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ゲイン・グランデ戦記  作者: 躯慟縺珠
第一章 〈憎む少年〉
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第一話 〈血盟〉

誤字脱字の指摘、意見や感想お待ちしております。

 皇暦六一六年――

 年に一度行われて、多くの見物客がごった返していた〈闘技場(コロッセオ)〉。そこにかつての活気はなかった。


 現在、闘技場内に確認出来る人数は五人。そのどれもが大陸の制覇者たちである。


 ゲシュニア帝国の現帝王、ヘレナ・フォン・クルツ・シュトレイン。


 ミューテニア族国の現族長、リル・ザイ・ミューテニア。


 神聖国の現法皇、カイ・ロベルタ。


 グルト大陸を統べる精霊族代表、ミミ。


 レクト大陸の現魔王、ガズ。


 この五人が神聖国より知らされた〈それ(・・)〉によって、初めて手を取り合おうと結集したのだ。


「自己紹介など不要だとは思うのじゃが、呼び掛けた者が名乗らずに仕切るのはまずかろう……。私が神聖国の法皇、カイ・ロベルタじゃ。此度は話に応じてもらって感謝しておる」


 そう語り始めたカイは視線で隣にいる精霊族の女を見た。次に名乗る者を指定したのだ。そうすることで発起人たる立場を早々に固めようとした。


「アタシについても紹介は要らないでしょ? グルト大陸を預かることになってるミミよ。分からないことがあれば聞いてね」


 カイの右側に位置していたミミが名乗ったことにより、右回りに自己紹介をする流れになった。


「……ヘレナ・フォン・クルツ・シュトレイン」


「俺がミューテニア族長のリルだ。よろしくな!」


「我が最後とは……。まぁ良い。我こそが世界を統べるべき者、ガズだ。今回の話によっては、お前たちのことを守ってやらんこともない」


 各々の自己紹介が終わったのを確認し、カイが再度話し始めた。


「私たち神聖国は世界に対して〈神託〉、今では〈それ(・・)〉と呼ばれていたか……。〈それ(・・)〉を伝えたが、ここにおる者には全てを伝えておこう。まずないとは思うのじゃが〈それ(・・)〉については知っておるな?」


 カイが各自に目配せをし、意志を確認する。それに対して各々が肯定の相槌を送った。


「……〈それ(・・)〉の出現によって起こることを私たちは全て知っておった…………。じゃが、全てを伝えるのは世界を混乱を招くと判断し〈それ(・・)〉の内容になったのじゃ。故意に省いた肝心の内容じゃが――」


 世界に新たな大陸が出現し、混沌の時代へ堕ちる理由。それは世界を覆うように空中に浮かぶ大陸が出来るからであり、新大陸に住む存在も驚異的であったからだ。


 カイは大司教に重大な、それこそ世界に影響を与えかねない未来視のみを報告するよう伝えていた。そんな大司教が血相を変えて報告に来たため、遂に時が来たのだと思った。変革の時が来たと。そして聞いたのだ。新たなる大陸の出現を。新たなる敵の出現を。


 確定した未来では新たなる敵によるたった一回の攻撃で都市が壊滅していた。その後も主要な都市ばかりが破壊され、最終的にはグルト大陸が海に沈んでしまったのだ。


 そんな世界がこれからやって来る。こんな情報を流してしまっては敵の出現を待たずして、世界は破滅へと向かうだろう。


 終焉が近付く世界で強欲な人族と魔人族が大人しくしているはずがないのだ。故にカイは真実を隠すことにした。


 話を聞き終わった面々は情報を吟味していた。


 一人は新たなる強敵に笑みを浮かべて。


 他は無表情だったり、頭を抱えたり、眉間に皺を寄せていた。


「ひとつ、確認したいんだがよ……。その敵に反抗しているヤツらについては分からねぇのか? 俺としては敵がどんなに強大であろうと、やることは変わらねえ。真正面からぶつかるだけだぜ!」


 流石は世界に誇る蛮族の長だ。彼らはどれだけ絶望的であろうとも戦うことを止めないだろう。


「それについては我も同意せざるを得んな。人族にしては殊勝な心掛けだ。いや、人族にしておくには惜しい存在だな」


 人族を始め、その他の種族も下等生物として扱い、世界は自分たちに管理されるべきだと行動で示していた魔人族が人族に共感した。


 ここに魔王であるガズ以外の魔人がいたならば、即戦闘が始まっていただろう。それ程に今回のガズの発言は魔人として失言であり、意外な言葉だった。


 魔人族という種族は血気盛んであり、他種族を見下している。その長たる魔王が人族の発言にあろうことか共感したのだ。若い魔人であれば、この事実を隠すために話を聞いた者を殺していたはずだ。


「……お前ら脳筋二人で、現在発生している魔獣騒ぎを対処出来るか? 答えはノーだ。お前らにも既に経験があるはずだ。精鋭中の精鋭でさえ、今の魔獣に歯が立たないのをな……」


 相変わらずの無表情で淡々と語るヘレナ。


 彼女は近衛大隊を魔獣に食い散らかされている。その経験から今の自分では新たな敵どころか、魔獣一匹として倒せないことを痛い程学んだ。


 他の代表者も似たような経験をしていた。


 豪胆な発言をしたリルは襲い来る魔獣を死んだ仲間の壁で凌いでいる。それだけの数の仲間が既に死んでいったのだ。


 魔人族のガズは何度も魔獣に食い付かれた仲間を助けた。その多くは体の半分を食われてしまい、息を引き取っていった。助かった者もいるが次の戦闘には参加が出来ない傷を負ってしまっている。


 ミミは結界を張ることで被害を最小限に留めたが、多くの者の心に恐怖を刻みつけてしまった。ミミたちが張る結界の中なら襲われることはないと、盲信しなければ気が狂ってしまう程にだ。


 カイの神聖国に至っては神聖騎士団が機能しておらず、冒険者に魔獣の討伐を依頼している。


 神聖騎士団は押し寄せる魔獣たちの第一波によって壊滅的ダメージを負ってしまい、守護の任を独断で放棄し〈聖剣〉の使用者を必死に探している状態だ。


「無理に決まっている……。私たちは………………弱い。それを自覚せねばならない……」


 ヘレナは各代表者の顔を確認し、皆同じ経験をしていることを改めて認識させ、現実を見させた。そして自らに言い聞かせるように言葉を吐いたのだ。


「……アタシたちは戦うことは出来ない。でもアタシにはアナタたちの知らないことを知っているわ……。ねぇ、カイ。その敵の姿は分かるかしら?」


 誰もが己の力の無さを痛感している中、ミミがいち早く立ち直り、新たな道を模索し始める。


「うむ…………金色に輝く者や一切色のない者が見えたようじゃ……。そのような者たちに心当たりがおありか? ミミ殿」


「金色に輝く…………一撃で都市を破壊する……。間違いようがないね……。アタシもお伽話かと思っていたけれど、見えたのなら信じるしかないね。神話っていうお伽話を……。敵は神様よ」


 ミミはこの中でも最高齢であり世界中で〈歴史の生き字引〉と呼ばれている。自身の年齢を数え始めてから四○○年を過ぎたらしく、歴史については六○○年程前のことから知っていた。


 そんなミミが敵は神話に登場する神たちだと言ったのだ。この場の誰もが言葉を失い、そして正しく敵を認識した。


「アタシたちは神と戦わなければならない。そうなると伝説の存在でなければ相手にならないよ? 伝説についての伝承は各地に根付いているはずだから知ってるよね?」


 ミミの言っている伝説の伝承とは、この世界に生まれた者なら誰しもが小さい頃に聞くものだ。



 ――神々を殺し、喰らい、滅ぼした《伝説の勇者》


 ――彼の者は猛り狂う刃なり


 ――彼の者は鋼の如き盾なり


 ――彼の者は解き放つ杖なり


 ――彼の者は不浄なる口なり


 ――彼の者は際限なき目なり



「ミミ殿、そなたがそう言うたのじゃ。気がついておるのじゃろ? そんな伝説の話を裏付けるような存在にの」


 神々を殺し尽くした者たちの伝説は小さな子どもたちに大人気な話だ。その話は壮絶な戦いの連続で子どもたちの探究心を、好奇心を大いにくすぐった。


 そんな話にはこの世界を表すかのような人物が描かれている。


 剣を携え、神々に斬りかかる姿は騎士然とした者。


 己の鍛え上げた肉体で仲間を守る者。


 魔法を解き明かし、自由自在に放つ者。


 体、武器、魔法ら全てを食い千切る者。


 一目見た魔法を瞬時に覚え、同じ魔法を放つ者。


 そんな者たちが描かれている。


 これは現在のシュテイリッヒ大陸、ミューテニア大陸、ライネリア大陸、レクト大陸、グルト大陸を表したものと言われている。


「アタシは知識として知っていただけ。カイは今回の招集をする前に気付いていたのよね? そうじゃなければアタシたちを呼ばなかったはずだから」


「その通りじゃよ……。私は未来視を聞いた時に悟っていたのじゃ……こうなることをな。世界が、皆がここまで追い込まれることを知っておった……。すまなかった……。信じたくなかったのだ……こんな未来は……」


 カイは〈聖遺物(アーティファクト)〉を多く保管している聖教の法皇だ。そんな重要な人物が普通な訳がない。


 法皇は前法皇が死ぬ直前に選定される。そして死んだ前法皇からある聖遺物を受け継ぐ。


 その聖遺物によって非凡なる知能を宿すと言われている。


 その知能はもはや未来を言い当てられる程のもので、些細な情報でさえ多くの未来を予測してしまうらしい。


 人間の予測を遥かに超えた情報量のため脳にダメージが出る例が過去に何度もあった。それ故に法皇は自ら幽閉されることで脳が焼き切れるのを防いでいるのだ。


 そんなカイが導き出した予測は、既に伝説の通りに人員が揃いつつあるというものだった。


「……ミミ様とカイの話をリル用に要約するとだ。新しい大陸ってのは神々が作り出した大陸で、直接神々が喧嘩を吹っかけてくる。そして伝説に登場する人物も実は既に揃っていた。だからカイはこの席を設けたと…………これで分かるかしら? リル」


 ヘレナが話に付いて来れず、視線が漂っていたリルを呼び戻す。


 今の説明で戻ってきたリルはニヤリと笑みを浮かべながら答えた。


「だから正面から殴り返せばいいんだろ!」


「ふむ、その気持ちは分かるのだが、もう少し考えてみてはどうだね?」


「ガズの旦那までそう言うのかよ……仕方ねえな……。俺は考えるのは性に合わねえ。だから頭の良さそうな姉ちゃんに任せるわ!」


「…………もしかして私のことか?」


「頼んだぜ!! ハハハハハハ」


「……悪くない……悪くないわね……。ひとまず話を元に戻しましょう。それで伝説の人物は何処の誰なの? だいたい検討は付くけれど」


 ヘレナに尋ねられたカイが皆の顔を一周見て回り、口を開いた。


 神聖国の剣技の祭典である〈聖剣祭〉に突如現れた、孤高の天才剣術師。


 帝国の〈魔導技術〉を一人で何十年分も進めた天才魔導技師。


 精霊族の《動く書架》と呼ばれる天才魔術師。


 魔人族の歴史において最も不浄な瘴気を纏って生まれた天災魔人。


 そしてミューテニア族を統べる長。


 それがカイの導き出した伝説の生まれ変わりだった。


「ハハハハハハハハ! 俺も入っていたか!!」


「…………思った通りの結果だったわ……」


「アタシも思った通りね」


「やはり我の愛するあの娘であったか……はやく帰って教えてやりたいわ」


 カイの人物予測を聞いた皆はリル以外、納得してしまった。それ程までの異端な者たちなのだ。


「私たちは彼らの活動を支援せねばならんじゃろう。既に大陸間での戦闘は皆が自粛しておるが、どうじゃ? これを機に不戦協定を結ばぬか?」


 この申し出に異論がある者などいないだろう。


「反対の者はおらぬな? ではこれより私たちは互いを傷付ける一切の戦闘行為を行なってはならん。ミミ殿、後で構わぬので誓約魔法を頼みます。そして、今回の本題じゃがな……彼らの活動を支援するための無国籍組織を立ち上げたいのじゃ」


「おう! いいぜ! この血に誓ってやるよ!!」


「……前から疑問だった。あなたたちミューテニア族はなんで血に誓うの?」


「それはな、姉ちゃん! 俺の血には今まで死んでいった者たちの想いがあるからだ! そして敵へ向かっていく時に、同じ敵へ向かう仲間たちの想いもな!」


 道半ばで散ってしまった仲間の無念や執念が、一緒に戦う仲間の強い意志が血に宿る。それがミューテニア族の屈強さの秘密だ。簡単に諦めることは許されない。簡単に倒れることは許されない。この血に宿った仲間たちの想いが許さない。そんな想いを持って戦いに挑むのがミューテニア族だった。


「…………なるほど」


 無表情を貫いていたヘレナが初めて眉間に皺を寄せ、表情を崩した。


「……私たちは互いに多くの血を流し合ってきた。その犠牲になった者たちの想い、これから神へと挑戦する中で流れる血もある。そんな者たちの想いも背負わなければならない……素敵な考え方ね……血によって繋がる絆…………そうね。〈血盟〉なんて名前はどうかしら?」


「そうだ! 姉ちゃん! 俺たちが互いに流しあった血は俺たちの信頼の証となり、これから魔獣なり神なりの敵で流れる血は、俺たちが負けてはならない、倒れてはならない、諦めてはならない信念の証だ!!!」


 この世界で初となる無国籍組織として〈血盟〉という組織が結成された。この組織は後に〈血の契り〉と呼ばれる新組織へと生まれ変わる。

◆魔法について 第一項

 魔法を使うには〈魔力〉が必要である。

 魔力については全てが解明されている訳ではないが、

 大気中に漂う〈魔素〉と言う物質を体内に取り込み、

 何日間か精練してようやく魔力として使用できるようになるとされている。


 魔素が世界から無くなってしまうと魔法が使えなくなると思われており、

 実際に外壁と内壁共に刻紋を行い、

 意味のない魔法を半永久的に行使する実験室にて魔法が使えるかを検証した。

 結果、周りに魔素が無くなったとしても個人が保持している魔力分だけは使えたという。

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