話
いろいろと理解ができない。
この人、心がよめるって言わなかったか…?
それに、スカウト!? 俺に?何で!?何の!?
「あはは。パニックになるのはよくわかるよ。僕もそうだったからね。
でも、ここからは真面目な話だ。ちゃんと聞いてほしい。」
俺の目を真っすぐに見つめる、強い意志を持った瞳。蒼く、透き通った綺麗な色をしている。
その瞳を見た瞬間、俺の焦りや困惑は嘘だったかのように消えてなくなった。
そういえば、この人の目を見るのは初めてだったな。いつもは前髪で隠れているから。
なんて、どうでもいいことを考えられる程に。
「落ち着いたかい?ま、心がよめるからそんなことは解ってるんだけどね。
で、話を続けたいんだけど、良いかな?」
こくりと頷く。正直怖かったけど、聞いてみたいという好奇心のほうが強かった。
「この世にヒーローと呼ばれる人々がいるのは知っているね?」
話には聞いたことがある。生まれてから外には余り出たことがなく、8年前からコンビニに行くときくらいしか外に出なくなってしまった俺には縁遠い話だったけれど。
ヒーロー。それは優れた超能力者のみがなることを許される職業。
22世紀に入り、急に現れた所謂”怪奇現象”に世界の国々は対応できなかった。
結果、22世紀の終わりには世界全体の人口は三分の一まで減少。人類が滅亡するまであと50年もかからないといわれ、人々は恐怖のどん底にいた。
23世紀。日本のある農村で、不思議な力を持った子が産まれた。
その子が持つ力は”怪奇現象”に対抗することのできることが判明。人々はこの力を『超能力』と呼んだ。
その事例をきっかけに、世界各地でそういった力を持った子が産まれはじめ、現在、73%がそのような力を持った人間だとわかっている…みたいな感じだったか?
「うんうん。よくわかってるじゃないか。」
男が満足げに頷く。
あれ、でも…
「心をよむ、とか、そういう物理的に影響を与えないじゃない超能力を持っている人はいないんじゃ…?」
そう、そうなのだ。確か、前テレビで言っていた。だからこそ俺はこの人に心をよまれて驚いたんだ。
「ああ、そうだよ。そういうことになっているね。」
そういうことになっている?
「建前上、そういうことにしといたほうが都合が良いからね。」
わけがわからない。
「つまりね、精神的に作用する能力を持っている人間がいるってことが世間にばれたら大パニックになるんだよ。」
???
「例えば僕の場合、『心をよむことができる』というのは僕の能力の一部分でしかない。僕の能力の副産物と言ってもいいかもしれない。
僕の本当の能力は…おっと、これは言ったら駄目だった。とりあえず、精神的に作用する能力は非常に強力で、危険なものが多いんだ。というより、危険なものしか無い。このような超能力を持っている人間がいると世間に知られたらどうなる?当然、パニックになるだろうね。いつ自分の精神を弄られて殺されるかわからないんだから。だから、世界各国の首脳が話し合って、このことを隠蔽することに決めた。社会を混乱させないように。」
「そして世間に秘密を洩らさないために、国はそういう能力を持った人々を集めろ機関を作ったんだ。で、ここからが本題。その時に国が作った機関の一つに国立第0高校という高校があってね。君は精神に作用する方の超能力を持ってる。君に入学してほしいんだ。」
えっ…
「してほしい、という言い方は駄目だったね。君は入学しなくてはいけない。これは国としての命令だ。君に拒否権はない。一週間後、入学式がある。迎えに来るから、荷物をまとめておきなさい。あ、今までに僕が言ったことは他言禁止だからね。もし言ったときは…多分、抹殺されるんじゃないかなぁ。」
…。
「じゃあね☆」
いつのまにか、あの人は消えていた。