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序章 -後編-

ここまででは感想とかないかもですが、

感想や甘辛、両方のご意見お待ちしております。

 樹暦四四五年、春祭り――

 精霊族による新年を祝う祭りが開催されていた。


 宴席には精霊族の他にも子鬼(ゴブリン)族や人狼(ワーウルフ)族など、様々な種族が参加している。ただし、人族や魔人族を含まない所謂(いわゆる)〈亜人族〉と呼ばれる者たちしかいない。


 ここは人族や魔人族に一方的に狩られるだけだった亜人族のみで結託し、未開の土地を開拓して作り上げてきた大陸。それが〈グルト大陸〉だ。


 亜人族のみと言っても人族とは敵対している訳ではなく、非常に友好的な関係を保っている。対して魔人族とは完全に敵対しており、絶えず魔人たちと小規模な戦闘が繰り返されている。


 ここは精霊族の集落であり大陸の中央に位置している。つまり、ここまでは魔人たちも侵攻して来ていない。逆に外縁部は常に緊張状態にあり、定期的に内陸部の戦闘部隊と総入れ替えをしている。でなければこれ程まで侵攻を防ぎ続けるのは無理だっただろう。相手はあの魔人たちである。体格も、体力も、知力も、魔力も亜人族とは桁違いに高い。そして、何より亜人族には〈権能持ち〉が滅多に生まれない。魔人族は権能を持たずに生まれるほうが珍しい。この差は絶望的だ。


 そんな絶望的なまでの力の差を補っているのは一人の精霊族の娘の存在だ。



 ――《動く書架》



 世界中にその名で知られる精霊族の娘だ。名前はココ。高い魔力を持つことで有名な家に生まれ、その中でもずば抜けた知力を持っていた。その知力によって〈書架〉と呼ばれる〈聖遺物(アーティファクト)〉に記載されている魔法を全て修得している。新しく掲載された魔法があると、〈伝言〉が届くようになっており、すぐに閲覧しに行くほど魔法に貪欲な少女だ。


 閲覧と言っても書架があるのは神聖国の神都ヴェスパブールの大聖堂で、通常なら三○日程かけて移動する距離だ。しかしココは〈次元湾曲〉と〈異空間〉、〈空間縮小〉という一つ一つが古代の魔法のそれを用いて、〈空間移動〉と名付けられた魔法を作り出した。この魔法により一瞬で書架が安置されている部屋へ移動していた。


 そんな非常識なココへ〈氏族会〉が老婆心から開催した今回の祭りでは、普段は雲の上の存在のようなココを一目でも見ようと多くの亜人たちが集まった。そして祭りの間は無礼講とのことで、ココの周りはごった返しになっていた。


「ココ様! 握手して下さい!」「かわいい!」「私はココ様にあの時救われて以来……」「ココ様! これウマいぞ! 食え!」


 こんな風に囲まれたことがなかったココは完全に肉体と精神が分離している状態。放心状態になり、フリーズしていた。今になって分かることだが、これが待ち望んでいた状況だったのだろう。無防備になっているココ。周りには亜人たちが溢れ、ココの姿が視認しにくい。そもそも数が多過ぎて大まかにしか状況を把握出来なかった。


 異変は急に起こったのだ。


 ココのすぐ後ろにいた子鬼が奇怪な声を上げたのだが、雑多なココへの話し声に紛れ込んでしまった。


 子鬼の体が倍程まで膨張したかと思うと、黒い一センチ程の球体まで収縮したのだ。そして地面に落ち、全てに光を吸い込み、艶のない真っ黒な空間が出来上がる。


 〈悪魔の門〉と呼ばれている〈空間移動〉とは異なる瞬間移動魔法だ。違いは術者が生きられるか死ぬかの違いしかない。


 そんな瞬間移動用の転移陣から姿を現したのは魔人たちであった。



   ・・・



 メギス暦六四○年――

 第三魔王の時代に変わり、歴史上で最も恐ろしい権能持ちの娘が生まれた。


 記録されている限りで最も恐ろしかった権能は、触れたものを問答無用で溶かす能力だ。そんな者がいたらしいが、今回は複数の権能を持っていた。


 世界的に権能についてはあまり調べられておらず、持っていれば幸運だなというくらいの認識しかない。しかし、権能の効果は絶大であり、人工的に権能を発現出来ないかが研究されている。だが、どれだけ研究を重ねても発現させることが出来ていない。


 そんな権能を一度に複数持つというのは世界でも初めてのことであり、魔族たちは大いに盛り上がった。



 ――ついに世界を手に入れられるかも知れない



 魔族たちがこう思ってしまっても仕方がない程の権能持ちの娘。現魔王の曾孫にあたり、名前をヨミと名付けられた。


 ヨミの生まれ持った能力は触れたものを腐食させ、血液などの体液はあらゆる物を溶かし、吐く息は他人の精神を掻き乱した。しかし、血の繋がりのある者には能力を発揮しなかった。ただ一つ、欠陥があり、母の母乳は異物と判定されたのか口の中に入った瞬間に蒸発し、栄養を与えることが出来ないのだ。それ自体は魔族という種族のアドバンテージで補えるのだが、この先食べ物の美味しさに気付けないまま大人になっていくのは、あまりにも可哀想だと家族は嘆いていた。


 そんなヨミのこの先について、神妙な面持ちで家族会議を行っていた席に一人の男が歩み寄る。


 最初にヨミを抱き上げ、腐り落ちていく手で母親のレトに渡した男だ。腕の治療を終えたために、ある情報を伝えに来たと言う。


 男によると、似たような能力を持っている者がいるらしい。その者は現在、何不自由なく生活し、嫁を貰い、子を持ったと噂で聞いたと。


 その情報に一同は安堵し、改めて生まれたばかりのヨミを眺めた。



   ・・・



 皇暦六一六年二月初旬――

 聖教のとある部屋に隠されている聖遺物である〈魅鏡(みかがみ)〉と呼ばれる物がある。


 魅鏡はいくつもある未来の内、確定した未来を映し出す鏡だ。そして、一度でも鏡を見てしまうと他を見る視力を失ってしまう。一生、鏡に魅せられるのだ。


 他人の見たくもない未来を延々と眺め続けるため、一月程で気が狂い始める。そんな強力な聖遺物を扱うために聖教は、何かと理由を付けて、村から若い娘を連れてきていた。その娘にあろうことか魅鏡を見続ける役を押し付けていたのだ。その娘たちから得た未来を、神からの言葉〈神託〉として世界へ届けているなど、聖教内部でも一部の人間しか知らない。


 今日も変わらず、いつも通りの誰が誰と結婚するなどの未来視が報告されていた。だが、急に娘が口を閉ざし、目を必死に隠そうとしているのに側仕えが気付く。そして驚愕の未来を語り始めた。


「……ぃゃ……ぃゃょ……。こんなの見たくない……。お願いホルヘ! 今すぐ私を殺して! こんな未来は見たくない! 知りたくないわ! あぁ、あぁ……ぃや……いやああああああああ!」


「ロイズ! お願い! 何を見たの! 教えてくれたら、司祭様に掛け合ってみるから! お願い、ロイズ!」


 その後、ロイズと呼ばれている娘は泣きながら淡々と見た未来を語った。その内容を一言一句間違わぬように紙へ書き記し、司祭へと未来を綴った紙は渡された。


「な、なんということだ……」


 その内容は聖教の都合の良いように脚色され、世界に広められた。



 ――六つ目の大陸が現れる時、世界は混沌の時代へと堕ちる



 〈それ(・・)〉が現れるまで、どれ程時間があるのかが分からないため、全てを伝えてはいない。


 〈それ(・・)〉と共にやって来る〈彼ら(・・)〉の存在を。



   ・・・



 〈それ(・・)〉が伝えられてから三月が経とうとしていた時、未来への一歩が踏み出された。


 今まで温厚だった魔獣たちが世界中で暴れ始めたのである。


 すぐに討伐隊(パーティー)が各地で編成され、暴走している魔獣は狩り尽くされるかと思われた。だが、実際に借り尽くされたのは討伐隊だった。


 これが〈それ(・・)〉の始まりではと噂が流れ始めるのは、誰にも止められなかった。止めようと考える前に魔獣たちから逃げ隠れるので精一杯だった。


 各大陸は自身の大陸内の問題解決に手が塞がっており、大陸同士で散発的に発生していた戦闘は、魔獣相手の物へと切り替わってしまっていた。


 次第に国々の持つ兵力も疲労などの要因で、魔獣への対抗力が落ちていった。


 そんな世界中で敗戦に次ぐ敗戦を重ねる状況になって、ようやく聖教が新たな神託を伝播した。



 ――混沌の時代を切り拓く、世界の導き手、五人が集いし時、新たなる光現る



 この信託を皮切りに各大陸間で不戦協定が交わされた。《世界の導き手》とは各大陸の代表者を指し、《五人が集いし時》とはその代表者たちが集まることを意味していたからだ。


 その後、各大陸の代表が集まり、《互いに戦って流した血が我らの信頼の証》、《魔獣の暴走により流れた血は我らの信念の証》という誓いを立て、〈血の契り〉と後に呼ばれる組織が結成された。


 血の契りによって《新たなる光》が提示されるまで一日と経たなかった。それは(ひとえ)に各代表者は既に分かっていたのだ。この世界規模の事態を収めるにはどうするべきか。



 それは酷く単純で、あまりにも規格外な方法だった。



 各大陸から最強の者を集めた、たった五人だけの討伐隊。



 それは《伝説の体現者(ゲイン・グランデ)》と呼ばれる討伐隊だった。

次話以降より、各重要そうな単語についての設定や解説を、

この後書きに掲載していきます。

※ただし順不同です……。

 ある程度ストックが溜まったら、

 設定資料集として別にするかもです。

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