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卒業


 卒業式が終わった。

 大袈裟な式次第と、大仰な台詞たち。

 ちょっぴり眠たい目をこすり、欠伸を噛み砕き、私は卒業した。


 後輩が事務的に作ったであろうリボンが、ブレザーの胸元でヒラヒラと靡く。

 丸めた卒業証書を入れた容器を片手に、校舎を見上げる。


 卒業って?

 どこかの安っぽい青春ドラマみたいな啜り泣きが聞こえる度、その問いは私の頭を掠めて行った。

 ただの通過点でしょ? むしろ、やっと古本を自分で売れるようになる訳だし、喜んで良いんじゃない? そんなにこの学校に思い入れがあるの?

 砂漠化が進み過ぎて、もう救いようのないことになっている校長の頭とか、古い講堂の天井とかを見上げ、私はその不思議に浸っていた。


「かりんー」


「……ひかる」


 ひかるが、大きく手を振ってやって来る。

 唯一の親友と言って過言でないくらいに、仲の良い友達。


「かりん、みんなで写真撮ろ?」


 こっちこっち、と私の手をひくひかる。

 グラウンドの桜の木の下、つぼみを付ける素振りも見せない桜の下で、みんながはしゃいでいた。


「おーい! かりん連れてきた!」


「ひかるー! かりんー! 早くー!」


「撮るよー!」


 何が楽しいのか、みんな嬉しそうに私たちを呼ぶ。

 飛びはねて手招きしている人、私たちに向かって叫んでいる人、……。


「行こ、かりん。呼んでるよ」


「……うん」


 手をひかれ、みんなの元に向かう。


「遅いよかりんー!」


「ごめん」


 たくさんのクラスメイトがじゃれついて来る。見ると、みんな目が真っ赤だった。


「ほら、撮るよー! こっちこっちー!」


 お調子者の男子の声がする。


「3、2、1、」


「待って待ってポーズどうする?!」


 パシャッ、と、シャッターを切った音。


「あー! もう、待ってって言ったのにー!」


「これはこれで良いだろ?! いっぱい撮れば良いんだからさ」


「うー……ポーズ、みんなでなんかやりたい!」


「ハート? ハート?」


「良いね! ハートの中央、まいたち行きなよ!」


「えー、恥ずかしいー! りおも来て!」


「えー、ちょっと!」


「いくぜー! はい、チーズ!」


 まとまりのないこのクラス。賑やかなこのクラス。

 卒業ってのは、集まる理由がなくなるってことだ。強制力が、なくなるってことだ。

 同窓会をしたって、全員集まれるかは分からない。ましてや、このテンションでなんて。


 この時間は、もう来ないんだ――。


「写真見せてー!」


「俺も見る!」


 みんながカメラの周りに集まる。


「良く撮れてんじゃん! ちゃんとハートになってる! って、かりんが泣いてる?」


 みんなが一斉にこっちを向く。


「え、あれ、あはは……」


「ちょっとかりん! 泣かないでよー! てか泣かせないでよー!」


 頬に触れると、涙が零れていた。


 みんなが泣いてる。

 みんなが笑ってる。


 この時間は、もう来ない。

 でも、きっと、これからも、私の中に生き続けるから。

 だから、しっかり見ておこう。

 今しか見れないこの景色を。


 涙を拭いて、私は言う。


「もう1枚! 次は……みんなでジャンプしたい!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 今しか見れない景色に気づいて良かったです。 私は高校の卒業式には、大事な大会が重なっていて出られなかったけど、その時は卒業証書貰うだけの大げさなイベントって思ってたけど、ずいぶんあとになって…
[一言] 卒業……っていうと、なんか最後とか妙にくさい言葉で終わりたくなっちゃうけど……上手だなぁって純粋に思いました笑 あと、校長の頭の砂漠化が後からジワジワ効いてきますww 凛々さんの表現とても…
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