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アラフォー社畜のゴーレムマスター  作者: 高見 梁川
第一章
13/166

第十三話 迷宮その2

明日から一日一回投稿になります。

今後ともご愛読のほどよろしくお願い申し上げます!

 「――召喚サモンゴーレム!」

 騎士ゴーレムだけではなく、汎用性を持たせるために松田はガーゴイルを召喚した。

 迷宮内は天井が高いので制空権のないことに不安を覚えたのである。

 大きなタワーシールドを装備したゴーレム五体を前面に、弓騎士五体を後列、ガーゴイル五体で制空権を確保する。

 そして三体の騎士ゴーレムがバックアタックに備えており、よほどのことがなければ敵の攻撃を通すことはないであろうと思われた。

 『さすがは主様です。普通の魔法士であれば異なる種類のゴーレムを同時に運用することなどできません』

 どうやらこれも規格外のことであるようだ。

 なにせ松田のスキル、並列思考とゴーレムマスターがあって初めてゴーレムを集団として統率できるのである。

 個々人による召喚に頼っていたこれまでのゴーレム運用は、所詮優秀な一人の戦士の寄せ集めでしかなかった。

 ディアナが初めて目にするゴーレム運用に興奮するのも当然であった。

 並列思考による感覚共有で、松田はガーゴイルがいち早く敵を感知したことを知った。

 「――――蹂躙しろ」

 浅い階層の魔物にとって、松田の召喚したゴーレムはオーバーキル以外の何物でもなかった。

 吸血蝙蝠ヴァンパイアバットはガーゴイルの衝撃波で殲滅され、人間を相手には圧倒的な膂力を誇るはずのオークも、、守備特化の騎士ゴーレムにはあっさりとあしらわれる。

 そもそも弓騎士による矢の速射で、魔物が近づいてこれること自体が稀であった。

 「すごいです! やっぱりご主人様は最強です! わふ!」

 『昨日よりも制御があがっています。もしかしたら今日中にレベルアップするかもしれません』

 「やっぱり敵を倒すと経験値が入るのか?」

 子供のころに夢中にプレイしたドラ○エを思い出して松田はディアナに尋ねた。

 『――――経験値、というものが何かわかりませんがスキルの熟練度という解釈でよろしいでしょうか?』

 「熟練度っていうのとは違うなあ……ていうか熟練度、あるんだ」

 『どのようなスキル、魔法、武術にも熟練度はあります。主様のゴーレム制御があがっているのはもちろん熟練度の恩恵があるからでしょう』

 「それじゃあなんで熟練度じゃなくてレベルがあがるんだ?」

 スキルレベルがあがるじゃいかんのか?

 『ああ、そういう意味ではありません。迷宮では魂力の吸収度合が高いからです』

 「――魂力?」

 知らない言葉が出てきた。RPGでおなじみの用語は理解できる松田だが、魂力には聞き覚えがない。

 『万物には魂が宿っています。魂はいわば器で、修行や経験を通して人の器は向上します。ですがそれ以外にも魂あるものを殺した際に、相手の魂の一部を略奪する形で吸収することができます。特に迷宮ではその割合が格段に違うのです』

 「なるほど、その器の中身がスキルや魔力というわけだな」

 『その通りです。器がいかに大きくとも中身がなければ空虚なまま。無差別に人を殺していれば強くなれるというわけではない所以です』

 「なるほど、それはいい話だ。経験値のゲームシステムだと悪人のほうがレベルアップしやすいと思ってたんだよな」

 『主様はレベル1にして規格外の器を所持しておられます。レベルアップしてどこまで成長されるか、秘宝たる身の私でも期待を隠せません』

 神がくれたチートなのだから、レベル1のステータスがバグっているのは当然である。

 レベル1ですらそら恐ろしいのに、レベルアップしたらどうなるのか、松田自身にも想像がつかなかった。

 群がる魔物を鎧袖一触に蹴散らしながら、松田たちはたちまち十階層へと達した。

 このあたりから魔物も厄介な魅了や毒攻撃を使うものが増え始める。

 状態異常対策を怠っている探索者は、たいていの場合この十階層で死亡してしまうので、十階層を突破できるかどうかが新人との境界線であると言われていた。

 もっとも松田はそんなことは知らないし、頓着する必要もなかった。

 ビシッ!

 ドゴッ! ガスッ! ズバッ!

 「ぎゃあああああああああああああああっ!」

 ゴーレムに状態異常は効かないからである。麻痺はもちろん恐慌も魅了も効かない。もし効くとすればバジリスクの石化くらいだが、それだってガーゴイルには効かないだろう。

 魔物の立場からすれば洒落にならないチートぶりであった。


 ――――ポチリ


 「…………んっ?」


 だからといって松田が無敵であるということにはならないのが迷宮の恐ろしいところである。

 不吉な音とともに毒ガスが噴出した。

 もちろんゴーレムはなんの影響もないが、松田とステラはそうはいかない。

 「どわあああああっ! 回復魔法なんて使えねえぞ! キ、キ○リーはないのか?」

 松田が土魔法しか使えないという欠点が見事に露呈した。

 ディアナは四大の精霊魔法を全て使えるが、神聖魔法まで使うことはできない。松田の知るRPG的な表現をするならば、松田たちは回復系の僧侶がいないパーティーなのであった。

 『落ち着いてください主様。まずは状態解析ステイタスアナライズを!』

 「す、状態解析ステイタスアナライズ!」

 『次に錬金アルケミー調合ミックスを。解析が終了すれば最適化オプティミゼイションのレシピが出ます!』

 「あ、錬金アルケミー調合ミックス!」

 毒状態を解除する魔法が使えなくとも、毒を解毒する薬なら作れる。

 松田は苦しそうなステラに解毒剤を飲ませると、自分も喉を鳴らして解毒剤を呑み込んだ。

 幸いにして日本でお世話になっていた胃薬と違い、飲むと一瞬で効果があったのはやはりファンタジー世界であるからだろうか。

 「――――助かった」

 おそらくは神経毒であったのだろう。胸を締め付けられるような息苦しさと全身の倦怠感が消え去って松田は心からほっと溜息を吐いた。

 これが出血毒だと激痛のあまり冷静な判断ができていたかどうかも怪しい。

 生死の境が曖昧なファンタジー世界にいるという現実が、松田の肩にズシリと重くのしかかる。

 「ありがとうございます! グッっていうのがスッとなったです! さすがご主人様はすごいのです! わふ」

 純粋に尊敬のまなざしで見つめてくるステラに癒されるなあ、と松田は心のなかで感謝してしばしステラを撫で続けるのだった。

 「ディアナもありがとうな。おかげで助かったよ」

 『んひゃうううっ?』

 「えっ?」

 『こここ、これくりゃい絢爛たる秘宝のわらひには朝飯前の晩御飯なのれす、はい』

 「――――晩御飯?」

 ディアナの表現があまりに謎すぎて松田は頭をひねったが、結局その謎が解けることはなかった。




 「くそっ、退屈すぎるぜ」

 「まあまあ、おかげで助かってるじゃありませんか」

 酒を飲んで悪態をつくラスネイルを、耳は内心で罵倒しながらもなんとか宥めようと酒を注いだ。

 そもそも退屈であることが前提条件なのである。

 一日も保たずに頻繁に人が訪れるようでは、わざわざ迷宮に逃げこんだ意味がない。

 ラスネイル以外の上位探索者は、十五階層あたりを狩場にしていると知ったからこそ彼らは迷宮を逃げ場所に選んだのだから。

 「ふん、一パーティーくらい帰らなくとも誰も不思議に思いはしないさ。毎年何人の探索者が死んでると思っている?」

 このリジョンの町で、探索者の平均生存率は八割である。

 逆に言えば毎年二割の探索者が、迷宮で命を失っているということだ。

 これは新人に比べて、ベテランの生存率が向上することを考えても決して低く見積もることはできなかった。

 探索者として十年生きのびるということは、実は非常に難しいことなのである。

 逆にいえば、下層を攻略する探索者はそれなりに装備に金をかけ、生きのびるための手段を心得ていた。

 だからこそ、ラスネイルはこの機会にかつての同業者を獲物として殺し、略奪しようと考えているのだった。

 十九階層まで下りてくるとなれば、道中それなりに価値の高い魔石を溜めこんでいるはずである。

 装備品も当然野盗などとは比較にならない高価なものだ。

 商人を襲うほどではないが、実入りのいい相手であることは間違いない。

 追われる身となったラスネイルは、これまでギリギリのところで抑えられていた箍が完全に緩んでしまったようであった。

 「あと二週間は楽に過ごせるだけの食糧はあるんです。酒も。女がないのは――残念ですがね」

 「女の探索者でもくれば言うことはないな」

 「全くで」

 多少機嫌を直したラスネイルに、耳は頭を抱えたい思いであった。

 頭が悪くて操りやすいのはいいことだが、ガイアスのように集団を統率できるだけの器量が致命的に足りない。

 このままではいずれ内部分裂して配下たちが逃げ出すか、あるいはラスネイルの方が暗殺されてしまうだろう。

 自分も早いところ身の振り方を考えたほうがいいかもしれない。場合によってはラスネイルの次の頭領を担ぎ出すことも考えないと。

 問題は個人戦闘にかぎってはラスネイルの強さが本物であるということだ。

 正々堂々正面からだと、本当に一人で二十人を相手に勝利してしまう可能性があった。

 討伐部隊と戦う可能性がある以上、今はラスネイルのご機嫌を損なうわけにはいかなかった。

 (――やれやれ、迷宮を出たら金をもってトンずらした方が良さそうだ)

 耳は半ば仲間を見捨てて逃亡することを決意しかけていた。

 「頭領、足音が近づいてきます。数は少なくとも十人以上」

 「まさか! どうしてここがわかった!」

 入り口の階段付近で斥候にあたっていた部下の報告を聞いて、ラスネイルの余裕はたちまち吹き飛んだ。

 来たとしても精々一パーティー、通常探索者は複数のパーティーで共同することはしないため、当然のようにそう思い込んでいたのである。

 数が数だけに守備隊が探しに来たとは思えないが、ギルドの依頼で探索者が動員された可能性は否定できなかった。

 「いったん下がれ! 一人たりとも絶対に逃がすわけにはいかねえ!」

 迷宮内は袋のネズミである。ラスネイルたちがいたという情報を持ち帰らせるのは破滅と同義であった。

 「くそっ! ついてねえ!」

 あのすましたエルフがやってきて以来、ガイアスは殺されるわ、恥はかかせられるわ、ロクなことがない。

 まさにそのエルフがやってきたとまでは、神ならぬラスネイルには知る由もなかった。


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