員を投入してパズルの遺跡迷宮の稼働を既成事実化するべきであると思っている。

「といってもですね。こんな田舎の迷宮が復活した、なんてデアフリンガーの本部も半信半疑なんじゃないかい?」

「そうかしら……」

 確かに、大枚はたいて探索者を集めても解除できなかったパズルの封印が、たった一人の探索者によって解放されたと聞いてもにわかには信じられないかもしれない。

 しかし解放からおよそ一週間、すでに調達した魔石や秘宝の量は無視できぬものになっている。

 フィア・センチピードの魔石だけでも、このパズルの迷宮が相当に有望であることを示すには十分なはずだ。

 金に目ざといギルド幹部なら、とうの昔になんらかのアクションを起こしていてもおかしくない。

「ちょいと急がないとこっちも本部にクレームを入れるよ?」

「ま、待ってくれ! もう少ししたら先に換金用の資金が送られてくるはずですから!」

「全く、ここが田舎の街だからって、嘗めるのも大概にしときなよ?」

 もらったからといって使い道がないとはいえ、貸した金がなかなか返済されない不快感はいっしょである。

 唇を尖らせて不満そうなノーラの隣で、松田は微妙な笑みを浮かべたままクロードに対する疑念を募らせていた。

(半信半疑なのに金だけが届く? 今の口ぶりでは新たな職員が来るというわけでもなさそうだ。もしかして横流しでもするつもりか?)

 不審ではあるが、所詮は一介のギルド職員にすぎないクロードに、そんな販路があるとも思われなかった。

 魔石や秘宝は買い取ってくれる政府や商人がいるから価値があるのであって、倉庫で腐らせておくだけでは粗大ごみといっしょである。

 ところが矮小な一個人では、こうした政府や商人との継続的な取引は不可能だ。

 足元を見られ買いたたかれるのがオチである。

 かといってクロードの態度は明らかに不審であった。

召喚サモンゴーレム」

 クロードには聞き取られぬよう小声で松田は蟻型のゴーレムを召喚する。

 あとは悪いが裏を取らせてもらうだけだ。


 松田たちが退出してクロードはふう、とため息を吐いてどっかりと背もたれに体重を預けた。

「まさかこんなに素材が集まるとはなぁ」

 たかが一パーティーの収集できる素材などたかが知れていると思っていた。

 ところが数百体のゴーレムを同時有用する松田と、広域殲滅魔法を得意とするディアナを擁するパーティーの戦果は、常に百パーティーを上回る。

 あのフェイドルの迷宮で稼働していた探索者の数が三百をやっと超える程度であることを考えれば、松田たちの収集量がいかに非常識なものかわかる。

 それなりに支度金をワーゲンブルグ王国から頂いたクロードだが、さすがにそんな量を処理しきれるはずがなかった。

「早いとこ来てくれんかなあ」

 ワーゲンブルグ王国がこのパズルを占領してしまえば、あとはクロードがギルド長として腕を振るうことができる。

 これから始まるデアフリンガー王国との戦争のために、松田が持ってきてくれた魔石の数々は貴重な戦略物資となろう。

 もっとも戦争は莫大な金を消費する。

 悪いが主催国戦時徴収権を行使して、これまでの素材は没収させてもらうことになるだろう。

 ワーゲンブルグ王国の勝利が確定すればともかく、失う可能性も高いのに素直に報酬を払うとも思われない。

「あんまり怒らせたくない相手なんだがねえ……ちょいとデアフリンガー王国の紐付きなのが悪かった。運がないね」

 クロードにとって、デアフリンガー王国の探索者ギルドは仇敵である。

 奴らの得になることだけは絶対にやらないと誓うほどだ。

 そのデアフリンガー王国探索者ギルドは、当然のことながら王国最大手のクラウゼヴィッツ家と親交がある。

 そのクラウゼヴィッツ家とラクシュミーを通じて太いパイプのある松田は、クロードにとって煩わしい存在だった。

 最初からクロードが松田にそれほど敵対的であったわけではない。

 一生に一度あるかないかのチャンスと、目の前に転がされた利権が彼の判断を変えたのである。

「ワーゲンブルグから軍が派遣されてくるまで、そう時間はかからんだろう。というか、こんなに素材が来たらいつまでも隠しきれるもんじゃないわい」

 さすがにこれ以上素材が増えたらギルドの狭い倉庫には収まりきらなくなる。

 というよりすでに事務所の床までが侵食されており、早晩埋まってしまうことは明らかだった。

 そんな状態でもギルド職員が派遣されてこなければ、いくらノーラでも誤魔化すことはできないだろう。

 すでに松田はこちらに不審を感じていたように思える。

 遺された時間が少ないことはクロードもわかっていた。

「ま、最悪の場合は金だけもって逃げるさ」

 当座の資金だけでもクロードが一生かかっても稼げないような大金が渡されている。

 正直なところ、金をくれたワーゲンブルグ王国にもクロードは義理を感じていない。

 問題なのは彼の残り少ない余生をいかに充実した楽しいものにできるかということだ。

 しかしクロードも自覚していないのは、目の前にすぐ実現可能な夢をぶらさげられて諦められる人間は非常に少ないということだった。


「――――こりゃちょいと厄介なことになったかな」

「どうしたですか? わふ」

 ノーラからガードするつもりなのか、松田の右腕から離れようとしないステラが、松田の独り言を聞き返す。

「ちょっと急がなきゃならなくなったってことさ」

「わふ?」

 松田の攻略は期限付きである。

 少なくともサーシャがその気であることは間違いない。

 彼女の人狼の里がどれほどの戦力を有しているかわからないが、この迷宮の封印を施すことができる実力を考えれば、軽く国家規模に比類するであろう。

 とはいえ彼女であれば攻略まで猶予はもらえると思っていたが、欲に目がくらんだ国家が相手ではそうはいかない。

 もし戦争になればパズルの迷宮は国家に強制管理され、探索者もその支配下におかれる可能性が高かった。

 探索者ギルドは超国家機関として、その独立性を保障されているが、戦争という特殊な環境はその独立性を著しく制限してしまう。

 国家がその存亡をかけて戦うのだから、配慮している余裕などないということである。

 もちろん勝利することができれば、戦後の補償の問題にはなるが、負けたらほとんど泣き寝入りというのが常であった。

(それにあのクロードが一枚噛んでいるとはね)

 もっとも年金のような社会保障のない世界では、クロードのように金に目がくらむのも無理ないことなのかもしれない。

 あのヴィッテルスバッハ王国ですら五千近い軍勢を動員したことを考えれば、ワーゲンブルグ王国の動員兵力は確実に万を超すだろう。

 となれば動員、集結、補給、移動に半月程度の猶予はあるはずだ。

 仮に数千の部隊で先行するにしても、後詰の準備なしに突撃させることは考え難い。

 結果的にサーシャが戻るのと、ワーゲンブルグ王国が侵攻してくるのはほぼ同時期と松田は予想した。

 場合によっては、その両者と戦うことになる可能性がある。

 もしこのパズルの迷宮から絢爛たる七つの秘宝が見つかれば、松田はそれを譲る気は全くないからだった。

「お父様?」

 ステラとは違い、ある程度松田が現実的で冷徹な思考を巡らせていることを察したディアナは心配そうに松田を見つめた。

「大丈夫、いつものことさ」

 いつも世界は考えているほど優しくない。

 善良な人間でも、自分の利益のために相手を裏切るのは日常茶飯事だ。

 それでも、と松田は密かに感じていた。

 別にクロードに裏切られたからといって、どうでもいいことに変わりはない。

 しかしもしノーラやサーシャに裏切られたら、自分は今ほど平静でいられるだろうか。

 先日のハーレプストとラクシュミーの結婚以来、自分のなかで何かが変わったと思う。

 なぜかそれが恐ろしくて、無意識に松田は苦笑していた。

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