動きだした現実(リアル)05
またある日。
今日は朝から騒がしいなと雰囲気で白斗は感じた。
「おはよう、白斗」
肩にカバンをかっこよく背負って悠々と白斗の席まであいさつしにきてくれた幼なじみの朝原慎。
なにかといつも一緒にいるよき友だ。
「慎どうした?」
「きけ!朗報だ」
すっと俺の耳元に手をやると、
「今日、転校生がくるらしいー……
それがなあんと!ド級の美人らしい……!」
「……なるほど、ラノベみたいな展開だけど。
ここのクラスなのか?」
「ああ多分な。すごい朗報じゃんろ?」
慎は爽やかな顔で偉そうに言った。
いとこが何かなのか?
と、俺は不覚にも聞いてみたくなってしまった。
でもこの四組に入るレベルなら、多分さほど賢くないはずだ。
まず、転校したばかりでいきなり特別学科に入れるはずがない。
裏実力試験を受ける敵でなければ特に何とも思わない。
だから俺には関係ないといっていい。
ガラリ
「席につけ」
私立らしからん態度の先生が、勢いよくドアを滑らせた。キレのある動きだなーほんと、と言いながら慎は自分の席に帰っていった。
俺は転校生が来るというのに、連日の夢のせいでよく眠れずぐったりと机に伏せた。
「……くん?……つな……くん?」
だれ?
だれなんだ?
「綱牙士くん……」
あれ……九十田……?
「どうしちゃったの?
ずっとうなされてたわよ?」
「頭がぐらぐらする……」
「まだ寝てなきゃダメよ」
保健室らしいところで俺は寝かされていた。
視界には無造作に結わえられた三つ編みが映る。
何があったんだっけ?
直前にしていたことを思い出せない不信感が身体を襲った。
「今日は……何月何日だ?」
「どうしたの急に」
九十田が明らかに変な人を見る目で俺を見た。
あ……そっか。と、俺は思った。
今までが悪夢だったんだ。
俺ずいぶん長い夢見てたんだな。
「綱牙士くん……」
「ん?」
九十田の口元がグニャリと歪んだ。
「今日は五月二十日よ」
「綱牙士!聞いていたか?」
「うああぁ…!はあっ、は、はい?」
たくさんの顔が俺を見ていた。九割が哀れみの眼差しだったが。
「はい?じゃねえ!!
綱牙士が聞いてねえってのは……
まさかお前らは聞いてたよなあ!?」
話がわけわからん、だ。
お前らと呼称された四組の生徒たちは背筋をピーンと伸ばし、ガクガク激しく頷いている。
三秒後、俺に一斉に非難の視線が注ぎ込まれた。
俺ら巻き込むな!!と物語る三十近い砲弾で俺は居眠りをしてしまったことに気づいた。(ようやく)
「聞いていませんで「聞いていませんでしたとは言わせねーぞ」し……」
言い訳せずに正直に言おうとしたところまでさえ、言わせてもらえなかった……。
恐ろしい恐ろしい先生が顔面に怒りを貼り付けて俺を睨み付ける。おおこわい……。
そんな先生の横に視線を向けると、いつの間に女の子がたっていた。
(俺が寝てただけだったな……)
また面倒ごとで裏実力試験の優先順位がさがるのも困る。
心のなかがため息いっぱいになったその時。
教壇に淑やかにひかえていた女の子が、すっと一歩前にふみだした。
先生が何か注意しようとしたがあまりのオーラの一歩に体が止まっている、そしてクラスのみんなの様子が先生が一喝したときより引き締まった。
そして何より転校生には興味や好奇心の眼差しが集まるのが普通だが、誰もそんな空気を作ろうとしなかった。
だってそれがあまりにも可憐で繊細で頼りなさそうな美少女だったから……。
「さっきご紹介いただきました、瀬亜 羽美です。
この学校の、来期テスト(パセレクト)での合格候補生として転入を認めてもらいました。
ふつつか者ですが……」
パセレクト合格候補生……!?
なんでそんな条件で……!
そうか……候補生だからうちのクラスなんだ!
長いセリフを噛まず一息もつかず歯切れよく言い切った彼女は最後に、
「よろしくお願いします」
という言葉とともにアイドルよりも、天使よりも、女神よりも素晴らしい笑顔で微笑んだ。
転校生はかっこよかったり、かわいかったり何かと騒がれるものだ。それは2次元の話で結局転校生は普通だ。
しかし、ここまで別格だとジンクスさえ打ち破りそうな力が秘められているように俺には思えた。
「かわいーー!!」
「うおおお~」
「羽美ちゃんめっちゃ美人だ~」
「足きれいっすご」
聞き取れないくらい教室が興奮の歓喜にみちあふれ称賛の言葉が次々とんだ。
俺はパセレクトつながりでなければ興味なしだが、きっとパセレクトが関係なくても思ったことは同じだろう。
「なんて不思議な子なんだ……」
まるで海のような神秘さ。
深海の青が瞳の奥で揺れた。
俺は生まれてはじめて、恋をした。
またまたまた新キャラです。
多いんだよ!と、一括したくなりますよね、申し訳ないです。
そろそろメインキャストが出揃います。