転校生08
来期の裏実力試験合格候補者。
そんな形で転入してくる生徒がいるなんて。
白斗は、ある種の焦りを感じていた。
彼女も汚い社会の優劣に溶け込んだ手の届かない場所にいるんだ……。
たとえ、恋をしても。
また何かが隔てていくんだ。
「では、今から転入生の交流会とする。
一時間足らずだが、瀬亜、大丈夫だな?」
「はい。皆さんもこのような時間を作っていただきありがとうございますね」
転校生が丁寧なおじぎをすると、また歓声があがった。アイドルでもきたかのような騒がしさだった。
こういうのが現実におこるんだな。
クラスメイトたちは互いの興奮を互いに高めあい、自分たちにとって喜ばしい楽しいシーンを作り上げている。
だから、ミラクルなイベントを起こして団結を強めるとは教師が求めるものとはきっとこれだ。
「学級委員ー、まとめようぜ~」
騒がしさをさえぎるように慎が学級委員に呼び掛ける。すると、真理奈が口に手をあて、
「では!とりあえず一問一答の質問タイムにしますので壁がわの人から瀬亜さんになにか質問をしてもらえますか?」
「はいっ、じゃ、俺な!」
「山中くん」
「瀬亜さん、ニックネームはなににする?」
「に、ニックネームですか?」
瀬亜さんがうーんと考え込んだ。
「皆さんで考えて欲しいなって……」
彼女が付け加えると、クラスメイトたちが次々に「ミス・東光」や「美少女ヒロイン」「瀬亜姫」、「瀬亜さま」と、ラノベのような二つ名を言い出した。
これは女子が嫉妬するなと思いきや、女子のグループは「瀬亜姫かわいい!」とかメロメロだ。
こうなるのも、慎ましい態度や奥ゆかしさに隠れる美貌が生み出す奇跡だなと、白斗は思った。
「じゃあこうしない?
セアちゃん!」
一人の女子がこういうとみんなが「セアちゃん」「セアちゃんいいね」とまたざわざわ。
「それでいい?」
その子が振り返って聞くと……
「では……
セアちゃんで!」
セアちゃんは、恐縮しつつも完璧なスマイルを返していた。